3次元アトムプローブユニット | NIMS

3DAPの母体技術「電界イオン顕微鏡」
Base Technique of APT; "Field Ion Microscopy (FIM)"

電界放射顕微鏡(FEM)と電界イオン顕微鏡(FIM)

電界放射顕微鏡(Field Emission Microscope; FEM)と電界イオン顕微鏡(Field Ion Microscope; FIM)は、どちらも先端を鋭く尖らせた金属針状試料に高電圧を印加し、試料表面に生じる極めて高い電界を利用した投影型顕微鏡である。装置構成は図1に示す通り、超高真空チェンバー、針状試料の冷却用極低温冷凍機、そして像を結像する蛍光板からなる。FEMで使用する場合、試料に負の高電圧を印加する。一方、FIMでは真空中に結像ガスを導入し、試料に正の電圧を印加する。先端半径rの針状試料に電圧Vを加えた場合、表面電界FF = V/rkで与えられる。ここでkは試料形状による定数で、通常5~7程度の値となる。FEMでは電界放射に必要な電界強度は109 V/m程度であるのに対し、FIMでは結像ガスの電界イオン化強度が5 × 1010 V/m程度と、一桁以上高い電界が必要となる。したがって、試料に5 kVの電圧を印加する場合、FEMでは先端半径が1000 nm程度の針状試料でも像が得られるが、FIMでは先端半径が20 nm程度でなければならない。つまり、FIM観察には極めて先鋭な針状試料の作製が必要である。


図1. FEMとFIMの模式図


電界放射顕微鏡(FEM)は図1に示す装置で、針状試料に負の高電圧を印加することで試料表面の高電界により生じる電界電子放射を蛍光板で観測する。電界電子放射に必要な電界強度は109 V/m程度であり、後述するFIM観察に必要な電界の約10分の1の電界でFEM像を得ることができる。したがって、試料先端の半径も数1000 nm程度で十分である。このような針状試料は、金属ワイヤーを電解研磨することで容易に作製可能である。FEM観察では、試料先端が清浄表面であることが必要となるため、通常は試料を超高真空中で加熱して清浄表面を形成した後、負の電界を印加する。この際、表面エネルギーの面指数依存性によりファセッテングが半球状の試料表面に生じる。ファセット面ごとの仕事関数および電界に依存する電流密度の差異によって像コントラストが得られる(図2)。


図2. Ni清浄表面から観察されたFEM像とFIM像(いずれの像も同一試料から得られている)


電界イオン顕微鏡(FIM)とは?

電界イオン顕微鏡(FIM)は、1951年にペンシルバニア州立大学のErwin E. Mueller教授によって発明された投影型顕微鏡であり、レンズを用いないため収差の影響を受けない。FIMによって初めて原子の観察が達成された。この顕微鏡は、電界放射顕微鏡(FEM)から発展した装置である。


図3. 電界イオン顕微鏡(FIM)の原理を示した模式図


図1に示すように、装置の構成は非常に単純である。超高真空中に、先端直径が約100 nmの先鋭な針を低温で保持し、その対面にはマイクロチャネルプレートを設置している。試料表面は原子レベルで見ると図3に示されるように、原子配列による凸凹が存在する。この表面に高電圧を印加すると、原子が突出した部分に高い電界がかかる。ここにNeやHeなどの不活性ガスを導入すると、ガス原子は電界の高い部分でイオン化されてマイクロチャネルプレートという2次元イメージ増倍管に衝突し、その位置に輝点が生じる。結果として、蛍光板上に針状試料表面の原子の凹凸を100万倍以上に拡大した像が得られる。

FIMの装置自体はFEMと全く同じ構造であり、違いはFEMが針に負の高電圧をかけるのに対して、FIMでは正の高電圧をかける点である。FEMは超高真空中で像を観察するが、FIMは高電界下で結像ガスの電界イオン化現象を利用するため、超高真空中にHe、Ne、H2などの結像ガスを10-3 Pa程度導入する必要がある。冷却によって運動エネルギーを失った結像ガス原子が表面からxcの距離に達した時、電子をトンネリングにより失ってイオン化する。結像ガスの電界イオン化に必要な電界は、Heで4.4 × 1010 V/m、Neで3.7 × 1010 V/m、H2で2.3 × 1010 V/mであり、その電界を実現するためにはFEMよりも一桁小さい、曲率半径50~100 nm程度の針が必要となる。また、結像ガスのイオン化による蛍光板の輝度はFEMに比べて著しく低いため、FIMではマイクロチャネルプレートという2次元イメージ増倍管を用いて蛍光板上で像を肉眼で観察できるようにしている。FIMが発明された当初は像を蛍光板のみで観察していたが、とても暗いため完全な暗室内で全神経を集中しなければ観察できないほどだった。そのため、像撮影には長時間露出が必要であり、蛍光効率の高いHeガスによる観察が可能なW、Mo、Pt、Rh、Ir、Reなどの高融点金属のみ対象となっていた。


