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Ryo Tamura


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研究概要
•  機械学習による超合金粉末製造プロセス最適化
•  例外を発見するAI「BLOX」
•  量子アニーリング・イジングマシンを利用したブラックボックス最適化
•  人工知能を用いた有機分子設計
•  ベイズ最適化による確率分布の最大条件探索
•  機械学習によるナノメカニカルセンサーのシグナル解析
•  機械学習による有効モデル推定
•  機械学習による固体シリコンの量子力学的力場推定
•  反強磁性体の磁気冷凍性能を最大限引き出すための磁場印加手順
•  積層三角格子模型における潜熱の面間相互作用依存性
•  歪んだ三角格子ハイゼンベルクモデルにおける二次相転移
•  乱れの効果によって秩序化するRandom Fan-Out状態
•  透明状態のあるポッツモデルにおける相転移
•  古典ハイゼンベルクモデルにおける三回対称性の破れを伴う一次相転移



機械学習による超合金粉末製造プロセス最適化
超合金製造におけるガスアトマイズのプロセス最適化に対して, 機械学習を用いたベイズ最適化を適用することで,最適な製造プロセスを高速で見つけ出すことに成功した[1]. 超合金開発では,目的の合金粉末を製造するために,多くのプロセス条件を最適化することが必須であり,この最適化には専門家が重要な役割を果たしてきた. このプロセス条件の最適化を専門家ではなく,人工知能に置き換えることができるのか?という問いに答えるため,ベイズ最適化ツール[2,3]を利用したプロセス最適化を実施した(図1). 対象とした合金は,航空機エンジン用材料として有望なNi-Co基超合金であり,ベイズ最適化を用いることで,全く事前の知識がなかったとしても, 良質な粉末を高い収率で生産可能な条件を高速に探索できることを明らかになった. さらに,その条件にて高圧タービンディスク作製に適した粉末を低コストに製造できることを実証した. 製造された粉末を図2に示す. 本技術を活用することで,大型装置を用いる実際の粉末製造現場において,粉末単価,試行回数・時間の大幅な軽減が可能となり, 高性能・高品質・低コストな超合金粉末のいち早い製品化が期待される.


本研究は,長田俊郎博士,皆川和己氏,小幡卓眞氏,廣澤正志氏,津田宏治先生,川岸京子博士との共同研究です.

<報道>
NIMSプレスリリース(2020年11月30日)[Link]
OPTRONICS(2020年11月30日)
NEXT MOBILITY(2020年11月30日)
鉄鋼新聞(2020年12月1日4面)
All about Photonics(2020年12月8日)
MONOist(2020年12月10日)
電波新聞(2020年12月11日)
化学工業日報(2020年12月15日3面)
日刊産業新聞(2020年12月18日11面)


〈References〉
[1] R. Tamura, T. Osada, K. Minagawa, T. Kohata, M. Hirosawa, K. Tsuda, and K. Kawagishi, Materials & Design 198, 109290 (2021).
[2] K. Terayama, K. Tsuda, and R. Tamura, Japanese Journal of Applied Physics 58, 098001 (2019).
[3] https://www.tsudalab.org/project/mitools/
BO_alloy

図1

BO_alloy

図2

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例外を発見するAI「BLOX」
機械学習をうまく組み合わせることで, 例外の度合いを数値化し,例外的な物質を積極的に発見するAIを開発し, 「BLOX(BoundLess Objective-free eXploration)」と名付けた[1,2]. BLOXは,特性が既に分かっている物質(既知物質)のデータベースを利用し,特性がまだ不明な物質(未知物質)のうち最も例外的と考えられる物質を提案する手法である. まず,既知物質から機械学習を用いて特性を予測するモデルを構築し,そのモデルを使って未知物質の特性を予測する. すると,図1のように既知物質が示す特性分布(黒丸)と,未知物質に対する予測特性分布(三角)が得られ, 未知物質の予測特性分布のうち最も「外れた」ものが例外的物質であると期待される物質と認識できる. 予測特性分布からの外れ度合いを数値化するために「Stein novelty」という尺度を導入すると, 例外的な物質(図1の赤三角)の候補が選択される. さらに,この候補物質の実際の特性を実験やシミュレーションによって測定し,そのデータを既知物質のデータベースに追加する. 以上のプロセスを繰り返すと,例外的な特性を示す物質データが次々と蓄積され,より例外的な物質の探索が促進される. BLOXを用いて,創薬用の市販分子データベースであるZINCの中から,例外的な光吸収特性を持つ化合物を探索した結果を図2に示す. 結果として,ランダムな探索により得られた分子の分布に比べて分布が大きく広がり,例外的な分子の候補を多数発見することに成功した.


