NIMS Award授賞式・学術シンポジウム

NIMS Award 2021 受賞者紹介

NIMS Award 2021受賞者

安藤 恒也 氏の顔写真
安藤 恒也 経歴[PDF]
東京工業大学 栄誉・名誉教授 / 東京大学 名誉教授
研究分野
物性物理学
研究成果
低次元物質の量子物性に関する理論基盤の構築
成果の概要
物質の表面や界面、厚さがナノメートルの薄膜などでは、電子の運動が制限されて量子化される。量子化によって、様々な興味深い物性が現れ、その利用は幅広い分野に革新をもたらすものと期待されている。例えば、量子効果と電子間相互作用の精密制御は、現在のエレクトロニクスや光技術の根幹をなす重要な基盤技術であり、電気伝導や光吸収・放出の制御に直結する。また、量子ホール効果やバリスティック(弾道的)電気伝導、単一電子トンネル効果を始めとする様々な量子効果を利用するための研究開発が活発に進められている。これは、超低消費社会の実現、ビッグデータやAIの高度な利用、情報セキュリティの確保など、安全・安心な社会の実現に大きく貢献すると期待されている。
安藤氏は、電子の輸送現象に現れる量子効果と多電子間相互作用の効果に着目した先駆的研究を行い、バリスティック電気伝導、コンダクタンスゆらぎ、量子ホール効果、エッジ(端)状態、量子カオスなどの興味深い量子効果に関して、多くの理論的な解明を行った。特に、半導体2次元電子系における量子効果研究では、カーボンナノチューブやグラフェンが、本質的に量子的な電気伝導特性を有する低次元材料であることを明らかにし、“ナノカーボン”材料の研究分野開拓に大きく貢献した。
業績の学術界・ 産業界への波及
安藤氏の半導体2次元電子系の理論研究は、2次元材料における電気伝導の学術的基礎を与えたパイオニア研究であり、低次元伝導を理解する上で欠かすことが出来ない理論体系となっている。例えば、2次元電子の電気伝導を決める散乱要因の解析に安藤氏の理論が適用されるなど、広く普及しているシリコンMOSトランジスタやGaAsヘテロ構造素子の特性評価に多大な貢献をした。また、量子ホール効果を利用する精密な抵抗標準器が実現しており、その理論的な基礎も安藤氏によって確立された。カーボンナノチューブとグラフェンに関する安藤氏の理論的研究は、現在も低次元物性物理学研究の先導役であり、物理学、材料科学、電子工学など幅広い分野へ波及し続けている。
Allan H. MacDonald 氏の顔写真
Allan H. MacDonald 経歴[PDF]
テキサス大学オースティン校 物理学教授 (アメリカ)
Pablo Jarillo-Herrero 氏の顔写真
Pablo Jarillo-Herrero 経歴[PDF]
マサチューセッツ工科大学 セシル&アイダ・グリーン物理学教授 (アメリカ)
研究分野
物性物理学
研究成果
ツイストロニクスによる量子物理に関する先駆的研究
成果の概要
グラフェンは原子ひとつ分の厚みを持つ炭素シートであり、2010年にノーベル物理学賞を受賞したAndre Geim, Konstantin Novoselov氏による良質なグラフェン調整の手法が確立して以来、数多くの実験研究が行われ、その特異な電子物性は基礎から応用までの幅広い分野から注目されている。しかし、グラフェンを電子材料として利用するには、半金属的特性を半導体的特性へ調整する技術、そこに発現する量子効果を制御する技術など、新しい材料技術の開拓が必須であるとされていた。
MacDonald氏は、角度を僅かにずらして積層させた2層のグラフェン(ねじれ二層グラフェン)の理論研究を行い、その電子状態がねじれ角に応じて変化し、特定のねじれ角度(magic angle)では、平坦バンドと呼ばれる量子力学的に注目すべき電子状態が発現することを予言した。平坦バンドを持つ物質は非常に興味深く、電子間相互作用の効果が増強され、磁性や超伝導など有用な強相関系特有の物性発現が期待される。炭素原子のみからなるねじれ二層グラフェンという物質に、強相関現象が現れるという驚くべき理論研究の結果は、先駆的かつ示唆に富むものであった。
Jarillo-Herrero氏は、ねじれ二層グラフェンの作成技術の開発を行い、MacDonald氏が指摘したmagic angle 近傍で特異な電子状態が発現することを実験的に証明した。具体的には、magic angle 近傍で、電子相関由来と考えられる絶縁体相を発見し、さらにその近傍で超伝導相が現れることを見出した。Jarillo-Herrero氏らが描いた相図が銅酸化物高温超伝導体の相図に類似するものであったことも大きな関心を集め、ねじれ二層グラフェンおよび関連する材料研究が爆発的に盛んとなるきっかけとなった。
業績の学術界・ 産業界への波及
2011年のMacDonald氏の理論研究と、その7年後のJarillo-Herrero氏らによる実験研究は、“ツイストロニクス”という新しい材料制御技術の開発に繋がった。その後、ねじれ二層グラフェンの電子状態は強相関効果のみならずトポロジーも関連する非常に特異な状態にあることが理論的に明らかにされつつある。また、三層、四層グラフェンや原子層遷移金属ダイカルコゲナイドにおけるツイストロニクスを通じた物性制御が盛んに研究されるなど、両氏の研究業績が新しい分野を切り拓いたと言える。さらに、原子層物質のデバイス化に有用な新たな物性制御手法を提供し、応用研究に活路を切り拓いた両氏の功績は世界中から高く評価されている。

