NIMS/電子・光機能材料研究センター

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半導体エピタキシャル構造グループ

【スタッフ】

間野 高明; 大竹 晃浩; 川津 琢也; 林 侑介; 宮崎 英樹(スタッフの紹介

【目的】

Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体ヘテロ構造は、レーザ・LED等の発光デバイス、赤外センサー素子やホールセンサ素子などのセンシングデバイス、高周波デバイス等、多様な身近な用途で用いられています。近未来のioT社会の実現には、これらのデバイスのさらなる高性能化、新機能開拓、低価格化が必要不可欠です。これらの課題解決に向けて、当グループでは高度なエピタキシャル成長技術を駆使した新規半導体ヘテロ構造材料を開発することを目的に研究を進めています。

【アプローチ】

本グループでは、Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体を中心とする材料に関して、高度なエピタキシャル成長技術開発及びそれを駆使した新規ヘテロ構造の作製とその物性開拓に関する研究を行っています。理論計算に基づくヘテロ構造設計、結晶成長素過程の理解に基づく高度な成長技術を開発することにより、量子性を有する次世代光源や高感度センシングデバイス等の革新的な光・電子機能を有する半導体材料開発を推進します。


図1 液滴エピタキシー法の模式図、及び、それを用いて作製したGaAs及びInAs量子ナノ構造の走査プローブ顕微鏡像。


図2 高度なヘテロエピタキシャル成長技術により作製された色々な半導体ヘテロ構造の断面TEM像。

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間野 高明(まの たかあき):グループリーダー

メール:MANO.Takaaki@nims.go.jp

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主な取り組み:化合物半導体結晶成長技術開発とその機能探索

概要:Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体ヘテロ構造は、受光・発光デバイスや電子デバイスなど多様な身近な用途で用いられている。今後のioT社会の発展に向けて、これらのデバイスをさらに高性能化・低価格化するとともに、新機能を開拓していくことが必要不可欠である。本研究では、Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体を中心とする材料に関して、高度なエピタキシャル成長基盤技術開発及びそれを駆使した新規ヘテロ構造の作製とその新機能開拓を行う。成長素過程の理解に基づく高度な結晶成長技術を開発することにより、次世代光源用量子ドット、高感度センシングデバイス用ヘテロ構造等の革新的な光・電子機能を有する半導体材料開発を推進する。

特徴:NIMS独自の手法である液滴エピタキシー法を用いることにより、従来の手法では実現の難しかった極めて高い面内対称性を有する量子ドットを実現することができる。この技術は、オンデマンド量子もつれ光子源への展開が期待される。 格子定数の大きく異なる半導体ヘテロ構造において形成される転位ネットワークを含む界面構造を利用することにより、暗電流の少ない赤外線検出器を実現することができる。この技術は高性能な赤外線検出器を簡便かつ安価に実現することにつながる。

主な研究: 

  • NIMS独自の手法である液滴エピタキシー法を用いて、従来法では実現の難しかった(111)A方位の基板上に高い面内対称性を有する量子ドットを自己形成することに成功した。面内対称性の高い量子ドットはオンデマンドで量子もつれ光子を発生することができるため、量子情報デバイスへの応用が期待される。可視域で発光するGaAs量子ドットに関しては、量子もつれ光子の電流注入による発生を実証している。また、通信波長帯で発光するInAs量子ドットに関しては、単一光子発生まで達成している。
  • ナローギャップ半導体を用いた赤外線検出器は、環境センサーや暗視カメラなどに応用可能であるが、高性能なデバイスに関しては、材料の毒性が高い、基板が高価、などの問題があった。我々は、特異な格子緩和機構によりほとんどの格子不整合が結晶成長初期に緩和されるヘテロ材料系に着目した。その界面に局在した転位の特性を利用することにより、暗電流の低い赤外線検出器動作を実現した。これまでに、InAs/GaAsヘテロ材料系を用いることにより拡張赤外域の検出を実証している。この技術を用いることにより、安価な基板上に高性能な赤外線検出器を実現できる可能性がある。

まとめ:III-V族化合物半導体の高度な結晶成長技術を開発し、それを駆使することにより半導体ヘテロ構造を作製し、その機能性を実証してきた。高度な機能性を有する新規ヘテロ構造の実現には、理論に基づく構造設計や原子スケールでの結晶成長素過程の理解等が必要不可欠であり、これらを高度に融合させることにより、さらに研究を発展させていく。

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大竹 晃浩(おおたけ あきひろ)

メール:OHTAKE.Akihiro@nims.go.jp

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主な取り組み:ヘテロエピタキシー新技術の開発

概要:革新的光・電子機能材料の実現に向けて、その礎となるエピタキシャル結晶成長技術の開発を進めている。分子線エピタキシー法に基づく高度な結晶成長技術と原子レベルでの表面・界面評価技術を駆使して、主に格子不整合系の半導体ヘテロ積層構造の作製と評価を行っている。