本研究は,寺山慧先生,隅田真人博士,津田宏治先生,石原伸輔博士,Mandeep Kaur Chahal博士,Daniel Tony Payne博士との共同研究です.

<報道>
NIMSプレスリリース(2020年5月28日)[Link]
ニュースイッチ(2020年5月29日)
化学工業日報(2020年06月03日朝刊4面)
日経産業新聞(2020年06月11日4面)
科学新聞(2020年06月21日)
日刊産業新聞(2020年06月23日9面)


〈References〉
[1] K. Terayama, M. Sumita, R. Tamura, D. T. Payne, M. K. Chahal, S. Ishihara, and K. Tsuda, Chemical Science 11, 5959-5968 (2020).
[2] https://github.com/tsudalab/BLOX
BO_alloy

図1

BO_alloy

図2

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量子アニーリング・イジングマシンを利用したブラックボックス最適化
量子アニーリング・イジングマシンをブラックボックス最適化における候補材料選択に利用することで,ブラックボックス最適化の計算時間を短縮できる手法を開発した. イジングマシンを利用したブラックボックス最適化手法の概要を図1にまとめた. 特性予測を行うための機械学習モデルとして,イジングモデルで表すことのできるFactorization machine(FM)を採用した. FMを予測モデルとして利用するためには,解きたい問題を2値変数で表す必要がある. つまり,材料の組成,構造,プロセスを2値変数の組で表現しなければならず,この点は工夫が必要となる. 材料を表す2値変数の組を入力すると,材料特性値が予測できるようにFMを学習する. このFMの最小条件を求めるために,全候補材料に対する予測特性値を計算してしまうと,組合せ爆発により時間がかかってしまう. ここでイジングマシンを用いると,FMの最小条件を高速で探索することができる. そこで,イジングマシンの登場である. FMの最小条件を求めることはイジングモデルの最小条件を求めることと等価であり,イジングマシンを利用することで高速に得ることができる. つまり,学習されたFMをイジングマシンで解くことで,全ての材料候補から予測特性が良い候補材料を高速で選択でき,組合せ爆発を回避することができる. この選択された材料の特性を実験またはシミュレーションで特定する. そして,更新された材料データに対してFMを再学習し,イジングマシンで新たな材料候補を選定する. これを繰り返すことで,ブラックボックス最適化を高速に実行することが可能となる.

開発手法を利用し,放射冷却用メタマテリアル探索を行った. 図2に示すような3種類の材料(SiO2, SiC, PMMA)の並べ方に対する放射冷却特性の最適化を行った. 並べ方を2値変数の組で表すことで,FMを用いることができる. その結果,イジングマシン(本研究ではD-Wave 2000Q量子アニーラを用いた.)を利用することで,候補材料選択にかかる時間を圧倒的に短縮でき,材料探索にかかる時間をこれまでのブラックボックス最適化手法に比べて短縮できることが示せた. 材料探索が短時間となったため,様々な問題設定による最適化計算を実行することが可能となり,特性計算を用いた材料探索ではあるが,これまで開発されてきたメタマテリアルに比べて,高い性能を持つ材料を設計することができた.


本研究は,北井孝紀博士,J. Guo博士,S. Ju博士,田中宗先生,津田宏治先生,塩見淳一郎先生との共同研究です.


〈References〉
[1] K. Kitai, J. Guo, S. Ju, S. Tanaka, K. Tsuda, J. Shiomi, and R. Tamura, Physical Review Research 2, 013319 (2020).
[2] https://github.com/tsudalab/fmqa
BO_alloy

