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物質・材料研究の『使える!メールマガジン』
vol.132
2023.1.11
世界最細の超電導線の写真
今月の一枚
超電導線の水引
正月飾りの水引のような物体——実は、世界最細のMgB2超電導線。その直径、なんと15マイクロメートル。これほどの超極細ながら、一般的な化合物超電導線よりも安定性に優れ、フレキシブルで壊れにくい。この超電導線を応用し、小型で大出力の超電導モーターの開発、および、そのモーターを用いた地球に優しい超電導応用機器の実用化が期待されている。
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★プレスリリース(2022.11.29)「世界最細、直径15マイクロメートルの超極細MgB2超電導線を開発」
★低温超伝導線材グループHP
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HOT TOPICS(NIMSの旬な情報)
今、この材料がアツい! Vol.12:ホットメルト組織接着剤
オトナの科学本
『偉人たちの挑戦』
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高性能AI素子の写真
脳の特徴「カオスの縁」を再現!
高性能AI素子を開発
プレスリリース 2022/12/22
秩序とカオスの境界「カオスの縁」を利用し効率よく働く脳。この特徴を固体電解質薄膜とダイヤモンドの界面近傍で発生するイオニクス現象(イオンと電子の振舞)で再現することによって、情報処理を行う高性能AI素子を開発しました。様々なセンサーと組み合わせることで、医療、防災、製造、警備など幅広い分野での応用に期待大!
キュリーエンジンの写真 『未来の科学者たちへ』最新作
「キュリーエンジン」配信中!

磁石や磁石に付く物質(強磁性体)を熱すると、ある温度で急に磁性が失われる——その温度を「キュリー温度」と言います。今回はこの性質を利用した「キュリーエンジン」の装置を作製しました。磁石と温度の関係を可視化した興味深い映像を、ご堪能ください。

バイオマテリアルのイメージ写真 材料が未来の医療を変える!
NIMS NOW最新号は
“バイオマテリアル”特集

コンタクトレンズや人工骨、ペースメーカーなどなど、私たちは身体に触れて働く材料「バイオマテリアル」と共に生きています。今号では進化を遂げるバイオマテリアルの最前線をご紹介! NIMSの最新研究を紐解けば、未来の医療が見えてくる!

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今、この材料がアツい!
ホットメルト組織接着剤の写真
Vol.12
ホットメルト組織接着剤
~温めて塗るだけ! 手術後の傷を治して合併症も防ぐ医療用接着剤~
 
切開してできた傷口の上に、とろりとした液体を垂らす。すると、液体がみるみるうちにゲル状に固まっていき、あっという間に傷口をふさいだ。
癒着や出血、炎症、感染など手術後に起こる様々な合併症。特に手術創部と周辺の臓器が回復の過程で一体化してしまう癒着は、開腹手術を受けた患者のなんと90%以上で発生すると言われ、腸閉塞や不妊症、骨盤痛などを引き起こし、術後の生活に大きな支障を来たす原因となる。
癒着を予防するため、手術後の傷口に塗る多様な医療用接着剤が開発されてきた。現在、シート型や2液混合型の接着剤が使われているが、接着力が低い、調合の際にムラが生じるなどの課題があり、生体適合性はもちろん、接着性、操作性にも優れた医療用接着剤の実用化が待ち望まれている。
この課題に取り組んだのが西口研究員だ。西口が目を付けたのは「ブタ腱ゼラチン」。
腱ゼラチンとホットメルト組織接着剤の接着力のの比較写真
ブタ腱ゼラチン(右)とUPy基を導入したホットメルト組織接着剤(左)。接着力を比べてみると、ホットメルト組織接着剤の方がはるかに高いことが分かる。
医療用接着剤のゲル化する温度の図
ブタ腱ゼラチン(青)は37℃より低温でないと固体化しないのに対し、ホットメルト組織接着剤(赤)は体温に近い37℃付近で固体化する。
加熱すると液体に、常温ではゲル状に固体化するホットメルト特性を持つブタ腱ゼラチンなら、温めて傷口に塗るだけで強く接着するはずだと考えた。しかし、ブタ腱ゼラチンが固体化する温度は32℃付近。術後に自然に固体化するには、この温度を体温に近い37℃付近まで上げる必要があった。
そこで西口は、ブタ腱ゼラチンにUPy基(ウレイドピリミジノン基)を導入。UPy基の数を調整することにより、ブタ腱ゼラチンが固体化する温度を自在に制御することに成功した。さらに、傷口の表面が固体になることで、他の臓器との癒着防止も実現。動物実験を行い、UPy基ブタ腱ゼラチンを使った検体には癒着が起きないことを確かめた。 ラット盲腸の写真
生体組織に傷があるラットに、ホットメルト組織接着剤を塗った場合(右)と塗らなかった場合(左)を比較したところ、ホットメルト組織接着剤を塗布したラットには癒着が見られなかった。
西口研究員の顔写真
「からだにやさしい材料を作って医療に貢献することを目指しています。これからも基礎研究と実用化研究の両輪で研究を進めていきたいと思います」(西口昭広研究員)。
まさに、“温めて塗るだけ”の簡便な操作で、生体組織に強固に接着し、癒着も防ぐ、理想的な医療用接着剤が誕生した。
「このホットメルト組織接着剤は、癒着防止材の他にも止血剤や創傷被覆材など、幅広い医療材料に応用できると考えています。また、医薬品と組み合わせることよって新たな医療シーズの創出も見込まれます」と西口。
生体適合性・接着性・操作性の3拍子揃ったホットメルト組織接着剤——医療の現場で活躍する日はそう遠くなさそうだ。
もっと知りたい!
アツいホットメルト組織接着剤の世界

