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材料で、世界を変える

2026年4月、NIMSは設立から25年という節目を迎えました。

NIMSの歩みは、戦後日本の復興と産業発展への貢献を使命として設立された、2つの研究所に始まります。
今から70年前の1956年に創設された金属材料技術研究所(NRIM)、
60年前の1966年に発足した無機材質研究所(NIRIM)。
そして2001年4月、それら2つの機関が統合し、NIMSとして新たなスタートを切りました。

以来、金属、セラミックス、ポリマー、光、エネルギー ー NIMSは
さまざまな物質・材料の最先端研究を通じて、産業や人々の暮らしを支えてきました。

私たちの歩みは、いわば日本の物質・材料研究の軌跡。
記念すべきこの機会に、創設時から積み重ねてきた私たちの挑戦と成果の一端をご紹介します。

1956年
金属材料技術研究所
(NRIM)

1956(昭和31)年、戦後復興を背景に国産材料の開発と品質向上のため「金属材料技術研究所(金材技研)」が設立。新材料や革新的プロセス技術の研究を先導し、超伝導・耐熱合金分野でも世界をリード。産学官連携プロジェクトにも積極的に取り組み、長期的なデータ蓄積や事故調査協力で社会へ貢献してきました。「使われてこそ材料」の理念は今もNIMSに受け継がれています。

1966年
無機材質研究所
(NIRIM)

1966(昭和41)年、非金属無機材料の基礎研究拠点として「無機材質研究所(無機材研)」が設立。超高純度非金属の創製や物理・化学的性質の解明、装置開発に取り組みました。合成ダイヤモンド技術やチタン酸カリウム繊維、超高圧電子顕微鏡の開発で世界を牽引。LaB6単結晶や光アイソレーター材料も実用化され、基礎から応用まで社会に貢献し、NIMS統合までその使命を果たしました。

2001年物質・材料研究機構(NIMS)

物質・材料に特化した研究機関へと進化

2001年、金材技研と無機材研が1つになり、独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS)として新たなスタートを切りました。
21世紀に入り、物質や材料の研究は大きな変換点を迎えます。ナノテクノロジーの急速な進歩と普及。そして、単一の物質からではなく、さまざまな物質を組み合わせてよりすぐれた性能を持つ材料を作り出す時代となり、2つの研究所の統合は必然的なことでした。
そしてNIMSは、金材技研・無機材研の遺伝子をそのままに、「使われてこそ材料」「ナノテクノロジーを活用する」の2つを標語として、日本の物質・材料研究の中核として設立。2016年には特定国立研究開発法人に選定され、「材料で、世界を変える」という新たなビジョンのもと、研究開発を意欲的に進めながら、今もたゆまず成果を社会に送りだしています。

代表的な成果

サイアロン蛍光体

サイアロン蛍光体

耐熱性に優れた窒化物セラミックスであるサイアロンは、もともと車のエンジン材料として開発されていました。しかし、2000年頃、NIMSサイアロングループは、サイアロン結晶中にユーロピウムという金属元素を加えると、優れた蛍光体になることを発見。世界に先駆けて窒化物蛍光体の開発に成功しました。蛍光体がLEDの色の調整に役立つと考えた研究グループは、サイアロン結晶とさまざまな物質の組み合わせを実験。そのなかで、三菱化学との共同開発により最初に実用化されたCASN蛍光体は、実質的に世界で初めて商業化されたLED用の赤色蛍光体であり、世界的なデファクトスタンダードの地位を築いています。

超耐熱合金

超耐熱合金

金材技研の時代に始まった「超合金」こと超耐熱合金の研究は、NIMSとなって2年目の2003年、世界最高の耐用温度1120℃を実現することで結実しました。研究チームは、ニッケルをベースに、添加する元素の働きをデータとして蓄積し、予測プログラムを作成。それまでほぼ実験だけに依存してきた超合金の研究に一石を投じました。火力発電所に耐熱性の高い材料を使うことで、効率の良い発電とCO2排出量削減が可能になります。また、航空機に使用した場合、1機あたり年間1億円もの燃料代を節約できます。その後、NIMSの超合金は、ボーイング787のジェットエンジンに搭載され、世界の空を飛んでいます。

六方晶窒化ホウ素(hBN)

六方晶窒化ホウ素(hBN)

窒素原子とホウ素原子からなる「六方晶窒化ホウ素(hBN)」。不純物の混入を極限まで低減した高純度単結晶がNIMSで得られています。原子1層にまで剥離でき、原子レベルで平坦。しかも、その純度の高さゆえに、hBN結晶本来の絶縁性が現れるのです。この唯一無二の結晶を求めて、名だたる研究機関から提供依頼が殺到。提供先は世界40か国・約400の研究グループにのぼり、出版された共同研究論文の数は2,000報を優に超えています(2025年2月時点)。そのなかにはノーベル賞受賞者も名を連ね、提供先と論文の数はいまなお増えつづけています。