図1

BO_alloy

図2

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人工知能を用いた有機分子設計
人工知能(AI)を使って新しい分子を設計することが可能になってきている. AIを用いると,これまでに知られていなかった空間で分子が発見される可能性があり,注目を集めている. 実際,膨大な数の潜在的な分子を短時間でスクリーニングすることで,これまでの型にはまらない分子が数多く設計されている. しかしながら,そのようなAIによって設計される分子を実際に合成することができるか,そしてそれらが所望の機能性を示すかは,未解決の問題であった.
AIによって設計される分子が実際に合成できるかを確かめるため,新規光機能分子を発見するためのAI支援による化学プラットフォームを用意した(図1). このプラットフォームは,ChemTS(分子発生器)[1,2]とGAUSSIAN(DFTシミュレータ)[3,4]から成り,励起状態が望ましい波長にある分子を発生するように構成した. AIによって発見された86個の新分子のうち,6つを合成することができ(図2),そのうち5つがDFT予測を再現することが確認された. この結果は,AIは適切な量子力学に基づいた分子シミュレーション技術と組み合わせることにより,所望の性質を持った合成可能な分子を設計できることを意味している[5].


本研究は,隅田真人博士,石原伸輔博士,津田宏治先生との共同研究です.

<報道>
NIMSプレスリリース(2018年8月23日)[Link]
日本経済新聞(2018年8月24日)
日経バイオテク(2018年8月27日)
鉄鋼新聞(2018年8月27日3面)
OPTRONICS ONLINE(2018年8月28日)
日刊産業新聞(2018年8月28日11面)
日刊工業新聞(2018年8月29日7面)
化学工業日報(2018年8月29日1面)
電子デバイス産業新聞(2018年9月13日)
電波新聞(2018年9月14日10面)
日経産業新聞(2019年5月10日6面)


〈References〉
[1] X. Yang, J. Zhang, K. Yoshizoe, K. Terayama, and K. Tsuda, Science and Technology of Advanced Materials 18 972 (2017).
[2] https://github.com/tsudalab/ChemTS
[3] R. G. Parr and W. Yang, Density-Functional Theory of Atoms and Molecules (Oxford University Press, 1989).
[4] http://gaussian.com/
[5] M. Sumita, X. Yang, S. Ishihara, R. Tamura, and K. Tsuda, ACS Central Science 4, 1126 (2018).
AIChem

図1

AIChem

図2

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ベイズ最適化による確率分布の最大条件探索
機械学習による有効モデル推定[1]を高速に行うために, 確率分布の最大条件探索に適したベイズ最適化手法を提案した. 近年情報科学分野で,ブラックボックス関数の最大または最小値をサンプル数が少ない場合に効率良く得る方法として,ベイズ最適化が注目を集めている[2]. ベイズ最適化では,ガウス過程によりブラックボックス関数の内挿関数を求める. そして,その内挿関数を用いて獲得関数を生成し,ブラックボックス関数の最大・最小条件を探索する. 本研究で提案したベイズ最適化手法の重要な点は,ガウス過程によって得られる獲得関数の極値を次に計算すべき候補として利用する点である. これにより,連続変数で記述される確率分布の局所最大または最大条件を効率よく探索することが可能となる.

本提案手法のデモンストレーションとして,量子ハイゼンベルクモデルを対象とした有効モデル推定における事後確率分布の最大条件探索を行なった[3]. ここでは,確率分布Pの最大条件を求める代わりに,E = - log Pで定義されるエネルギー関数の最小条件を求めた. 図1が各手法で得られたエネルギー関数の最小値のサンプリング数依存性である. ランダムサンプリング法,最急降下法,モンテカルロ法に比べてベイズ最適化により得られるエネルギーは小さいため, よりよい最小条件が探索できていることがわかる. さらに,ベイズ最適化によって見つかった最小条件をスタートとした最急降下法を実行することで, さらによい最小条件が得られることがわかった. 確率分布の最大条件探索は,様々な分野で現れる問題であり, 本提案手法を用いることで,研究スピードの高速化が可能である.

本研究は,福島孝治教授との共同研究です.

<参考文献>
[1] R. Tamura and K. Hukushima, Phys. Rev. B 95 064407 (2017).
[2] T. Ueno, T. D. Rhone, Z. Hou, T. Mizoguchi, and K. Tsuda, Materials Discovery 4, 18 (2016).
[3] R. Tamura and K. Hukushima, PLoS ONE 13, e0193785 (2018).
2018BO

図1

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機械学習によるナノメカニカルセンサーのシグナル解析
超高感度小型センサ素子 「MSS (Membrane-type Surface stress Sensor」[1]を用いることで,様々な種類の分子を測定することができる. 現在,このMSSを使用したニオイ分析センサーシステムの開発が行われている[2].

