NIMS/電子・光機能材料研究センター

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量子フォトニクスグループ

【スタッフ】

黒田 隆; 栗村 直; 高澤 健; 落合 哲行 (スタッフの紹介

【目的】

  • 物質のナノ構造化による新規量子機能を開拓します。
  • 半導体量子構造の光物性を探査し、革新的な量子光源を開発します。
  • 独自開発する有機分子ナノファイバーの光機能性を創出し特異な力学特性を解明します。回折限界を越えるナノスケールの光素子を実現します。
  • 高度なフォトン制御を可能にする光量子構造の設計と新概念の量子機能性の理論探索を行います。

【アプローチ】

  • 先端的なレーザー分光:紫外〜中赤外の幅広いエネルギー域で極微空間からの信号検知が可能な分光法を開発しています。
  • 量子光学特性:非古典的な光である単一光子や量子もつれ状態の発生と検証を行い、汎用量子光源の実現を進めています。
  • 理論解析:フォトニックナノ構造などでの新規な光-物質間相互作用を探索するための電磁場計算とモデル解析を進めています。


図1 (右)1.55 µm帯量子ドット単一光子源のアンチバンチング特性、(左)量子もつれ発生実験の写真


図2 有機色素ナノファイバーを操作して微小リングを製作した。リングの蛍光スペクトルには鋭い共鳴線が現れ、この構造がリング共振器として機能していることを示している。


図3 非エルミートフォトニック結晶の固有周波数スペクトル。非エルミート性により固有周波数は複素平面上に拡がり、空間対称性の破れによりループをなす

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黒田 隆(くろだ たかし):グループリーダー

メール:KURODA.Takashi@nims.go.jp

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主な取り組み:固体量子光源の開発

概要:情報技術の加速度的な発展を背景に、通信セキュリティの確保が、喫緊の課題となっている。情報の漏洩を一切許さない、究極的に安全な通信手法が、量子暗号通信である。従来の光通信では、情報のキャリアとして、レーザー光パルスを用いてきた。一方、量子暗号通信では、情報のキャリアとして、単一光子のパルスを用いる。そのため、伝送距離は、石英ファイバーの透過長である100km以下に制限されていた。より長距離の通信には、未踏技術である量子中継器の開発が必要である。そのためには、非局所的な量子相関を持つ光子(量子もつれ光子)を発生する、高効率量子光源の開発が求められている。

特徴

  • 量子中継の実現や量子もつれでつながった大規模量子インターネットの構築には、オンデマンドな単一光子や量子もつれ光子対の発生が必須。これを実現できるのは量子ドット光源のみ。
  • NIMS 独自の量子ドット作製技術を活用。可視〜通信波長の光子発生を実現。
  • 半導体ベースのため、LED等のデバイス化や導波路構造へのオンチップ化も容易。

主な研究1: NIMS独自の量子ドット作製技術である液滴エピタキシー手法を高精度化し、光学的異方性を根絶した理想的・等方的なGaAs量子ドットの作製に成功。偏光量子もつれの発生を観測、世界最高値の忠実度を見出した(2013年、図1)。

その後、応用を目指し、外部レーザー要らずの電流注入LEDデバイス化に成功(2018年)。また通信応用を目指して、石英光ファイバーの最大透過波長である1.55µmでの単一光子発生に成功した(2019年、図2)。動作温度の向上により、大型冷凍機要らずの、ポータブルな光源デバイス(図3)を目指す開発を進めている。

まとめ

  • 量子もつれが発生可能な高品質量子ドットを世界に先駆けて開発に成功。次世代量子通信技術への応用を目指し以下の研究開発を推進する。
  • バンドギャップ・エンジニアリングによるアプリケーションに応じた波長の実現
  • 量子中継を可能とする理想もつれ光子源の創生と量子中継等の量子操作の実証

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栗村 直(くりむら すなお)

メール:KURIMURA.Sunao@nims.go.jp

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主な取り組み:分極反転非線形光学デバイスによる量子光制御