国際賞「NIMS Award」とは

2007年度より、物質・材料に関わる科学技術分野において過去数年間に飛躍的な進歩をもたらした個人またはグループに「NIMS Award(NIMS Award for Recent Breakthrough in Materials Science and Technology)」を授与しています。

NIMSが特に注力している材料分野を「1.環境・エネルギー材料」「2.機能性材料」「3.構造材料」「4.基礎・基盤技術」に大別し、毎年、順番に顕彰を行っています。受賞者は、対象分野における国内外のトップ科学者から候補者の推薦を受け、中立有識者で構成される委員会により選考しています。

NIMS Award メダル

過去の受賞者

2020
Prof. Hiroshi Julian Goldsmid (The University of New South Wales, Australia)
“ビスマステルルの熱電冷却に関するさきがけ研究とその実用による大容量光通信の実現”
河本 邦仁 氏 (名古屋大学, 日本)
“環境調和型無機熱電変換材料の開発”
2019
Prof. Gerbrand Ceder (UC Berkeley, USA)
“第一原理計算に基づくデータ駆動型材料研究の先駆け”
Dr. Pierre Villars (Materials Phases Data System (MPDS), Switzerland)
“無機材料データベースPauling File の開発”
2018
佐川 眞人 氏 (大同特殊鋼株式会社、日本)
“ネオジム磁石の発明と実用化”
宮﨑 照宣 氏 (東北大学、日本)
“トンネル磁気抵抗素子における室温巨大磁気抵抗の実現とそのスピントロニクスデバイス応用に関する先導的研究”
2017
Prof. John Ågren (Royal Institute of Technology, Sweden)
“計算熱力学の発展と動力学計算ソフトウェア構築への貢献”
Prof. Bo Sundman (Royal Institute of Technology, Sweden)
“計算熱力学の発展と熱力学計算ソフトウェア構築への貢献”
石田 清仁 氏 (東北大学、日本)
“状態図とミクロ組織の熱力学に基づく構造材料の合金設計と実用化”
2016
水島 公一 氏 (東芝リサーチ・コンサルティング株式会社、日本)
“リチウムイオン二次電池に適した正極材料(LiCoO2)の発見”
吉野 彰 氏 (旭化成株式会社、日本)
“リチウムイオン二次電池の実現”

NIMS Award授賞式・受賞記念講演

11/17[水] 10:10~ 英語プログラム(日本語訳なし)

NIMS Award 2021は、「量子マテリアル」の分野で世界的に傑出した業績を残した3名が受賞しました。11月17日(水)は受賞式と受賞者3名による記念講演をオンライン配信いたします。