本研究では,このMSSの測定結果を機械学習によって解析することによって,ニオイから特定の情報を数値化できることを示した. その一例として,香りの異なる様々なお酒のニオイから,アルコール度数という特定情報の推定に挑戦した(図1). 具体的には,まずニオイ分子を吸着する様々な材料をMSSの表面に塗布し,ビールやウォッカなど各種のお酒のニオイを吹きかけ, それぞれのお酒に特有のシグナルを測定する. このシグナルを特徴とし,アルコール度数をラベルとすることで機械学習用のトレーニングデータを用意した. このトレーニングデータを用いて,アルコール度数を推定するための予測モデルをカーネルリッジ回帰[3]によって構築した. さらに,予測精度が改善されるように,機械学習で得られる情報から逆算して, よりお酒のニオイに適した感応材料の選定や,電気信号パターンのどこに注目するか,抽出する特徴量の最適化を行った. このように双方向的に最適化されたハード (センサ+感応材料) とソフト (予測モデル) を利用することで, 図2に示すようにトレーニングデータにないお酒 (赤ワイン、芋焼酎、ウィスキー) のアルコール度数を高い精度で推定することに成功した[4].

本手法は,アルコール度数だけでなく,ニオイを特徴付けるあらゆる特定情報の数値化に応用することが可能です. 例えば,果実の成熟度や健康状態などを数値化してニオイと関連付けることで,それらを定量的に推定できる可能性がある.

本研究は,柴弘太博士,今村岳博士,吉川元起博士との共同研究です.

<報道>
NIMSプレスリリース(2017年6月20日)[Link]
共同通信 47NEWS(2017年6月20日)[Link]
マイナビニュース(2017年6月21日)[Link]
日経産業新聞(2017年6月22日8面)
EE Times Japan(2017年6月27日)[Link]
日刊工業新聞(2017年6月28日7面)[Link]
AI BIBLIO(2017年6月28日)[Link]
ニュースイッチ(2017年6月29日)[Link]
つくばサイエンスニュース(2017年6月30日)[Link]
科学新聞(2017年6月30日4面)
毎日新聞(2017年7月6日夕刊10面)[Link]
毎日新聞(2017年7月7日茨城版2面)[Link]
Academist Journal(2017年9月5日)[Link]
朝日新聞(2017年9月7日25面)[Link]


<参考文献>
[1] G. Yoshikawa, T. Akiyama, S. Gautsch, P. Vettiger, and H. Rohrer, Nano Letters 11, 1044 (2011).
[2] http://www.nims.go.jp/news/press/2015/09/201509290.html.
[3] C. M. Bishop, Pattern Recognition and Machine Learning (Springer-Verlag, New York, 2006).
[4] K. Shiba, R. Tamura, G. Imamura, and G. Yoshikawa, Scientific Reports 7, 3661 (2017).
2017bayes

図1

2017bayes

図2

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機械学習による有効モデル推定
近年,機械学習が様々な分野で注目を集めている[1,2]. 機械学習手法によりトレーニングデータを学習することで,未知データの予測が可能となる. これまで,機械学習の物性分野への適用例として,量子力学的力場推定[3]や強相関系におけるモデル選択[4]などが行われてきた.

本研究では,機械学習により測定された物理量から,その材料を説明できる有効モデルを推定するための方法を提案した[5]. ベイズ統計では,測定された物理量が与えられた際に,有効モデル中のモデルパラメタの条件付き確率分布が導入される. これは,ベイズの定理により,モデルパラメタが与えられた際,ノイズを含めて測定される物理量の条件付き確率分布及び, モデルパラメタの事前分布を用いて表すことができる. ここでは,重要なモデルパラメタの数はあまり多くないと仮定し, L1正則化を基準とした事前分布を導入した. このように得られた事後確率分布を最大にするモデルパラメタを探索することによって,有効モデルを推定することができる(図1).

この提案手法の有用性を検証する目的で,理論磁性モデルが示す磁化過程を入力とした推定問題を検討した. ここでは,理論磁性モデルのスピン間相互作用(この値が推定問題の答えである)を決め,磁化過程を計算し,ガウスノイズを乗せたデータを入力として用いた. そして,事後確率分布を最大とするスピン間相互作用を探索した. その結果,提案手法を用いて推定されたスピン間相互作用は, 入力磁化過程を用意した際に使用したスピン間相互作用の値とほぼ一致することがわかった. 特に,過剰に用意したスピン間相互作用の中から,適切なスピン間相互作用が選択できることがわかった.