★プレスリリース(2022.5.19)
「温めて塗るだけで傷を治す医療用接着剤を開発」

★NIMS NOW Vol.22 No.6 『からだマテリアル』
P6-11若手対談「医療を変えるバイオマテリアルを」

BOOK
どっぷり浸かるサイエンスの世界
オトナ科学本
本の表紙写真『偉人たちの挑戦』
『偉人たちの挑戦』
東京電機大学 編集
 
研究者YouTuberこと“こもりん博士”のイチオシ!
偉人と言われている科学者たちの業績と生涯を、現代科学との結びつきも含めて分かりやすく解説しているシリーズ本です。各偉人に対して、その分野の先生が監修を務めていて、僕は「化学の父」の呼び声高いラヴォワジエを担当しました(シリーズ第4巻)。
ラヴォワジエは「物質の質量は化学反応の前後では変わらない」という“質量保存の法則”を導き出したフランスの科学者です。その他にも酸素の存在の解明、30以上もの元素の発見、化学用語の基礎である『化学命名法』の出版などなど、現代化学の礎を築いた偉人なのですが、最期は当時の革命政府により断頭台で処刑されます。なぜそんなことになったのか……? 偉業だけでなく、その生い立ちや時代背景にも触れられているのが、この本の面白いところです。
ラヴォワジエのように時代に翻弄された科学者ってたくさんいて、たとえ世紀の大発見でも、その時の倫理観にそぐわないと命が危なかった。現代では著名な先生に異なる結果を主張してもちょっとドキドキする(小心者なので…笑)くらいで済みますが、主張が命と直結する時代があって、それでも正しさを追求した科学者たちのおかげで、私たちは今の科学を享受できているんです。科学者は頭脳明晰である以上に“勇気”も持ち合わせていないといけない——様々な偉人を通して、そんなことも学べる一冊です。僕のコラムも載っているので、そちらもぜひ読んでくださいね!
 
あらすじ

偉大な発見・発明をした科学者の業績と生涯を、会話調の易しい本文と多数のイラストで紹介するシリーズ。偉人の精神を受け継いだ最新研究の話題も豊富で、探求の重要性や社会への影響なども楽しく学べる。

 
— 読書案内人 —

小森 和範(こもり・かずのり)

機能性材料研究拠点 超伝導システムグループ 主幹研究員

専門は高温超伝導。研究者YouTuberとしてNIMS公式YouTubeチャンネル「まてりある’s eye」の出演や監修を務めるほか、イベントでの実験ショーを主催するなど、科学を伝える活動にも力を注いでいる。

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