国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA) 表面量子相物質グループ

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研究内容

私たちのグループでは、以下のようなさまざまな研究を行っています。

  • 表面界面における原子層超伝導体の研究
  • ダイヤモンドFETデバイスの研究
  • レーザー光を用いた2光子光電子分光による表面物性の研究
  • 窒化ホウ素で保護されたLaB6電子源の研究
以下では、「表面界面における原子層超伝導体の研究」について紹介します。

1) 表面原子層における超伝導の発見

半導体や絶縁体の表面界面では吸着物質やそれによる電荷移動、また電界効果などによって高いキャリア密度をもつ2次元電子系をつくることが可能です。このような理想的な2次元系で超伝導を探索することは、重要かつ魅力的な問題です。

 私たちは原子1-2個の厚さしかない高い結晶性をもつインジウム原子層をシリコン基板表面上に作製し、そのゼロ抵抗への転移を観測することで、原子層における超伝導転移の直接的な証拠を初めて得ることに成功しました。超伝導転移温度(Tc ~ 3.1 K)は、表面原子層を構成するインジウムのバルクでの値(Tc = 3.4 K)とほぼ同じです。また超伝導電流が巨視的なスケールで流れることや、臨界超伝導電流密度が5.8×105 A/cm2程度と極めて大きいことを発見しました。これは、超伝導電流が流れる領域が原子レベルの厚さしかなく、表面に無数にある段差(原子ステップ)が障害となることを考えると、驚くべきことです。

私たちの発見と前後して、さまざまな物質の表面界面で二次元超伝導体の発見が続き、中には非常に転移温度が高いものも報告されています。このような一連の研究は原子スケール厚さをもつ2次元超伝導体として、新たな研究分野を形成しています。

参考文献

2) ジョセフソンボルテックスの走査トンネル顕微鏡観察

超伝導状態になった表面に磁場を加えると、磁束の侵入によって超伝導電流の渦(ボルテックス)ができます。私たちは、走査トンネル顕微鏡(STM)をつかって原子ステップに捕捉されたボルテックスを観測したところ、渦が大きく変形して中心付近で壊れていた超伝導状態が復活することを発見しました。これは、原子ステップがジョセフソン接合として働くことを示しています。このようなジョセフソン接合を挟んで流れる超伝導電流の渦をジョセフソンボルテックスと呼びます。

ジョセフソンボルテックスの存在は以前から知られており、高温超伝導体などでも重要な働きをしますが、その電子状態を直接に観測したのはこれが初めてです。ジョセフソン接合は超伝導素子をつくる際の最も基本的な構成要素であるため、この発見は応用上も重要です。(東京大学物性研究所長谷川幸雄研究室、NIMS-MANA胡グループとの共同研究)

参考文献

3) ラシュバ型スピン軌道相互作用による巨大臨界磁場

固体表面では空間反転対称性が破れている(真空側と基板側のポテンシャルが異なる)ため、一般にラシュバ型のスピン軌道相互作用が現れ、エネルギーバンドはスピン分裂します。私たちはシリコン表面上のインジウム原子層結晶に対してレーザー光を用いた角度分解光電子分光(ARPES)を行い、フェルミ面がスピン分裂していることを直接に観測することに成功しました。また、超伝導転移した試料に磁場を印加して臨界磁場を測定したところ、面内方向の臨界磁場が標準的な理論値であるパウリ限界を超えて異常に増大していることを発見しました。これは、ラシュバ型のスピン軌道相互作用によって電子のスピンと運動方向がロックされ、スピン反転時間が極めて短くなったためです。このような動的なスピン運動量ロッキングの機構を始めて提唱し、電子輸送測定の詳細な解析から強い証拠を得ることに成功しました。

磁場に対して頑強な超伝導体は実用的にも重要であり、またラシュバ型スピン軌道相互作用、強磁場、超伝導状態を組み合わせることで、トポロジカル超伝導体やそれに付随するマヨラナ状態をつくれることが理論的に提唱されています。私たちの発見はこのような研究の基礎となるものです。(大阪大学坂本一之研究室、NIMS矢治グループとの共同研究)

参考文献

(上) 角度分解光電子分光によって得られたインジウム原子層超伝導体のフェルミ面。赤と青の矢印はスピン偏極方向を示す。

(下) 面内および面直臨界磁場の温度依存性。磁場はパウリ限界(BPauli = 5.5 – 5.8 T)で、温度は超伝導転移温度(Tc0 = 2.97 - 3.14 K)で規格化している。

 




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