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2024 Topic1

耐水素脆化自動車用高強度鋼の開発
~粒界炭素偏析の活用指針~

岡田 和歩

構造材料研究センター 材料評価分野
鉄鋼材料グループ 主任研究員
岡田 和歩 Kazuho Okada

水素によって材料が脆くなる水素脆化が引張強度の上昇に伴い顕著となるため、高強度鋼の社会実装が阻まれています。代表的高強度鋼であるマルテンサイト鋼は、水素環境下において特定の粒界 (旧γ粒界) の剥離である粒界破壊によって脆化します。本研究では、鉄鋼材料の主要元素である炭素を旧γ粒界に濃化させる「粒界炭素偏析」により粒界破壊を抑制することで、引張強度 1.5 GPa 級の高強度マルテンサイト鋼の水素脆化耐性を著しく向上しました。本成果は、自動車用鋼板の高強度化等を通じて安心・安全かつ持続可能な社会実現へ貢献するものです。 

成果図

岡田さんへQ&A

粒界偏析とは?

偏析とは、材料中の界面において特定の元素が濃化する現象であり、特に結晶粒界への偏析を粒界偏析といいます。炭素は、鉄鋼材料の主要元素であるため、マルテンサイト鋼中にも多量に含まれています。したがって、炭素を水素脆化の抑制に有効活用することができれば、極めて実用的な組織制御指針となることが期待できるのです。

なぜ粒界偏析に注目?

粒界炭素偏析によって粒界破壊が抑制されることは、第一原理計算を用いたシミュレーションにより予想されていましたが、実材料での実証例はありませんでした。 本研究は、マルテンサイト鋼の旧γ粒界における偏析炭素濃度を増加させる手法を確立し、粒界炭素偏析によって水素脆性粒界破壊が抑制されることを実証した初めての成果です。

この成果の続きで進行中なことは?

粒界破壊の抑制メカニズムとして、先に偏析した炭素原子との占有位置の競合によって水素原子の粒界偏析が抑制されることが、第一原理計算により予想されています。現在は、この粒界偏析における炭素と水素の相互作用を3次元アトムプローブにより直接観察することで、上記のメカニズムを実証することに取り組んでいます。

岡田さんの研究に関連して未来でどんなことが起こっていてほしいですか?

高強度材料の幅広い社会実装は、構造材料分野における最重要課題の一つです。しかし、鉄鋼材料や水素脆化に限らず、材料は高強度化するほど様々な破壊現象に対する抵抗が低下する傾向にあります。本成果のように、高強度金属材料の破壊メカニズムを抑制する組織制御指針を提案し続けることで、安心・安全かつ持続可能な社会実現へ貢献していきたいと考えています。