概要:量子光の発生・制御は新たな通信や計測の手法として注目されている。NIMSが研究を進めてきた分極反転非線形光学デバイスは、高効率であるため光子数の少ない状況でも動作し、量子光発生・制御に優れた特性を示す。材料およびデバイス形態に関して、NIMSでは多様な知見を有し、研究開発を進めて来た。非線形光学材料・デバイスにおける、新たな設計および作製技術を用いて、量子光の制御に展開してきている。高帯域な相関光子対発生や量子光パルスの高速サンプリングなどが実現されており、量子計測や量子メモリの研究に多大な貢献をなしている。

特徴:微細加工による精密な分極反転技術を基に、GaN半導体レーザー(波長400nm帯)のような短波長レーザーで励起できる高効率非線形光学デバイスが可能になっている。これには短波長光の損傷に強いNIMS発のMg:SLT結晶が大きく貢献している。分極反転を用いないデバイスに比べ100倍高い効率が得られ、拡がった設計マージンにより微細加工技術で周期を滑らかに変化させた帯域拡大デバイスが可能になっている。材料技術、分極反転技術に導波路技術を組み合わせることで、世界最高効率のデバイスが実現されている。分極反転非線形光学デバイスは、THz帯域をもつ相関光子対光源、時間分解能200fsをもつ超高速光サンプリングデバイスなど独創的なデバイスに到達している。

主な研究:NIMSでは分極反転による擬似位相整合デバイスの技術を成熟させたことで、多彩なデバイスの設計が可能になった。微細加工による高精度分極反転技術を活用した高効率デバイスが実現され、レーザーディスプレイ、超高速通信、光サンプリングなどの様々な用途で卓越した特性が実証されている。ここでは多様な応用群の中から、高エネルギーの励起光から低エネルギーの相関光子二光子を発生させる場合を図1に示してある。位相整合のタイプに応じて出射光の偏光の組合せを選ぶデザインができる。分極反転パターンによって偏光の組合せを自在にデザインできる「分極反転デバイスの設計自由度」が活かされている。タイプ0は高効率が得られるため量子計測や量子テレポテーションに、タイプIおよびタイプIIは偏光分離特性を活かして量子通信などに適用することができる。研究レベルでは量子計測や量子イメージングへの展開も実証実験が行われており、量子通信では既にその高い秘匿性から実用システムが市場投入されている。我々は分極反転パターンを選択することで、発生光子対の偏光タイプや発生帯域の設計を柔軟に行っている。またこれらにスラブ導波路およびリッジ導波路の構造を組み合わせることで、各量子相互作用に最適なデバイスが得られている。 

GaN半導体レーザー励起による相関光子対発生が実現されている。一般に出力が小さいGaNレーザーを用いて量子光発生を行うのは困難であり、低い効率にとどまる。しかし我々は、導波路コアをNIMS発の材料であるMg:SLT結晶として接着スラブ導波路を世界で初めて作製し、強い閉じ込め効果による高効率デバイスを獲得している(図2)。従来のバルクMg:SLTを使用したデバイスに比べて約10倍高い効率が得られている。デバイスは光入射において横方向の自由度を維持しているため非直線の相関光子対発生も可能にしている。この技術により相互作用長の選択や発生波長の帯域拡大、光子対の空間的分離などが得られ、光子対の特性や光学系の選択において自由度が高くなっている。今回の接着スラブ導波路構造においては周期3.2μmの微細分極反転構造が共存している。これにより、小型の高効率相関光子対光源を量子光波長800nm帯で実現できている。Mg:SLTの特性を活かすことで、GaNの短波長400nm励起でも損傷が少なく損失も小さく抑えられている。またMg:SLT結晶は、他の波長でも高い損傷耐性を有することから超短パルス光による光和周波発生サンプリングにも適用しており、高い効率と時間分解能が両立できている。 

まとめ:NIMSが長く研究してきた分極反転非線形光学デバイスは、量子光制御の中心的なデバイスとなり、多くの機関で利用されている。様々なデバイス形態が、量子相関光子対光源への道を開き、量子光発生・制御の新たなステージに到達した。GaN半導体レーザーを電池駆動することで、レーザーポインターサイズの量子相関光子対光源も可能になり、小型の光源は量子イメージングや量子顕微鏡への搭載を可能にする。

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落合 哲行(おちあい てつゆき)