特徴

  • 原子レベルでの表面構造の評価と制御に基づくヘテロエピタキシー過程の精緻な制御。
  • (111)方位に特有な歪み緩和機構を利用することによって、低欠陥密度のIII-Vヘテロ積層構造を実現。
  • 格子不整合に関する制約を受けにくいMoSe2やWSe2等の二次元層状物質を用いた多層ヘテロ積層構造を作製。
  • 量子ドット形成過程のその場観察。

主な研究: 

分子線エピタキシー装置と電子回折、電子分光、走査トンネル顕微鏡などの表面分析装置を備えた複合型装置を用いて、III-V族半導体および遷移金属ダイカルコゲナイドのヘテロ構造を作製・評価している。具体的には、次のとおり。

  • (111)面に特有な歪み緩和機構を利用して、GaAs(111)AやSi(111)基板上に低欠陥のIII-Vヘテロ積層構造を作製する技術を開発し、赤外デバイスへの応用を進めている。
  • 遷移金属ダイカルコゲナイドについては、格子不整合の影響を受けにくいという特徴を活かし、MoSe2やWSe2等の単層膜から構成される積層構造の作製技術を開発している。
  • 量子ドットの高品質化に向け、NIMS独自技術である液滴エピタキシー法による量子ドット形成過程を原子レベルで評価し、成長メカニズムの解明を目指している。

まとめ

  • 主にⅢ-Ⅴ族化合物半導体や遷移金属ダイカルコゲナイド等の材料を対象に、高度なエピタキシャル成長技術の開発を行い、それを駆使した新規ヘテロ構造の作製とその物性探索に関する研究を進めている。
  • 原子レベルでの表面分析技術に基づく成長プロセスの精緻な制御方法を確立することにより、次世代光源や高感度センシングデバイス等の革新的な光・電子機能を有する半導体材料開発がより一層加速されると期待できる。

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川津 琢也(かわづ たくや)

メール:KAWAZU.Takuya@nims.go.jp

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主な取り組み:Sb系化合物半導体量子ドットの形成技術

概要:Stranski–Krastanov (SK)モード成長は、広く用いられている量子ドット形成法の一つであり、基板上に格子定数の異なる材料を積層するだけで、10 nm 級量子ドットが転位を伴うことなく作製できる。そのようにして作製した量子ドットは、温度安定性に優れた半導体レーザーや高感度赤外検出器などの高性能デバイスへの応用が期待されている。本研究では、従来広く研究の行われてきたInAs系材料ではなく、より幅広い波長をカバーするSb系量子ドットの形成技術の確立と形状制御、高密度化を目指す。

特徴

  • Sb系量子ドットの液滴エピタキシー法による幅広い密度サイズ制御
  • Sb系量子ドットの高指数面基板による高密度化の実現
  • Sb系量子ドットの微傾斜基板による配列構造作製

主な研究1: GaSb, AlSbとGaAsの間には約7%の格子不整合があり、GaAs基板上にGaSbまたはAlSbを成長させると、ひずみを緩和するため半導体島構造(量子ドット)が形成される。本研究では、さまざまな基板温度、成長速度で高指数面GaAs基板上にGaSbあるいはAlSbを積層することにより、密度や形状が大きく異なる量子ドットが形成出来ることを見出した。

図1:GaAs(311)A基板上のGaSb量子ドット。通常のGaAs(100)の場合に比べて、密度が1.5~2倍に増加する。図2:GaAs(111)A基板上に作製したGaSb量子ドット。大きく平坦な多角形のドットが形成される。

図3:微傾斜GaAs(111)B基板上に作製したGaSb量子ドット。ドットは[-101]方向に沿って伸び、配列する。図4:GaAs(311)A基板上に作製したAlSb量子ドット。小さなドットが高密度に形成される。

まとめ:本研究では、基板温度、成長速度、基板面方位などのパラメータの選択により、Sb系量子ドットの形状制御を試みた。しかし、レーザーや赤外検出器などの光デバイスへの応用では、量子ドットの光学特性が重要となる。本研究で得られた量子ドット形状制御の知見をもとに、光学特性を制御する手法が確立出来れば、高性能光デバイスへの応用が期待できる。

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宮崎 英樹(みやざき ひでき)

メール:MIYAZAKI.Hideki@nims.go.jp

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主な取り組み:光アンテナと量子井戸を融合した高感度中赤外検出器

概要:波長5~10 μmの中赤外域には分子固有の吸収や熱放射が現れるため、中赤外光は環境計測やセキュリティに重要である。しかし、これまでの高感度中赤外検出器には、有毒な水銀やカドミウムが必要とされていた。本研究では、低毒性であるものの感度の低い量子井戸赤外検出器を独自の光アンテナ構造と融合することにより、従来の検出器と同等以上の高い感度を実現した。中心波長は量子井戸と光アンテナの設計により自由に選択できるため、本検出器は特定のガスを高感度に検出するセンサに適している。大気計測、農業、医療などへの応用が期待される。

