NIMS Award 2016

NIMSでは2007年より、物質・材料科学において飛躍的な進歩をもたらした個人、グループにNIMS Awardを授与しています。
本年は「環境・エネルギー材料」分野における業績について顕彰します。

2016年の受賞者

水島 公一
東芝リサーチ・コンサルティング株式会社 エグゼクティブフェロー
吉野 彰
旭化成株式会社 顧問
技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター 理事長
九州大学エネルギー基盤技術国際教育研究センター 客員教授

受賞理由

リチウムイオン二次電池用正極材料(LiCoO2)の発見とリチウムイオン二次電池の実現に関する業績

水島公一氏は二次電池の正極としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)の有効性を示し、吉野彰氏は正極にLiCoO2、負極に炭素材料を導入し、電解液にプロピレンカーボネートを用いることでリチウムイオン二次電池の原型を確立しました。リチウムイオン二次電池が実現したことにより、携帯電話、デジタルカメラ、ハンディビデオ、ノートパソコンなど様々な可搬型電子機器の市場拡大につながりました。また、現在も材料やデバイス開発により大容量化、大型化の蓄電池研究が進んでいます。材料研究からリチウムイオン二次電池を実現し、産業界に大きな影響を与え、蓄電池研究分野の拡大につながった両氏の業績がNIMS Award 2016のテーマである「環境・エネルギー材料」分野において高く評価されました。

受賞者のプロフィール

水島 公一
東芝リサーチ・コンサルティング株式会社 エグゼクティブフェロー
研究分野 環境エネルギー材料
研究成果の名称 リチウムイオン二次電池に適した正極材料(LiCoO2)の発見
研究成果の概要 金属リチウムを負極に用いるリチウム(一次)電池は高エネルギー密度であるが、充電時のデンドライト形成による耐久性・安全性の問題があり、1970年代における二次電池化の取り組みは難航していた。また,正極としては主に硫化物材料が注目されていたが,二次電池として電圧が低いことが課題であった。1980年、J.B.Goodenough教授(Oxford大学(当時))と共同で、層状岩塩型酸化物であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)が金属リチウムに対して4Vを越える電位を示すとともに広い組成範囲で可逆にリチウムイオンを脱離・挿入可能であることを見出し、電池正極として応用可能であることを示した。これにより金属リチウムを含まない材料を負極として用いることが可能となった。
吉野 彰
旭化成株式会社 顧問 技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター 理事長 九州大学エネルギー基盤技術国際教育研究センター 客員教授
研究分野 環境エネルギー材料
研究成果の名称 リチウムイオン二次電池の実現
研究成果の概要 正極にLiCoO2、負極にポリアセチレンという全く新規な正負極材料の組み合わせと、電解液にプロピレンカーボネートを用いることで現在の「リチウムイオン二次電池」の原型となる二次電池を発明した。その後、比重の小さいポリアセチレンを気相成長法炭素繊維(VGCF)に置き換えることで容量密度が飛躍的に高められることを見出し、リチウムイオン二次電池の商品化へ大きく貢献した。また、リチウムイオン二次電池の実用化に必須であった技術の開発・発明を数多く行ってきた。例えば、薄い金属箔を集電体として、その両面へ活物質を塗布したシート状の電極をコイル状に捲く製法を発明し、水系電解液と比較して電気伝導度の劣る非水系電解液を利用しても高い電流密度を取り出せるようになった。また、電池の異常発熱時、正負極を隔てるセパレータ膜が自己溶融し自身の微細孔を塞ぐことで電池機能を停止させるセパレータのヒューズ機能や、過大電流が流れると発熱によって抵抗が上昇して電流の流れを制限するように働く正温度特性デバイス(PTC)は氏の発明である。電池への安全機能の装備も高エネルギー密度のリチウムイオン二次電池の実用化には欠かせないものであり、これらの開発にも大きな貢献をした。

NIMS Awardとは

NIMSでは2007年より物質・材料に関わる科学技術において優れた業績を残された研究者に国際賞「NIMS Award」を授与しております。

過去の受賞者

2015
Prof. Harald Rose (Ulm University, Germany)
Prof. Maximilian Haider (Karlsruhe Institute of Technology and CEOS, Germany)
Prof. Knut Wolf Urban (Juelich Research Centre, Germany)

2014
Prof. Krzysztof Matyjaszewski (Carnegie Mellon University, USA)
澤本 光男 教授(京都大学、日本)

2013
細野 秀雄 教授(東京工業大学、日本)

2012
Prof. Harry K.D.H. Bhadeshia (Tata Steel Professor of Metallurg, University of Cambridge, USA)
Prof. John William Morris, Jr. (Department of Materials Science and Engineering, University of California, Berkeley, USA)
Prof. Subra Suresh (Director, National Science Foundation (NSF), USA)

2010
Prof. Jean Marie Tarascon (ALISTORE-ERI, Insitute of Chemistry of Picardie)

2009
片岡 一則 教授(東京大学、日本)

2008
Prof. Anthony G. Evans (University of California, Santa Barbara, USA) (1942-2009)
Prof. David R. Clarke (University of California, Santa Barbara, USA)
Prof. Carlos G. Levi (University of California, Santa Barbara, USA)

2007
Prof. William H. Butler (University of Alabama, USA)