2020年の受賞者
- 研究分野
- 熱電エネルギー変換
- 研究成果
- ビスマステルルの熱電冷却に関するさきがけ研究とその実用による大容量光通信の実現
- 成果の概要
- 1954年にビスマステルルが、ペルチェ冷却に最も適する熱電材料であることを、世界にさきがけて見出し、世界で初めて熱電エネルギー変換の実用化への道筋を示した。今なお、ビスマステルルはペルチェ素子として利用される唯一の熱電材料で、電流による熱流制御(ペルチェ効果)により光通信用赤色半導体レーザー波長を一定にするための精密な温度管理が可能となり、大容量・長距離伝送を全世界で実現している。また、1958年には熱伝導率のバイポーラ成分の実証、1959年にはフォノン・ドラッグの観察と熱磁気実験を世界に先駆けて実施した。1968年にフォノンの境界散乱に関する理論の提案、1972-74年には境界散乱を実証し、実験物理の研究から熱電変換及び熱伝導現象に関する数多くの優れた業績を上げた。
- 業績の学術界・産業界への波及
- ビスマステルルは室温付近で熱電エネルギー変換効率が高い唯一の材料で、その世界にさきがけた研究成果は熱電冷却技術を飛躍的に発展させる契機となった。上述のように、フォノン伝導を中心とした実験物理から熱電エネルギー変換及び熱伝導現象に関する多くの研究成果も挙げており、これらの優れた業績は、熱電エネルギー変換の礎を築き、その進歩・発展に大いに貢献するとともに、光通信の3桁以上の大容量化や長距離伝送の実現により、IoT社会ひいてはSociety 5.0の基盤形成に大きく寄与した。
- 研究分野
- 無機材料科学
- 研究成果
- 環境調和型無機熱電変換材料の開発
- 成果の概要
- 酸化物や硫化物による環境調和型熱電変換材料の高性能化に世界にさきがけ着手した。その手法として、導電体と絶縁体ナノブロックレーヤを交互積層させて周期構造を作ることで、電子伝導率を損なうことなく、熱伝導率低減を達成し、高い熱電性能の発現が可能であることを提唱した。この考えを、それまで低性能であったチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)に適用し、室温でZT=2.4*を達成した。さらに、無機/有機複合超格子(TiS2/ヘキシルアミン)へ適用して、室温~100℃で最高ZT=0.32を達成した。これは、フレキシブル熱電変換材料としては世界最高レベルの性能である。
* ZTとは、無次元性能指数と呼ばれる熱電素子におけるエネルギー変換効率を決定する因子。ZT=1程度が実用化の目安とされてきた。従来のチタン酸ストロンチウム (SrTiO3)のZTは、室温で約0.08であったことから、「室温でZT=2.4」を達成したということは、SrTiO3のZTを約30倍に向上したことになる。 - 業績の学術界・産業界への波及
- 毒性及び希少元素を含むものが一般的であった従来の熱電変換材料に対し、環境調和型の材料の重要性及び高性能化の可能性を見出し、熱電変換材料開発におけるパラダイムシフトを主導した。また、フレキシブルな熱電変換材料は従来、低性能な有機物のみが検討されていたところ、硫化物のファンデルワールス層間への有機物挿入や複合超格子の作製により、フレキシブルな高性能無機有機ハイブリッド熱電材料を構築するなど、世界に先駆けて材料系の可能性の広がりを見出し、先駆的な研究成果をあげた。さらに、こうしたナノ構造化による高性能熱電材料開発手法により、IoT用熱電発電へ向けた実用化研究を促進させ、広く社会で使われることを目指した環境調和型熱電変換材料の開発に、大きく貢献した。
過去の受賞者
- 2019
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Prof. Gerbrand Ceder(UC Berkeley, USA)
“第一原理計算に基づくデータ駆動型材料研究の先駆け”Dr. Pierre Villars(Materials Phases Data System (MPDS), Switzerland)
“無機材料データベースPauling File の開発” - 2018
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佐川 眞人 氏(大同特殊鋼株式会社、日本)
“ネオジム磁石の発明と実用化”宮﨑 照宣 氏(東北大学、日本)
“トンネル磁気抵抗素子における室温巨大磁気抵抗の実現とそのスピントロニクスデバイス応用” - 2017
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Prof. John Ågren(Royal Institute of Technology, Sweden)
“計算熱力学の発展と動力学計算ソフトウェア構築への貢献”Prof. Bo Sundman(Royal Institute of Technology, Sweden)
“計算熱力学の発展と熱力学計算ソフトウェア構築への貢献”石田 清仁 氏(東北大学、日本)
“状態図とミクロ組織の熱力学に基づく構造材料の合金設計と実用化” - 2016
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水島 公一 氏(東芝リサーチ・コンサルティング株式会社、日本)
吉野 彰 氏(旭化成株式会社、日本)
“リチウムイオン二次電池用正極材料(LiCoO2)の発見とリチウムイオン二次電池の実現に関する業績” - 2015
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Prof. Harald Rose(University of Ulm, Germany)
Prof. Maximilian Haider(KIT, CEOS GmbH, Germany)
Prof. Knut Wolf Urban(Research Centre Juelich, Germany)
“電子顕微鏡の収差補正装置の開発”