特徴

  • ジグザグ配線での接続により全アンテナの共鳴を維持しつつ大きな電流の取り出しを可能にする独自の光アンテナ構造を考案
  • 光アンテナとの融合により、量子井戸の感度を800倍に増大
  • 共鳴波長は量子井戸・光アンテナ各部の寸法により自在に設計可能
  • 現行検出器と同等かそれ以上の理論限界に迫る高い感度を実証

主な研究1: 光アンテナの基本形は、誘電体の上下を金属で挟み込んだ構造である。各部の寸法を適切に選ぶと、光アンテナは特定の波長で共鳴する。本研究では、中赤外光に感度を持ち低毒性なGaAs/AlGaAs量子井戸赤外検出器の上下をAu層で挟み込んだ。こうして量子井戸と融合した光アンテナは、共鳴波長の入射光を選択的に吸い集め、量子井戸の吸収に適した向きに電場を回転し、感度を大きく増強する。さらに、光アンテナをつなぐ配線を適切な長さのジグザグ型に折り曲げて位相を調整することにより、全アンテナの共鳴を維持したまま大きな電流を取り出すことに成功した。(光アンテナを配列したこのような構造は、メタマテリアル、メタ表面とも呼ばれる。)

主な研究2: 量子井戸の吸収波長はGaAs/AlGaAs各層の厚さとAl組成により自在に制御できる。光アンテナの共鳴波長をそれと一致させ、さらにジグザグ配線も最適化することにより、量子井戸の感度を800倍増強し、感度 3.3 A/W(波長6.7 μm、78 K)、外部量子効率 61%、検出能3.9×1010 cmHz1/2/Wを実現した。この検出能は従来用いられてきた高感度検出器であるHgCdTe検出器を超えており、理論限界値に迫る値である。感度は特定の波長で鋭いピークを示すので、特定のガスの濃度計測に適している。これまでにNO2(吸収波長6.25 μm)の応答速度1 ms以下での高速濃度測定の実証にも成功している。

まとめ:光アンテナと量子井戸を融合することにより、毒性元素を用いずに従来と同等以上の性能を持った高感度中赤外検出器を実現した。中心波長は量子井戸と光アンテナの設計により自由に選択できるため、特定のガスを高感度に検出するセンサに適している。構造のさらなる最適化による動作温度向上、集積化を進め、大気計測、農業、医療などに役立てたい。

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林 侑介(はやし ゆうすけ)

メール:HAYASHI.Yusuke@nims.go.jp

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主な取り組み:化合物半導体光・エレクトロニクスデバイスの作製・評価手法の開発

概要:III-V族化合物半導体は、直接遷移型バンドギャップやヘテロ構造界面といった優れた物性を利用することで、赤外波長レーザーダイオードや高電子移動度トランジスタ(HEMT)に代表される光・エレクトロニクスデバイスに広く応用されている。
本研究では、結晶成長技術を基軸として、新たな材料系との融合や極限環境における計測を推進することで、次世代の半導体デバイスを牽引するための革新的技術の開拓を目指す。

特徴

  • ウェハ接合技術を利用することで、III-V族半導体との格子不整合が非常に大きい材料との融合を実現し、既存の材料系の結晶成長では成し遂げられなかった性能向上を目指す。
    本技術を発展させることで、III-V/Siプラットフォームを利用したシリコンフォトニクス光回路および光電融合回路の将来的な実現が期待される
  • 放射光を利用した深さ分解ナノビームX線回折測定により、高精度・高空間分解能で半導体デバイス内部の歪計測を実現できる。
    半導体デバイスへの外部信号として、ナノ秒高速電圧パルスやキロボルト級高電圧を印加することで、デバイス動作下における歪挙動や故障の様子を動的に観察し、これまで明らかにされてこなかった極限環境下における物理現象を解明する。

主な研究: 

  • III-V族化合物半導体発光層を結晶成長したウェハとシリコンオンインシュレータ(SOI)ウェハを150°Cという低温で直接接合することで、欠陥を抑制したIII-V/Siプラットフォームを実現できる。
    本手法で作製したIII-V/Siハイブリッドレーザダイオードは、間接遷移型であるSiを用いたシリコンフォトニクス光回路上に光源を一括集積する手法として利用できる。
  • ナノビームX線回折でナノパターンAlN構造を測定し、3次元逆格子マップを深さ分解しながら測定することで、AlNの結晶成長過程において、薄膜/基板界面から試料表面に至るまでにどのような歪変化が誘起されているかを高空間分解能で把握することができる。
    本手法を発展させることでデバイス動作下での歪計測にも応用することができ、デバイス内部に埋め込まれた構造やその近傍の歪みの観点からの素子の性能向上や故障解析が期待できる。

まとめ

化合物半導体で実現される光・エレクトロニクスデバイスに注目して、高度なエピタキシャル成長技術に加えて、ウェハ接合や放射光計測といった新規技術を融合させることで、次世代のデバイス作製技術・デバイス動作化計測技術の確立を目指す。
本研究を発展させることで、高度情報化社会で重要となる半導体デバイスの高機能化しながら、高信頼性化のための極限環境下における物理現象解明に取り組む。

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