本研究は,福島孝治先生との共同研究です.

<参考文献>
[1] T. M. Mitchell, Machine Learning (McGraw-Hill, New York, 1997).
[2] C. M. Bishop, Pattern Recognition and Machine Learning (Springer-Verlag, New York, 2006).
[3] T. Suzuki, R. Tamura, and T. Miyazaki, Int. J. Quantum Chem. 117, 33 (2017).
[4] H. Takenaka, K. Nagata, T. Mizokawa, and M. Okada, J. Phys. Soc. Jpn. 83, 124706 (2014).
[5] R. Tamura and K. Hukushima, Phys. Rev. B 95, 064407 (2017).
2017bayes

図1

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機械学習による固体シリコンの量子力学的力場推定
近年データ駆動型アプローチの第一原理計算分野での応用が精力的に検討されている[1-4]. 本研究では,量子力学的計算によって得られる力(以下,量子力学的力と呼ぶ)を原子の局所的な記述子から機械学習によって直接的に予測する方法について検討する. 高速で量子力学的力を予測することができれば,第一原理計算に準じた精度での長時間分子動力学シミュレーションが実行可能となる. また,広範な温度,任意のサイズに対して適用可能な機械学習力場を構築することができれば,熱力学的特性や固体物性の温度依存性をより速く計算することができ, 物質・材料開発を行う上での重要な知見が得られることが期待される.

本研究では,結晶構造に対し,広範囲な温度,任意のサイズで適用可能な機械学習による力場を構築するための簡便な処方箋を提案した. 具体的には,以下の手順で機械学習モデルを構築する: (i) 興味のある温度領域の上限温度(ただし、融点より低い温度)で一度だけ正準分布の第一原理分子動力学シミュレーションを実行し,ランダム・サンプリングによってトレーニングデータを生成する. (ii) 非線形回帰法の一つであるカーネルリッジ回帰を行い,機械学習モデルを構築する.原子配置を表現するための記述子については文献5を参考にした. この手続きによって構築した機械学習モデルを用いて,300K-1650Kにおける結晶シリコンの量子力学的力を予測した. その結果,機械学習によって予測された力は,量子力学的計算によって得られた力と良く一致していることがわかった(図1は900Kの例). また,両者の誤差は,温度や系のサイズによらず2%程度に収まることが明らかになった[6].

本研究は,鈴木鉄兵博士,宮崎剛博士との共同研究です.

2014mce

図1



<参考文献>
[1] Z. Li, J. R. Kermode, and A. De Vita, Phys. Rev. Lett. 114, 096405 (2015).
[2] M. Rupp, Int. J. Quantum Chem. 115, 1058 (2015).
[3] A. Seko, A. Takahashi, and I. Tanaka, Phys. Rev. B 92, 054113 (2015).
[4] T. Tadano and S. Tsuneyuki, Phys. Rev. B 92, 054301 (2015).
[5] V. Botu and R. Ramprasad, Int. J. Quantum Chem. 115, 1074 (2015).
[6] T. Suzuki, R. Tamura, and T. Miyazaki, Int. J. Quantum Chem. 117, 33 (2017).

論文[6]は,International Journal of Quantum Chemistry誌のCover Imageに採用されました.

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反強磁性体の磁気冷凍性能を最大限引き出すための磁場印加手順
磁気冷凍は磁性体を用いた冷凍技術であり,気体冷凍に変わる次世代冷凍技術として世界規模で開発が進められている [1,2]. 等温過程において強磁性体や常磁性体に印加されている磁場を切ると,磁気エントロピーが増加する. その増加分の熱量を外界から吸収することにより外界を冷やす事ができる(磁気熱量効果). 強磁性体は,キュリー温度近傍で大きな磁気エントロピー変化を示すため,磁気冷凍で用いる磁性材料として適している. 一方で,非強磁性体の磁気熱量効果も近年活発に調査され,非強磁性体を用いた磁気冷凍が注目を集め始めている.

