back to top

材料科学<p></p>分野において真にイノベイティブな研究を行い、飛躍的な成果を挙げた世界のトップ研究者に毎年NIMS Awardを授与しています。


NIMS Award 2024 受賞者決定!

本年のNIMS Awardは
「実用化の発端となり、世の中を変えるようなインパクトのある成果をあげた」基礎・基盤技術分野の研究の中から、
「透過電子顕微鏡法の革新による材料界面研究への貢献」の功績により幾原雄一特別研究教授、そして
「非接触原子間力顕微鏡法の革新によるナノ材料研究への貢献」の功績によりFranz J. Giessibl教授の2名を選出いたしました。

NIMS Award 2024の授賞式及び受賞記念講演は、
11月6日(水)につくば国際会議場において開催する「NIMS Award Symposium 2024」にて行う予定です。

【電子顕微鏡・粒界・界面】

透過電子顕微鏡法の革新による材料界面研究への貢献

幾原 雄一 教授

特別研究教授
東京大学大学院工学系研究科
総合研究機構

【原子間力顕微鏡】

非接触原子間力顕微鏡法の革新によるナノ材料研究への貢献

Prof. Franz J Giessibl

Chair for Quantum Nanoscience
Institute of Experimental and Applied Physics
University of Regensburg, Germany

研究成果の概要と業績の学術界・産業界への波及

幾原 雄一 教授


【研究成果の名称】

透過電子顕微鏡法の革新による材料界面研究への貢献

【研究成果の概要】
幾原雄一氏は、透過電子顕微鏡法(TEM)(1)を用いた材料解析・評価法の可能性を拡大する装置・手法を開発しながら、長年にわたり、粒界や界面の原子構造、電子状態、微量元素の高分解能計測手法の発展を先導してきました。また、エネルギー分散型X線分光法や電子エネルギー損失分光法(2)による化学組成・状態計測や第一原理計算による理論解析を組み合わせ、材料の粒界・界面、転位の定量評価法を確立しました。さらに、電子顕微鏡メーカーと共同で、新しい球面収差補正器を搭載した300kVの電子顕微鏡の開発、走査透過電子顕微鏡法(STEM)(3)の環状暗視野像(4)で世界最高空間分解能の達成、従来手法では見ることの難しかった軽元素を観察できる環状明視野-STEM(5)を開発して水素やリチウム等の観察を実現する等多くの功績を挙げてきました。これら革新的電子顕微鏡法と装置の開発、およびそれらを用いた粒界・界面の解析は、セラミックスをはじめとする材料の機能発現の様々なメカニズム解明に繋がっており、材料科学に大きな貢献をされました。

【業績の学術界・産業界への波及】
幾原雄一氏の業績は、透過電子顕微鏡における革新的材料計測手法と装置の開発、粒界・界面構造の解明の2つの側面から材料科学に大きな影響を与えました。 世界最高空間分解能を有するSTEM装置、環状明視野-STEM検出器等は、市販されて革新的電子顕微鏡および関連装置として世界に広く普及しています。また、これらの革新的電子顕微鏡法をセラミックス、電池、触媒、半導体、磁性等の幅広い材料に応用した研究では、材料の粒界・界面に関する新たな知見が数多く見出され、新規材料の設計指針の構築や新規材料の創出につながっています。

【用語説明】
(1) 透過電子顕微鏡法(TEM):電子を使った顕微鏡の1つで、高電圧で加速した電子を薄くした試料に照射し、試料を通過した電子により拡大像を形成する。試料の内部組織や構造情報等を得る。
(2) 電子エネルギー損失分光法:電子が試料を通過する際に試料中の原子と相互作用することにより電子が失うエネルギーを測定する。試料の元素や化学結合状態、電子構造を得る。
(3) 走査透過電子顕微鏡法(STEM):極小に絞った電子線を試料上で走査しながら、試料を通過した電子を検出器で検出し、電子線の走査と同期させて拡大像を形成する。TEM同様、試料の内部組織や構造情報等を得る。
(4) 環状暗視野像:STEM法において高角度に散乱された電子を環状の検出器で検出し、拡大像を形成する。一般的に、試料の原子番号の二乗に比例したコントラストが得られる。
(5) 環状明視野-STEM法:高角度ではなく、低角度に散乱された電子を環状の検出器で検出し、拡大像を形成する。環状暗視野像と異なり、軽元素も明瞭に観察できる。


Prof. Franz J. Giessibl

  
【研究成果の名称】

非接触原子間力顕微鏡法の革新によるナノ材料研究への貢献

【研究成果の概要】
Franz J. Giessibl氏は、世界で初めて非接触型の原子間力顕微鏡による原子分解能を1995年に達成しました。その後、自己検出型フォースセンサーであるチューニングフォークセンサー(qPlus Sensor)(1)を開発して、非接触原子間力顕微鏡の可能性を飛躍的に高めました。非接触原子間力顕微鏡では、試料表面近くで探針を振動させ、試料表面と探針との間に働く微小な力を検知します。qPlus Sensorは、それまで使われていたカンチレバー型センサーと比べて、非常に高いばね定数を有しており、カンチレバー型センサーでは到達できなかった数10ピコメートルまで小さくした振幅で短距離力を高感度で検知する事を可能にしました。これにより、原子レベルのコントラストを飛躍的に向上させました。また、自己検出型であるqPlus Sensorを用いて、カンチレバー型センサーでは困難を伴う極低温動作の走査型プローブ顕微鏡を開発するとともに、高分解能計測に必要な理論も提唱しました。氏はこれらの開発研究の有意性を数多くのナノ材料研究を通じて実証してきました。

【業績の学術界・産業界への波及】
受賞者が開発したqPlus Sensorを用いた原子間力顕微鏡は世界各国で市販化され、500台以上販売されてきました。極低温・超高真空で動作する原子間力顕微鏡では、ほぼ全ての装置にqPlus Sensorが導入されています。それらの装置を用いて表面科学・表面物理・表面化学などの学術分野が大きく展開しました。特に、qPlus Sensorの活用によって初めて分子の内部骨格が観察できるようになったことで、qPlus Sensorを導入した極低温の原子間力顕微鏡は表面化学には必須の装置となっています。   

【用語説明:補足説明】
(1) qPlus Sensor; 通常のAFMではカンチレバー(片持ちばね)を振動させ、試料表面との相互作用によって変化する共振特性をレーザーなどで検出することで、試料表面の情報を取得する。一方、時計の水晶振動子を改造したフォースセンサー(いいかえれば、音叉型水晶振動子をベースにしたフォースセンサー)であるqPlus Sensorを用いた場合、カンチレバーと異なりこれ自体が変化を読み取ることができることから、自己検出型フォースセンサーとも呼ばれる。
カンチレバーのバネ定数は0.1~100(N/m)に対して、qPlus Sensorは1000N/mで、とても硬いことから、振幅が小さく、短距離の相互作用の変化を検出するのに向いている。例えば、トンネル電流の同時計測など、距離依存性が高い相互作用の測定精度を上げることができる。

NIMS Award Symposium 2024
つくば国際会議場にて開催決定

日時:2024年11月6日(水) ~7日(木)