図4. 針状金属表面からの結像ガス原子の電界イオン化の模式図


FIMの試料表面での電界イオン化の様子を図4に模式的に示す。試料は曲率半径が約50 nmの先鋭な針であり、その表面の原子レベルの形態は図の通りとなる。試料に高電界をかけると、分極した結像ガス原子が試料表面に引き寄せられ、表面電界が特に高い突出した原子に強く吸着していると考えられる。分極したガス原子は高い運動エネルギーで金属表面に引きつけられ衝突するが、試料は冷却されているため、ガス原子は運動エネルギーを失いながら跳ね返される。跳ね返されたガス原子は再び表面に引き寄せられるというホッピングモーションを繰り返しながら次第に熱エネルギーを失い、いずれ電界の高い部分で吸着した状態から図4のxcの位置に達した時、電子をトンネリングによって失い電界イオン化(Field Ionization)される。イオン化したガス原子は、試料表面と接地されたスクリーン間の電界によって加速され、スクリーンに衝突して輝点となる。試料表面の電界分布は一様ではなく、図5に示すようにレッジやキンクの位置で原子が突出して局所的に電界が高まり、ガス原子の電界イオン化確率が上昇する。毎秒103~104個の結像ガス原子がイオン化することで、ひとつの輝点が形成されると考えられている。その結果、半球状試料先端の突出した原子の位置が蛍光板への投影像として明るく観察される。


図5. (a) タングステンのFIM像、(b) (011)面を中心として半球状になった表面原子の配位数の小さな原子を光らせた模型、(c) [011]晶帯軸のステレオ投影図


像の倍率Mは、試料とスクリーン間の距離をD、針の曲率半径をrとすると、M = kD/rで与えられる。ここでkは投影中心の位置や像の広がりの補正項である。典型的なFIM試料の曲率半径は約50 nm、試料と蛍光板の距離は5 cmであり、像の倍率はおよそ106倍となる。FIMは投影型の顕微鏡であり、レンズによる像拡大を行わないため、像は試料の振動やドリフトの影響を受けにくい。その結果、装置構成は非常に単純であり、電子顕微鏡などで不可欠な除振機構が一切不要となっている。

FIMでは結像ガスの電界イオン化を利用するため、FIM像を得るにはイオン化電界以上の電界を試料表面に加える必要がある。しかし、高電界下では、試料原子自体がイオン化される電界蒸発(Field Evaporation)という現象が発生する。このため、FIM像を得るには結像ガスのイオン化強度が試料の電界蒸発強度よりも低いことが条件となる。一般に高融点金属は電界蒸発強度が高いが、低融点金属では電界蒸発強度がHeガスのイオン化強度を下回るため、Heによる像観察ができない。その場合は、イオン化強度が低い結像ガスを選択する必要がある。また、電界蒸発は熱活性であるため、試料を極低温に冷却すれば電界蒸発強度が上昇し、Heガスによる像観察も可能となる。

電界蒸発現象はFIMを成立させる上で重要な現象である。FIM用の針状試料は、従来は金属線を電解研磨することで作製されてきたが、その表面は酸化被膜で覆われていたり、研磨ムラによる凹凸が存在している場合が多い。しかし、凸部では電界が高くなり、そこでは優先的に電界蒸発が進行するため、電界蒸発を進めていくことで自己触媒的に原子的に平滑かつ清浄な表面が形成される。さらに、FIM像を観察しながら表面原子層を順次電界蒸発させることにより、試料表面から規則的に原子面を蒸発させ、試料の3次元的な観察が可能となる。アトムプローブ分析法では、高電圧パルスを同期させて電界蒸発を起こし、原子のイオン化を行っている。

図5には、指数付けしたタングステンのHeによるFIM像、半球表面上で突出した(配位数の少ない)原子を光らせたモデル、さらに[011]晶帯軸のステレオ投影図が示されている。FIM像は、半球状の表面原子を平面に投影したものであり、結晶面はほぼステレオ投影と同じ対称性と位置関係で現れる。図5(b)に見られるような針状表面で突出している原子(配位数の少ない原子)を平板スクリーンに投影したものがFIM像である。低指数面のレッジの原子列は、FIM像上では同心円状に観察される。タングステンのFIM像では、低指数面においては原子ステップを表す同心円状パターンのみが観察されるが、高指数面では個々の原子が分解されている。

FIM像解釈の基礎

FIM試料の先端は、曲率半径約50 nmの半球状となっている。試料形状は、前述した電界蒸発による自己制御によって決定される。結晶面の表面エネルギーに差がある場合、表面エネルギーが低い面の曲率半径は高い面に比べて平坦になりやすい。さらに、高温になるほどファセッテングが顕著となる。このように、試料表面は理想的な半球状にはならず、曲率半径が結晶面によって若干異なる。そのため、像倍率も結晶面ごとに異なることになる。このような試料表面の曲率半径は、図6に示すように、同一FIM像中の2つの指数面間の距離と、その間にある面の数から評価できる。例えば、FIM像を観察して(011)極と(001)極の間に(011)面が何層あるかを数えることで求められる。図6では(011)面が6原子層観察されている。


図6. FIM像からの試料半径の求め方


曲率半径と2つの面の間の角度には次のような関係が成り立つ。

r=ndhkl/(1-cosθ)


この関係式を用いると、例えば図6で試料がタングステンの場合、(011)極と(001)極の間に(011)面が6層観察されることから、曲率半径はr = 6 × 0.224 / (1 - cos 45°) = 4.5 nmとなる。


図7. NIMS保有FIM観察装置で撮影したタングステンのFIM像