本研究の目的は,磁気秩序構造と磁気熱量効果の関係を,モンテカルロ法を用いた数値計算から明らかにすることである. 立方格子系において代表的な磁気構造である,強磁性構造,A型,C型,およびG型反強磁性構造を示すイジング模型の磁気エントロピーの温度依存性をWang-Landau法[3,4]を用い調査した. その結果,反強磁性体のネール温度より低温では,磁気エントロピーが最大となるのは零磁場下ではなく,ある有限の磁場Hmax(T)において最大値を得ることがわかった. したがって,反強磁性体で大きな磁気エントロピー変化を得るためには,印加磁場を切るという手順(従来実験で用いられてきた手順)ではなく,印加磁場をHmax(T)に減少させるという手順(図1)を用いる必要がある [5]. また,この手順を用いると,相転移温度よりも低温において,反強磁性体が強磁性体に勝る大きな磁気エントロピー変化を示す事を示した. さらに,本提案手法を用いると,反強磁性体において,磁気冷凍で重要となる磁気エントロピー変化,断熱温度変化及び熱吸収能力を最大限引き出せることがわかった[6]. 本提案手法は,今回検討した反強磁性体に特化したものではなく,一般の非強磁性体に対しても,磁気冷凍性能を最大限引き出すための手順である.

本研究は,大野隆央博士,北澤英明博士,田中宗先生との共同研究です.


<報道>
NIMSプレスリリース(2014年3月10日)[Link]
マイナビニュース(2014年3月12日)[Link]
科学新聞(2014年3月28日2面)
化学工業日報(2014年3月19日8面)
Yano E plus 2015年5月号(2015年5月15日)

<参考文献>
[1] A. M. Tishin and Y. I. Spichkin, The Magnetocaloric Effect and its Applications (Taylor & Francis, London, 2003).
[2] K. A. Gschneidner Jr., V. K. Pecharsky, and A. O. Tsokol, Rep. Prog. Phys. 68, 1479 (2005).
[3] F. Wang and D. P. Landau, Phys. Rev. Lett. 86, 2050 (2001).
[4] F. Wang and D. P. Landau, Phys. Rev. E 64, 056101 (2001).
[5] R. Tamura, T. Ohno, and H. Kitazawa, Appl. Phys. Lett. 104, 052415 (2014).
[6] R. Tamura, S. Tanaka, T. Ohno, and H. Kitazawa, J. Appl. Phys. 116, 053908 (2014).
2014mce

図1

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積層三角格子模型における潜熱の面間相互作用依存性
最近接相互作用および第三近接相互作用のある二次元三角格子ハイゼンベルク模型では秩序変数空間がSO(3)xC3となる [1, 2, 概要]. このC3対称性の破れを伴う一次相転移が有限温度で起こる. また,SO(3)対称性における点欠陥であるZ2渦の解離も一次相転移温度で起こる事が明らかになっている. 本研究では,三次元系において秩序変数空間がSO(3)xC3で表される場合に,どのような相転移が起こるかを調査するために, 最近接相互作用および第三近接相互作用のある二次元三角格子ハイゼンベルク模型を積層した(図1). 一般に,秩序変数空間がAxBで表される三次元系において現れる相転移の様相にはいくつものシナリオが存在している. 例えば,対称性Aおよび対称性Bが同時に破れる相転移が現れる場合や,対称性Aおよび対称性Bが別々の温度で破れ逐次相転移が現れる場合などである. 大規模数値計算の結果,この積層三角格子模型では,有限温度で一次相転移が一度だけ起こることがわかった. また,この一次相転移点で,C3対称性およびSO(3)対称性が同時に破れる事を観測した [3]. さらに,面間相互作用の値を変化させた場合の相転移の様相を調査するために,相転移温度直上でのエネルギーヒストグラムの計算を行った(図2). その結果,面間相互作用の大きさを大きくすると,一次相転移温度は上昇するが,潜熱の大きさは減少するという振る舞いが観測された(図2). これは面間にフラストレーションの無い三次元模型[4, 5]で一般的に観測されている潜熱の振る舞いとは逆の振る舞いである.

本研究は,田中宗先生との共同研究です.

