NIMS Award 2025
受賞者
受賞者3名は、ペロブスカイト太陽電池の開発における重要な役割を果たし、
実用化に向けて重要な一歩を踏み出したことが評価されました。
宮坂 力 教授
Project Professor, Faculty of Biomedical Engineering,
Toin University of Yokohama
Prof. Henry Snaith
The Binks Professor of Renewable Energy, Department of Physics,
University of Oxford
Prof. Nam-Gyu Park
Lifetime Distinguished Professor, School of Chemical Engineering/Director, SKKU Institute of Energy Science and Technology (SIEST),
Sungkyunkwan University
研究成果の概要
宮坂氏は、可視光領域に大きな吸収係数(*1)を有する鉛ハライドペロブスカイト半導体を世界で初めて太陽電池へ適用し、「ペロブスカイト太陽電池」という新しい研究分野を切り拓いた。当初、ヨウ素を含む電解液を正孔輸送層(*2)として活用した色素増感太陽電池と類似の湿式配置が採用されていたため、ペロブスカイト薄膜が電解液に溶解してしまうという安定性の面での課題があった。
その後、Snaith氏と宮坂氏の共同研究、ならびに、同時期に行われたPark氏の研究において、正孔輸送層としてSpiro-MeOTAD(*3)を用いた固体型のペロブスカイト太陽電池が誕生し、安定性および光電変換効率が飛躍的に向上するに至った。こうした一連の研究が、ペロブスカイト太陽電池の研究を活性化する大きな契機となり、現在までに世界中の多くの大学や企業などが研究開発に参入している。
業績の学術界・産業界への波及
現在、世界各国でペロブスカイト太陽電池の大面積化および長期信頼性向上を目指した研究開発が進められている。シリコン太陽電池の材料となる結晶シリコンの製造過程では1400℃の高温が必要とされるが、ペロブスカイト太陽電池は100℃程度の低温プロセスにより作製可能であるため、プラスチックなどの軽量な基板の上に製造できるという利点がある。
さらに、ペロブスカイトの組成を変更することによりバンドギャップ(*4)を制御できることから、ペロブスカイトをトップセル、結晶シリコン、CIGS、GaAsなどをボトムセルとしたタンデム太陽電池を構築し、より効率よく太陽光を利用するための取り組みも盛んに行われている。
日本でも大手総合化学メーカーからベンチャーに至るまで、多くの企業が精力的に研究開発を進めており、2025年大阪万博での展示発表に加えて、軽量・フレキシブルという特長を生かして、従来のシリコン太陽電池では困難であった様々な場所への設置と、試験的な販売が始まっている。
(1) 吸収係数:太陽電池においては、その材料が可視光をどれほど効率よく吸収できるかを示す特性であり、これが高いほど材料が薄くてもより多くの光を吸収できる。
(2) 正孔輸送層:太陽電池内で発生したプラスの電荷の担い手である正孔を効率的に電極まで運ぶための層。
(3) Spiro-MeOTAD:湿式の太陽電池で用いられるヨウ素を含む電解液に代わり、乾式の太陽電池において正孔輸送層として使われる優れた有機材料。
(4) バンドギャップ:材料が吸収できる光のエネルギーを決める特性であり、適切な幅であると太陽光を効率よく活用できる。 タンデム太陽電池ではトップセルとボトムセルが役割分担をして、それぞれが太陽光のうち異なるエネルギーの光を吸収することで、太陽光のエネルギーをよりもれなく利用することを狙っている。