最新の成果Latest Research Results

2024 Topic2

水素が鉄鋼材料を強くする
ー水素を有効元素として活用できる可能性ー

小川 祐平

構造材料研究センター 材料評価分野
鉄鋼材料グループ 研究員
小川 祐平 Yuhei Ogawa

オーステナイト系(Fe–Cr–Ni)ステンレス鋼の中に水素原子が入り込むと、材料の中で変形を担う微小な格子欠陥「転位」の動き方が変化します。私たちは、この現象を精密な力学試験によって解析し、水素が転位の動きを“抑える”ことで、材料を強くする働きを持つことを明らかにしました。この成果は、水素ガスと直に接する水素ステーション用配管などにおいて、「水素が侵入しても劣化しない」だけでなく、「水素によって自ら強くなる」新しい材料設計の可能性を示しています。“水素=鉄鋼の敵”という常識を覆し、“水素を味方にする鉄鋼材料”という新概念を切り拓く研究です。

成果図

小川さんへQ&A

水素ステーションって何?

みなさんが乗るクルマは、通常ガソリンを燃焼させて走りますが、この燃焼によって排出される有毒ガスは、地球温暖化や大気汚染の原因になっています。そこで注目されているのが、水素と酸素の化学反応によって電気エネルギーを得て走る、燃料電池自動車(FCV)です。水素ステーションは、そんなFCVにエネルギー源となる高圧水素ガスを充填するための、いわばガソリンスタンドのような設備です。

水素=鉄鋼材料にとって害悪ってどういうこと?

クリーンエネルギーとしてのイメージが強い水素ですが、社会インフラを形作る鉄鋼材料にとっては、実は最も怖い天敵です。鉄鋼材料といえば、強靭で、曲げたり伸ばしたりしても壊れないという印象が強いと思いますが、ひとたび水素原子が内部に侵入すると、多くの材料ではそのような粘り強さが失われて、脆く壊れてしまう、水素脆化と呼ばれる現象が起こります。これが水素ステーションで起こってしまっては、安全な利用は保証できません。

どうして害悪である水素を逆に利用する発想に?

なぜ、脆く壊れるのか?という水素脆化のメカニズムを調べていたある日、ステンレス鋼の一種に高圧の水素ガス中で多量の水素を侵入させると、強度と伸びの両方が向上するという驚くべき事象を目にしました。この偶然の発見をきっかけに調べていった結果、その原因が水素と転位との相互作用にあることが分かり、有効利用に向けた本格的な研究がスタートしました。

この成果が実用化へ繋がる可能性と課題は?

水素の侵入が絶対に避けられない水素ステーション用の構造材料全般にとって、「水素を吸って自ら強くなる」という現象の有用性は非常に大きいと考えています。
その一方、産業界に強く根付いてしまった水素脆化へのネガティブイメージを覆すことは、容易ではありません。また、既存のステンレス鋼は多量のレアメタルを含んでおり、高価であることも課題のひとつです。より安価な水素活用型鉄鋼材料の実現に向け、日々研究に取り組んでいます。