HAMRメディア

HAMRメディア

世界中のデジタル情報を格納するデータセンター。主役はハードディスクドライブ(HDD)です。今のHDDを使い続けると10年後には世界の総消費電力の10%をデータセンターが消費するというとんでもない予測が。省エネのために、小さい面積に多くの情報を保存する高密度化が必要です。NIMSは新規材料のFePtを使った高密度記録媒体、HAMR(ヒート アシステッドマグネティック レコーディング)メディアの開発に世界に先駆けて成功しました。このHAMRメディアのHDDへの搭載は既に始まっており、高度情報化社会で活躍しています。

MSS

MSS(膜型表面応力センサ)

ニオイは約40万種以上の分子が関与し、その多様な組み合わせを判別する嗅覚センサの開発は極めて困難でした。NIMSは構造力学・材料科学・結晶学・電気回路技術を融合し、従来型の約100倍の高感度と小型化を実現した「膜型表面応力センサ(MSS)」を開発しました。MSSは1 mm²以下の素子で、感応膜の種類を変えることで幅広いニオイの検出が可能。ヒトの呼気中の病気検知や農産物の品質管理、食品・環境・安全管理など、さまざまな分野への応用が期待されます。従来の大型装置でしかできなかったニオイ計測を、いつでもどこでも誰でも可能にし、ニオイ物質と情報をつなぐインターフェースとして、より健康で豊かな社会の実現に寄与しています。

ジスプロシウムフリーネオジム磁石

ジスプロシウムフリーネオジム磁石

自動車のモーターを動かす「ネオジム磁石」。強力な磁石ですが、熱に弱く、モーターに使うには「ジスプロシウム」という金属を加える必要があります。しかし、ジスプロシウムはレアアースの一種で手に入りにくい元素。そんななか、NIMSは、磁石の中にある原子の分布を立体的に見られる特殊な顕微鏡「三次元アトムプローブ」を使い、原子の分布をコントロール。ジスプロシウムを全く使わない、熱に強い磁石を生み出すことに成功しました。ありふれた材料だけを使った革新的な材料の開発は、NIMSの得意技の一つとなっています。

FMS合金製制振ダンパー

FMS合金製制振ダンパー

NIMSと竹中工務店は、Fe-Mn-Si系(FMS)形状記憶合金を用いた制振ダンパーを共同開発しました。FMS合金は地震や風による建物の振動エネルギーを高効率で吸収し、繰り返し変形や高温環境でも優れた耐久性を発揮します。このダンパーの導入により、建物の耐震・耐風性能が向上し、コンパクトな設計や既存建築物への適用も可能となりました。

YAG単結晶蛍光体

YAG単結晶蛍光体

NIMSはタムラ製作所、光波と共同で、青色レーザーダイオード(LD)を励起光源とした、超高輝度・高出力白色照明に最適なYAG単結晶蛍光体を開発しました。この蛍光体は、300℃でも高い発光効率を維持でき、従来品より高温での性能が大幅に向上しています。レーザーヘッドライトやプロジェクター向けなどでの小型化・コストダウンに寄与し、2015年度末の量産を目指しています。

エアロゲル断熱材

エアロゲル断熱材

“固体の雲”とも称されるエアロゲルは、99.4%が空気で構成され、極めて軽量で高い断熱性を持ちます。従来は高温・高圧な製造コストが課題でしたが、NIMSは米のもみ殻を原料に高圧不要な低コストプロセスで高性能エアロゲルの作製に成功しました。この材料は薄くて軽量かつ透明性があり、建造物の断熱、エナジーストレージ、火力発電、液体水素の保冷輸送・貯蔵用コーティングなど幅広い応用が期待されています。

熱電永久磁石

熱電永久磁石

NIMSが開発した新しい磁石材料「熱電永久磁石」は、砂鉄を引きつける磁力だけでなく、熱と電気を相互に変換する「横型」熱電変換機能も持ちます。磁性体と非磁性体を斜めに積層することで、電流から熱流、熱流から電流を効率よく生み出します。従来の「縦型」素子より構造が簡単で、低コスト化・高耐久化も可能。廃熱の有効利用や新たな熱マネジメント技術の実現につながります。

25周年 さらなる高みへ

エネルギー、環境、医療、インフラ、モビリティ——私たちの暮らしを支えるあらゆる技術は「物質」と「材料」で成り立っています。NIMSはそれらの基礎・基盤研究だけでなく、成果の普及とその活用の促進まで総合的に行っています。社会の発展は常に物質・材料科学の進歩とともにあり、いま、地球規模の環境・資源問題の解決に向けたカギとして、その重要性はいっそう高まっています。NIMSは「材料で、世界を変える」というビジョンのもと、持続可能で豊かな社会の実現を目指して、革新的な研究と挑戦を続けてまいります。

NIMSを知る!コンテンツ

NIMSの「これまで」が分かるコンテンツを一挙ご紹介!
特に、5/31(日)に開催する「NIMS一般公開2026」は年に一度のNIMSの研究施設を大開放!!新たな物質が生まれるまさにその現場で、第一線で活躍する研究者から開発秘話が聞ける貴重な機会です。ぜひNIMSにお越しください。