ナノ結晶軟磁性材料
Nanocrystalline Soft Magnetic Materials
一般に、ナノスケールでの構造や元素分布を解析する際には、(走査)透過型電子顕微鏡((S)TEM)解析にEDSやEELSなどの元素分析法を組み合わせる。しかし、TEM試料の膜厚(通常は約50 nm)より小さいサイズの原子クラスターや析出物を、TEMで定量的に評価することは原理的に困難である。3DAPは数十~数百ppmという高い検出感度とナノスケールの空間分解能を持ち、軽元素を含めた元素分布を3次元的に定量評価できるという、他にはない特長を有する。左上に示すのは、Fe-P-B-Cu系ナノ結晶軟磁性材料の明視野TEM像である。約10 nmの微細なα-Fe結晶粒が、アモルファス母相中に分散している様子が観察できる。ただし、Bを含む溶質元素がナノ結晶とアモルファス相でどのように分布しているかは、材料の特性発現メカニズムの解明に不可欠な情報である。この試料について3DAP分析を行い、取得した3次元原子マップを2 nm厚でスライスして図示した。BやPの分布、Feの等濃度曲面からα-Feナノ結晶が明瞭に把握できる。α-Fe結晶粒およびそれを取り囲むアモルファス相の元素分布を定量的に評価した結果、ナノ結晶の組成はFe96.2P2.6B0.6Cu0.6であり、微量のPおよびBが固溶したα-Fe相である。また、溶質元素は残存アモルファス相にFe74.5P17.0B8.2Cu0.3の組成で濃化し、アモルファス相が安定化している。加えて、TEM像では確認できない数nmサイズのCuクラスターがα-Fe結晶粒の周囲に形成していることも確認された。これは、多くのナノ結晶軟磁性材料で報告されてきたように、Cuクラスターがα-Fe結晶粒の不均一核形成サイトとして機能していることを示唆している。
- Y. Nomura, J. Uzuhashi, T. Tomita, T. Takahashi, H. Kuwata, T. Abe, T. Ohkubo, K. Hono, "Heating rate dependence of coercivity and microstructure of Fe-B-P-Cu nanocrystalline soft magnetic materials", J. Alloys Compd. 859, 157832 (2021)