正しく表示されない方はこちら
物質・材料研究の『使える!メールマガジン』
vol.125
 
2022.5.18
シリコンのナノピラー構造の写真
今月の一枚
ナノの森

青々と茂った新緑の森を思わせるこの物体は、シリコンのナノピラー構造(ナノスケールの柱状構造)を電子顕微鏡で観察したもの。NIMSでは、赤外線の吸収率を高めるシリコンや導電性セラミックスの構造を利用して、熱放射の波長を色分けして可視化できるイメージセンサーや、熱放射を望みの波長で発生できる赤外線源などへの応用を研究している。

HOT TOPICS
NIMSの最新情報をお届け!
切り紙加工の新・加熱/冷却技術の写真
ヒントは日本の伝統工芸!
プラスチックを用いた新・加熱/冷却技術
プレスリリース 4/22

発熱による電子機器の性能低下など、“熱”が引き起こす問題の解決策として重要な加熱/冷却技術の発展。NIMSでは、伝統工芸「切り紙」加工を施したプラスチックを引っ張ることで、身近な物質でも局所的な加熱/冷却素子として有力な材料になることを実証しました。小型電子機器用の熱エネルギー利用技術やフレキシブルな温度変調素子など、新たな応用展開に期待大!

一般公開のロゴの写真
ラボめぐりをもう一度♪
一般公開アーカイブ公開中

今年も一般公開のご視聴、ありがとうございました! 特設サイトではオンライン企画「ラボぶら」のアーカイブを公開中。臨場感たっぷり、ハプニングも楽しい生放送ならではのラボめぐりを、もう一度お楽しみください!

エネルギー変換を利用したモーターの写真
『未来の科学者たちへ』最新動画
「エネルギー変換」配信中

電池で回るモーター。でも、モーターは逆に電気を起こすこともできます(手回し発電機)。同じように、日常にはエネルギーを変換する材料が溢れています。様々な仕掛けから、エネルギー変換の仕組みを探ってみましょう!

....and more!
能動型磁気冷凍システムの写真 磁化サイクルを繰り返しても歪まない
磁気冷凍材料を開発

プレスリリース 4/1

AMRRシステムの外観および断面図の写真 革新的水素液化技術への挑戦

プレスリリース 4/11

NIMS公式ウェブサイト
TECHNIQUE
技術革新のキモ、ここにあり!
研究者の目のつけどころ
ニオイのリアルタイム色変換装置の写真
Vol.5
ニオイのデジタル化技術
~ニオイが見える!? 嗅覚センサーと機械学習を駆使して新概念「擬原臭」を選定~

赤、青、緑。この3つを混ぜ合わせると、どんな色でも作ることができる。言わずと知れた光の3原色の定義だ。同様に、味覚も甘味、酸味、塩味、苦味、うま味が5原味とされており、これらの組み合わせで様々な味を表現することができる。

こういった人間の五感が定義され、様々にデバイス化されていく中、もっとも遅れているのが嗅覚、ニオイの解明だ。視覚や味覚が限られた受容体(刺激を情報に変換するもの)で構成されているのに対し、嗅覚には約400種類という膨大な受容体が存在する。そのため、ニオイの基準を定めるのは非常に難しいとされている。

この課題に向き合ったのが、田村研究員だ。世の中のすべてのニオイの中から基準を見つけることは不可能に等しい。それならば、ニオイの対象を絞り、限られたニオイの中から基準となるニオイを選定しよう——そう考えた田村は、手始めに12種類の調味料(※注)をニオイサンプルとし、この中からニオイの基準を探し出すことを試みた。

調味料のニオイの混合比の図
ナンプラー、料理酒、純水を擬原臭とした際のその他の調味料の混合比。例えば、醤油はナンプラーと料理酒を0.5対0.5で混ぜると表現できる。
マヨネーズのMSS測定結果の写真

上図の混合比に沿って作ったマヨネーズ(黒線)と実際のマヨネーズ(ピンク線)のMSSでの測定結果。ほぼ同じシグナルを示していることから、同様のニオイだと判別できる。

まず、それぞれのニオイを超高感度の嗅覚センサー「MSS」(メルマガvol.123参照)で測定する。そして、その結果を機械学習で解析することで、「他から外れたニオイ」を見つけ出すのだ。これを繰り返した結果、ナンプラー、料理酒、純水の3つが基準となることを発見(上図)。他の9種類の調味料のニオイは、すべてこの3つの組み合わせで表現できることを突き止めた。そして、このように限られたニオイの中から導き出した、基準となるニオイを「擬原臭」と名付けた。

擬原臭の混合比によってニオイが表現できる——つまり、ニオイがデジタル化できると、ニオイを別の感覚に置き換えることも可能となる。田村は擬原臭それぞれに色を与え、ニオイをそれらの混合色で示し、ニオイの可視化も実現した(上写真)。

「擬原臭を用いたこの技術は、食品、化粧品、書籍、映画など幅広い分野で応用できると考えています。今後も様々なニオイサンプルの中から擬原臭を見つけ出し、ニオイのデジタル化、可視化による応用例を創出していきたい」と田村。困難を極めるニオイの解明に、新戦略を見出した田村の技術。今後の展開から目が離せない。

田村研究員の顔写真
「ニオイをデジタル化するこの技術によって、色と同じように、ニオイも分解・合成が可能となり、ニオイの記憶、学習、送信、理解なども促進できるはずです」(田村亮研究員)。

(※注)ナンプラー、料理酒、純水、めんつゆ、醤油、穀物酢、レモン汁、ケチャップ、マヨネーズ、焼き肉のたれ、オイスターソース、ウスターソース

BOOK
どっぷり浸かるサイエンスの世界
オトナ科学本
\今月はコチラ!/
本の表紙写真「イグノランス」
「イグノランス」
ステュアート・ファイアスタイン 著/佐倉 統・小田文子 訳  
東京化学同人
新広報室長・Nのイチオシ!

「オススメの科学本は?」と聞かれて、真っ先に思い浮かぶのがこの『イグノランス』。何年前だったかアメリカの友人から勧められた本です。それは英語の原著で、いつか翻訳したいと思ったのですが、いつの間にか日本語版が出版されていました(苦笑)。
「無知こそ科学の原動力」の副題の通り、科学における無知の重要性を説いた本です。ただ、ここで言う無知とは、まったく何も知らない、という意味ではありません。人類が獲得してきた膨大な知識の中に紛れている未知の領域を、「そこは分かっていない」と気づける「質の高い無知」について軽妙に語っています。著者はコロンビア大学で神経科学を教えるファイアスタイン教授。自身の学生たちが、よく勉強し優秀であるがゆえに、知識が増えることに満足してしまうと気づき、分かっていることではなく「分かっていないことを伝える」目的での講義を始めたそうです。読み進めていくうちに、膨大な知識の隙間に存在する、より膨大な「無知」に目を凝らすことがいかに大切か、知識を蓄えるのは無知を知るためである、そういう科学の基本を思い出させてくれます。
研究者を目指す方はもちろん、ベンチャーを立ち上げるとか、理系に限らず何か成し遂げようとする志の高い方にぜひ読んでほしいですね。

あらすじ

科学の神髄を、イグノランス(無知)をキーワードに紐解く一冊。演劇や文学など多彩な事例を引き合いに出しつつ、時に風刺や皮肉を交えながら、科学の在り方について深く掘り下げていく。

※本メールマガジンは、配信を希望された方にのみ、お届けしております。
※本メールマガジン掲載のテキスト、画像、または一部の記事の無断転載および再配布を禁じます。

国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)
〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1

登録解除
 
©国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)