<参考文献>
[1] R. Tamura and N. Kawashima, J. Phys. Soc. Jpn. 77, 103002 (2008).
[2] R. Tamura and N. Kawashima, J. Phys. Soc. Jpn. 80, 074008 (2011).
[3] R. Tamura and S. Tanaka, Phys. Rev. E 88, 052138 (2013).
[4] F. Y. Wu, Rev. Mod. Phys. 54, 235 (1982).
[5] Y. Kamiya, N. Kawashima, and C. D. Batista, Phys. Rev. B 84, 214429 (2011).
2013stack1

図1

2013stack2

図2


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歪んだ三角格子ハイゼンベルクモデルにおける二次相転移
幾何学的フラストレーションを内在する系では,スパイラルスピン構造のような,非従来型の磁気構造が現れる.非従来型の磁気構造が現れる場合,新規な秩序変数空間が出現し,新しい相転移現象が観測されてきた.例えば,反強磁性最近接相互作用J1を持つ二次元三角格子上古典ハイゼンベルクモデルの秩序変数空間はSO(3)であり,Z2渦欠陥が存在する.このZ2渦の解離によってKT転移に似たトポロジカル相転移が有限温度で起こることが知られている [1].さらに,強磁性最近接相互作用J1および反強磁性第三近接相互作用J3のある二次元三角格子上古典ハイゼンベルクモデルでは,秩序変数空間がSO(3)xC3となる.SO(3)はスピン空間における秩序変数空間であり,C3は格子の三回回転対称性の秩序変数空間である.このモデルでは有限温度においてC3対称性の破れおよびZ2渦の解離を伴う一次相転移が観測されている [2, 3, 概要].

本研究では,新しい秩序変数空間SO(3)xZ2が現れる場合の相転移現象を調べるために,強磁性最近接相互作用J1および反強磁性第三近接相互作用J3のある二次元三角格子上古典ハイゼンベルクモデルに一軸的な歪みの効果を取り入れた [4].このモデルの基底状態は鏡映対称性(Z2対称性)の破れたスパイラルスピン配置(図1)であり,秩序変数空間はSO(3)xZ2となる.モンテカルロ法を用いた解析から,このモデルでは有限温度でイジングモデルのユニバーサリティクラスに属する二次相転移が起こることがわかった(図2).さらに,この二次相転移はZ2対称性の破れとZ2渦の解離を伴っていることがわかった.これは,Z2渦の解離が二次相転移点で起こることを見つけた初めての研究結果である.

本研究は,田中宗先生,川島直輝先生との共同研究です.

<参考文献>
[1] H. Kawamura and S. Miyashita, J. Phys. Soc. Jpn. 53, 4138 (1984).
[2] R. Tamura and N. Kawashima, J. Phys. Soc. Jpn. 77, 103002 (2008).
[3] R. Tamura and N. Kawashima, J. Phys. Soc. Jpn. 80, 074008 (2011).
[4] R. Tamura, S. Tanaka, and N. Kawashima, Physical Review B 87, 214401 (2013).

論文[4]は,Physical Review B誌のKaleidoscopeに選ばれました.
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図1

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図2


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乱れの効果によって秩序化するRandom Fan-Out状態
Sr(Fe1-xMnx)O2 [1]は平面四配位構造を持つSrFeO2 [2]のFeイオンをMnイオンに置換することによって合成される. Mn濃度の値を30%(x=0.3)にすると,低温で(πππ)と(ππ0)磁気ピークが同時に観測される相が出現する. しかし,これまでの理論研究では,この二つの波数ベクトルによって表わされる磁気秩序の存在は報告されていなかった. したがって,Sr(Fe1-xMnx)O2の磁気秩序の理解には,同様の磁気ピークを再現できる理論モデルの解析が必要不可欠であった. この物質では,面間方向と面内方向で相互作用の起源が異なる物質でありこれらを区別したモデルを導入する必要がある. 有効モデルとしてこの特徴を捉えられるサイトランダム連続スピンモデルを構築した [3]. このモデルは二種類のイオンを格子上にランダムに配置しその組み合わせによって相互作用が変化するものである. モンテカルロ法を用いた数値計算の結果,相図中(図1)に(πππ)と(ππ0)磁気ピークが共存する相(mixed phase)を発見した [4]. この相のスピン配置は図2のような構造(random fan-out state)であり, 面内(ab面)はネール秩序を形成している. このスピン配置の特徴は,面間方向(c軸)のスピンは平行にならずMn濃度に依存した角度θだけ傾いている点である(図2(a)). さらに,相互作用の乱れの影響から各スピンは磁化ベクトルの周りに扇状に分布している(図2(b)). このように,このモデルでは相分離や部分秩序ではなく,バルクのスピン配置として(πππ)と(ππ0)磁気ピークが共存する. さらに,この磁気構造はらせん構造ではなく,ランダムネスによって誘発される新しい種類の磁気秩序である. また,リートベルト解析の結果,このスピン配置はSr(Fe1-xMnx)O2(x=0.3)の中性子散乱の磁気強度を非常によく再現できるため, Sr(Fe1-xMnx)O2の低温相では相分離ではなくこの磁気秩序が出現していると結論付けることができた.

