CIPT装置
CIPT(Current in-plane technique)装置はTMRウェハ表面の電気抵抗をダイレクトに測定することで、トンネル磁気抵抗(TMR)比およびバリア層の面積抵抗値(RA値)を測定できる装置です。
ピッチが異なった12端子プローブのうち4端子を組み替えることで、異なった平均プローブピッチの組み合わせに対してシート抵抗測定を行うことができます(下図上)。
これらを規定の計算式でフィッティングすることで、TMR比とRA値を求めることができます。
面内磁化型と垂直磁化型の両方のタイプのTMRウェハを計測できます。
従来、これらの値を評価するためには、リソグラフィーやエッチングなどの微細加工プロセスが必要で、装置の使用コストに加え、プロセスを行う時間も必要となります(数日程度)。
CIPTではウェハから直接TMR・RAの評価が可能なためTMR素子開発を高速化できます。
下の図に示したグラフは実際のTMRウェハの計測結果で、赤×が計測データー、青○がフィッティング結果です。
上側のグラフはシート抵抗値と平均プローブピッチの関係を示し、下側のグラフは最大の抵抗変化率(MR
CIP)と平均プローブピッチの関係を示しています。
フィッティング結果として、188%のTMR比(MR)と184 Ω・μm
2のRA値が得られています。
同時に、上部電極層と下部電極層のシート抵抗値、それぞれ
Rt、
Rbも求まります。
ただし、プローブとウェハとの接触状態が重要であるため、ウェハには高い平坦性と清浄性が必要です。
このため、当グループでは上部酸化保護膜として数nm厚さのルテニウム(Ru)層を用い、ウェハの熱処理工程には汚染がない真空磁場中熱処理炉をCIPT専用として用いています。
なお、精度の高い計測にはRA値に合わせた平均ピッチを持つプローブの選択に加え、
Rt、
Rbを規程の範囲に設計する必要があり、制限が多い測定法です。
プローブのランニングコストも比較的高く、特にウェハ表面状態にプローブ寿命が大きく左右されます。このため、開発途中段階にあるTMR素子の特性改善に向けたスクリーニング目的での利用が向いています。
CIPT測定を用いた研究例
以下の論文(オープンアクセス)のFIG.2 (d),(e)にてCIPTによるデータが掲載されています。
巨大TMR比を示すウェハの計測結果で、617%のTMR比がフィッティングから得られています。
T. Scheike et al., "631% room temperature tunnel magnetoresistance with large oscillation effect in CoFe/MgO/CoFe(001) junctions"
Appl. Phys. Lett. 122, 112404 (2023).