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プレスリリースプレスリリース

半世紀以上熱電変換の最高性能を誇るBi2Te3系に匹敵する新規材料を開発

~希少元素を大幅削減して高性能化とモジュール化に成功 熱電変換普及への貢献に期待~

国立研究開発法人 物質・材料研究機構 (NIMS)
国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)

NIMSは、n型Mg3Sb2系材料にわずかな銅原子を添加することで、高性能な熱電材料に必要な熱伝導率低減と電荷移動度1)向上を両立させることに成功しました。さらに、同様に高性能化したp型材料と合わせて、産業技術総合研究所と共同で熱電モジュールを作製し、室温と320℃の温度差において、半世紀以上に亘り最高性能の記録を保持し続けているBi2Te3系材料に匹敵する熱電変換効率7.3%を実現しました。

研究概要図

プレスリリース中の図2 : 開発したMg3Sb2系材料で作成したモジュール (左) とその変換効率 (右) (●の点)



概要

NIMSは、n型Mg3Sb2系材料にわずかな銅原子を添加することで、高性能な熱電材料に必要な熱伝導率低減と電荷移動度向上を両立させることに成功しました。さらに、同様に高性能化したp型材料と合わせて、産業技術総合研究所と共同で熱電モジュールを作製し、室温と320℃の温度差において、半世紀以上に亘り最高性能の記録を保持し続けているBi2Te3系材料に匹敵する熱電変換効率7.3%を実現しました。この技術は、材料性能から見積もられる理論効率は約11%とさらなる高効率化も見込まれ、希少元素であるTeを主成分として含まないことから、IoTセンサーの自立電源やモバイル発電機など幅広い分野での応用が期待されます。

一次エネルギーの多くは熱として排出されており、特に320℃以下の低温域が廃熱の約90%を占めます。この廃熱を有効活用するため、熱を電気に変換する熱電材料の開発が世界中で進められています。熱電変換効率の向上には、熱伝導率を低く、電気伝導率を高くする必要があります。しかし電気伝導率が高いと熱伝導率も高くなるという相反する性質があり、低温域の熱電変換性能は、半世紀以上も前に見いだされたBi2Te3系を超える材料はいまだに開発されていません。一方で、Bi2Te3系材料は主成分のTeが希少元素であることが、熱電発電の普及を妨げています。そこで、希少元素を極力用いずにBi2Te3系を代替できる高性能熱電材料の開発が強く求められています。

本研究グループはMg3Sb2系材料に少量の銅原子を添加すると、2つの効果で熱電性能が向上することを発見しました。第一の効果は、原子間隙に挿入された少量の銅原子が、熱伝導を司るフォノンの速度を低減し、熱伝導率を著しく低減できることです。これにより、利用熱の散逸を抑止し、高効率の熱電発電を実現できます。第二の効果は、粒界へ挿入された銅原子が電子の散乱を抑え、熱伝導率の低い多結晶体試料でありながら、単結晶材料に匹敵する高い電気伝導率を実現することです。これにより、ジュール発熱によるエネルギー損失を抑えることができます。この2つの効果により、熱電材料における電気伝導と熱伝導のトレードオフ問題を解決して、高い熱電効率を実現しました。

今回の成果は、希少元素をほとんど用いない熱電モジュールの実用化および普及に道を拓くものであり、大きな省エネ効果につながるだけでなく、Society 5.0を実現するために必要な無数のセンサー用自立電源向けの熱電モジュールの実用化にも大きな貢献が期待されます。さらに、今回見いだされた新規なフォノン散乱効果や粒界制御効果は、他の熱電材料の高性能化にも活用できる可能性があり、熱電材料の全般的な高性能化に大きく貢献することも期待されます。

本研究は、国立研究開発法人物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 熱エネルギー変換材料グループの 森 孝雄 グループリーダーと、国立研究開発法人産業技術総合研究所 省エネルギー研究部門の李 哲虎 首席研究員らの研究グループによって行われました。また、本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構 (以下、JST) 未来社会創造事業 大規模プロジェクト型 技術テーマ「センサ用独立電源として活用可能な革新的熱電変換技術」 (研究開発代表者 : 森 孝雄) の支援を受け実施されました。

本研究成果は、Joule誌にてアメリカ東部時間2021年4月16日11時 (日本時間17日0時) にオンライン掲載されます。


掲載論文

雑誌 Joule
題目 Demonstration of Ultrahigh Thermoelectric Efficiency of ~7.3% in Mg3Sb2/MgAgSb Module for Low Temperature Energy Harvesting
著者 Zihang Liu (NIMS), Naoki Sato (NIMS), Weihong Gao (NIMS), Kunio Yubuta (東北大), Naoyuki Kawamoto (NIMS), Masanori Mitome (NIMS), Keiji Kurashima (NIMS), Yuka Owada (NIMS), Kazuo Nagase (AIST), Chul-Ho Lee (AIST), Jangho Yi (NIMS), Koichi Tsuchiya (NIMS), and Takano Mori (NIMS)
掲載日時 アメリカ東部時間2021年4月16日11時 (日本時間17日0時)
DOI 10.1016/j.joule.2021.03.017

本件に関するお問い合わせ

(研究内容に関すること)

国立研究開発法人物質・材料研究機構
ナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA)

ナノマテリアル分野 熱エネルギー変換材料グループ
グループリーダー

森 孝雄 (もり たかお)

Tel: 029-860-4323

E-Mail: MORI.Takao=nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)

(報道・広報に関すること)

国立研究開発法人 物質・材料研究機構 (NIMS)
経営企画部門 広報室

〒305-0047 茨城県つくば市千現 1-2-1

Tel: 029-859-2026

Fax: 029-859-2017

E-Mail: pressrelease=ml.nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(AIST)
広報部 報道室

〒305-8560 茨城県つくば市梅園1-1-1 中央第1 つくば本部・情報技術共同研究棟

Tel: 029-862-6216

Fax: 029-862-6212

E-Mail: hodo-ml=aist.go.jp
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国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)
広報課

〒102-8666 東京都千代田区四番町5 番地3

Tel: 03-5214-8404

Fax: 03-5214-8432

E-Mail: jstkoho=jst.go.jp
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(JSTの事業に関すること)

国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)
未来創造研究開発推進部 低炭素研究推進グループ
加藤 真一 (かとう しんいち)

〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K's五番町

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Fax: 03-3512-3533

E-Mail: alca=jst.go.jp
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