細菌と材料から、生命の原理と応用技術を切り拓く研究室
私たちのめざすもの
生命という、絶え間ない無数の化学反応と電子のやりとりが織りなす動的な状態を、リアルタイムで捉え、理解することは可能でしょうか?私たちは、電極などの材料を「足場/窓」として用いることで、細菌やバイオフィルムなどの細菌集団を生きたまま計測し、どの生化学プロセスが振る舞いを決める鍵になっているのかを明らかにします。基礎への探究心と同時に、医療・エネルギー・環境などの実社会の課題から逆算して問いを立て、そこで生まれる技術を再び基礎研究へフィードバックする―この往復運動が私たちの研究室の哲学です。社会実装は、これまでは特許ライセンシングへ向けた国内外の企業との連携を中心に進め、現在はスタートアップ立ち上げの準備を進めています。
1. 生命のスピードを決めるしくみを解き明かす
生命の速さを決める“ボトルネック反応”は何か?
遺伝子工学が可能なモデル細菌を使い、電子移動と代謝の速度論からその答えに迫る。
細菌は環境に応じて代謝速度を1万倍以上の幅で変化させ、ゆっくり生きる状態は薬剤が効きにくい状態(パーシスター化など)につながり得ます。一方で、速い代謝はバイオプロセスの効率やエネルギー変換の性能を左右します。私たちは、材料・電気化学・分光などを組み合わせて「生きている細菌の速さ」を定量し、どの分子や反応が律速しているのかを、遺伝子改変と系統的な実験で検証します。得られた“速度制御の原理”を手がかりに、細菌の振る舞いを狙って変える新しい制御・殺菌戦略へつなげます。
バイオフィルムにおける電子移動ボトルネックである細菌表面における MtrC-OmcA 酵素間の電子移動「JACS 2025」。 Shewanella oneidensis MR-1のバイオフィルムの導電電流測定および各温度下での代表伝導電流(Icond)とゲート電位の測定値。このアレニウス型プロットによって、バイオフィルム電子伝導の活性化エネルギーが推定できます。
2. 材料と細菌を組み合わせて新しい技術を創る
材料×細菌で、これまでにない“機能”をつくる。
電気を授受できる微生物と材料設計を組み合わせた「サイボーグ細菌」をつくり、反応の場を二次元から三次元へ拡張。
材料と細菌は異なる機能や特徴を持つため、それぞれの強みを工夫して引き出すことができれば、革新的な技術を創り出せる可能性があります。例えば、電極触媒反応は高い反応効率を持ちますが、スケールアップが難しいという問題点があります。電子を材料に注入することができる細菌を使えば、従来では2次元の電極反応を3次元に拡張することができます。わたしたちは、リチウムなどの有用元素の回収にこの新技術を応用することを試みています。さらに、この材料と細菌の相互作用を高めるための、遺伝子破壊株スクリーニングや材料合成や、膜タンパク質機能を材料へ組み込むハイブリッド材料の創成にも取り組みます。こうした「機能を創る」研究から得られる知見は、生命が材料とどう相互作用するかという基礎理解にもフィードバックします。
細菌と海水、そしてスピネル型構造を持つ酸化マンガンMnO2を混ぜるだけで、細菌と材料の自己集合が進み、Liが挿入された新しい結晶LiMn2O4が形成される。
3. 生命ダイナミクスをそのまま見る技術を創る
生きたままの細菌集団から、動的な生化学情報をどう抜き出すか?
独自の高スループット電気化学デバイスとデータ科学で、生命ダイナミクスをリアルタイムに捉える。
古くから生化学者は、細胞を解体し、個々の生体分子に分け、標本にしてきました。部分を理解し、その知識を積み上げることで全体としての生命のしくみを説明してきたのです。一方で、生命における生体分子間の相互作用や動的な仕組みを直接見ることは難しい課題として残っています。私たちは、細菌が発生させる電流に着目し、従来の100倍以上のスループットで計測できる独自のデバイスを開発することで、電気化学を生化学や生物学における強力なツールとして再発明しました。この技術は、データ科学との統合によって、感染症や鉄腐食に関わる細菌を対象に、抗生物質や効果を高める分子の探索など、社会課題に直結するスクリーニングにも展開します。さらに、遺伝子解析と統合し、純粋培養だけでなく細菌叢やバイオフィルムといった複雑系へと研究対象を広げています。
96wellプレートとハイスループット電気化学システムを用いて計測した細菌由来電流の時間変化