メール:OCHIAI.Tetsuyuki@nims.go.jp

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主な取り組み:非線形,非エルミートナノフォトニクス

概要:フォトニック結晶、メタマテリアル、金属ナノ構造は物質が持つ固有の光学特性を人為的に変化させ、光の伝搬や光-物質間相互作用の制御を可能にする。光学非線形性や利得、損失、開放系などによる非エルミート性は制御のさらなる高度化をもたらし、新規な特性をもつ光電変換や高調波発生、レーザー、反レーザー(コヒーレント完全吸収)などが実現できる。これらを解析計算や数値シミュレーションによって研究している。

特徴

  • 超高速で応答する光電変換(光整流、ワイヤレスパワー伝送、光検出など)
  • 特異なレーザー、反レーザー特性
  • トポロジカル効果による頑強な光集積回路

主な研究: 金属ナノ粒子における光起電力のポテンシャル配位:近年反転対称性を破った絶縁体や半導体におけるバルク光起電力がソーラーセルや超高速での光検出などの応用に向けて注目されている。これに対して金属では表面が支配的になるナノ構造での光起電力が重要になるが、金属表面はプラズモン共鳴や非局所応答、quantum spill-out などが複雑にからみあい、未解明な部分が多い。ここでは半解析的な手法で金属ナノ粒子での光誘起静電ポテンシャルを求めている。


まとめ:非エルミート光学系における増幅スペクトル:利得や損失のある系は非エルミート系と呼ばれ、近年、有限系で大多数の固有モードが端に局在するという非エルミート表皮効果が発見された。この効果の影響により指向性をもったレーザー発振やコヒーレント完全吸収がデザインできることを明らかにした。ここでは線形計算によるレーザー発振の特性解析として、入射光に対する増幅率を示している。

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高澤 健(たかざわ けん)

メール:TAKAZAWA.Ken@nims.go.jp

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主な取り組み:有機単結晶ファイバーによる分子メカニカルデバイス

概要: 過熱や冷却により、ある種の有機結晶が突然粉砕する現象が知られている。これは、温度誘起構造相転移により結晶に瞬間的に大きな応力が発生するためである。これらの結晶は、発生力を利用したアクチュエータなどへのデバイス応用が期待されている。しかし、結晶自体が粉砕してしまうため、デバイス化が困難であるだけでなく、相転移の進展メカニズムを詳細に研究することもできなかった。本研究では、ナノファイバー化した結晶を用いることで、これらの問題を解決した。ナノファイバーは極めて柔軟性が高いため、応力に対して柔軟に変形して粉砕を免れる。これにより、高速・高出力ナノファイバーアクチュエータの開発に成功した。さらに、ファイバーの変形から相転移の進展メカニズムを解明した。

特徴

  • 結晶をナノファイバー化することで「粉砕」を「変形」に変換
  • ナノファイバーの変形を解析することで相転移メカニズムを解明
  • ナノファイバーを座屈させ高速・高出力アクチュエータを実現
  • 自重の1万倍の質量を持つ物体を空中に跳ね上げる力を発生
  • 様々な分子メカニカル素子の開発に発展可能

主な研究:

1,2,4,5-四臭化ベンゼン(TBB)の単結晶は、40℃程度に加熱すると突然粉々に砕けることが知られている。これは、低温相から高温相への構造相転移により、結晶に瞬間的に大きな力が発生するためと考えられてきた(左図)。 新たに開発した手法により、TBB単結晶ファイバーを基板上に合成した。ファイバーを昇温すると、38℃付近で相転移により瞬間的に屈曲(座屈)し、降温すると35℃付近で再び相転移して直線状に戻った。温度を上下させることで、ファイバーを繰り返し変形させることができる(中央図)。 自重の1万倍の質量を持つ物体を重力に抗して空中に跳ね上げることが可能な力を発生する(右図)。

まとめ:構造相転移により粉砕してしまう有機結晶をナノファイバー化した。これにより、粉砕を免れて、繰り返し変形が可能となり、アクチュエータ等のデバイス応用を可能にした。四臭化ベンゼンファイバーでは、40℃付近の室温領域で繰り返し屈曲変形させることができ、自重の1万倍の質量を持つ物体を空中に跳ね上げることが可能な非常に強い力を発生する。様々な分子メカニカル素子への応用が期待できる。

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