本研究は,川島直輝先生,山本隆文先生,Cedric Tassel先生,陰山洋先生との共同研究です.

<参考文献>
[1] L. Seinberg, T. Yamamoto, C. Tassel, Y. Kobayashi, N. Hayashi, A. Kitada, Y. Sumida, T. Watanabe, M. Nishi, K. Ohoyama, K. Yoshimura, M. Takano, W. Paulus, and H. Kageyama, Inorg. Chem. 50, 3988 (2011).
[2] Y. Tsujimoto, C. Tassel, N. Hayashi, T. Watanabe, H. Kageyama, K. Yoshimura, M. Takano, M. Ceretti, C. Ritter, and W. Paulus, Nature 450, 1062 (2007).
[3] R. Tamura and N. Kawashima, J. Phys.: Conf. Ser. 320, 012013 (2011).
[4] R. Tamura, N. Kawashima, T. Yamamoto, C. Tassel, and H. Kageyama, Phys. Rev. B 84, 214408 (2011).

論文[4]は,Physical Review B誌のKaleidoscopeに選ばれました.
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図1

2011Random2

図2

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透明状態のあるポッツモデルにおける相転移
q回対称性の破れを伴う相転移を検討する際,最も単純には強磁性q状態ポッツモデル[1, 2]にマッピングすればよいと考えられる. しかし,q回対称性の破れが生じる場合でも,q状態ポッツモデルと異なる相転移の様相を示すこともある [3, 4]. そこで,通常の二次元強磁性q状態ポッツモデルに,エネルギーに寄与しないr個の余分な状態(透明状態)を付け加えたモデルを考察した. 具体的には以下のようなハミルトニアンを考えた.
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通常なら二次相転移を示す二次元正方格子上強磁性q=3状態ポッツモデルに透明状態を加えた場合, モンテカルロシミュレーションの結果において計算したエネルギーヒストグラムにダブルピーク構造が観測された(図1). この結果を元に今回用いたパラメタに対して有限サイズスケーリングを用い,相転移温度および潜熱を計算した(表1). このようにq=2,3,4回対称性の破れを伴う一次相転移の存在か確認され,透明状態を加えたことにより相転移の次数が変わることが明らかになった [5, 6]. また,相転移近傍における秩序融解過程にも一次相転移の存在を示唆する結果が得られた [7]. このモデルは,離散的対称性の破れを伴う一次相転移の解析の際に,参考になる基礎的なモデルであると考えられる. 透明状態の導入によって,このように基底状態を変化させることなく相転移の次数をコントロールすることができる. そのため, 相転移の有無が重要となる最適化問題にとって, このような方法は有効的な手段になる可能性がある [8, 9].

本研究は,田中宗先生,川島直輝先生との共同研究です.

<参考文献>
[1] R. B. Potts, Proc. Camb. Phil. Soc. 48, 106 (1952).
[2] F. Y. Wu, Rev. Mod. Phys. 54, 235 (1982).
[3] R. Tamura and N. Kawashima, J. Phys. Soc. Jpn. 77, 103002 (2008).
[4] E. M. Stoudenmire, S. Trebst, and L. Balents, Phys. Rev. B 79, 214436 (2009).
[5] R. Tamura, S. Tanaka, and N. Kawashima, Prog. Theor. Phys. 124, 381 (2010).
[6] S. Tanaka, R. Tamura, and N. Kawashima, J. Phys.: Conf. Ser. 297, 012022 (2011).
[7] S. Tanaka and R. Tamura, J. Phys.: Conf. Ser. 320, 012025 (2011).
[8] S. Tanaka, R. Tamura, I. Sato, and K. Kurihara, Kinki University Series on Quantum Computing Volume 5, pp. 169-192 (World Scientific, 2012).
[9] R. Tamura, S. Tanaka, and N. Kawashima, Kinki University Series on Quantum Computing Volume 7, pp. 217-238 (World Scientific, 2012).
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図1

2010Potts2

表1

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古典ハイゼンベルクモデルにおける三回対称性の破れを伴う一次相転移
層状カルコゲナイド化合物NiGa2S4は,スピンS=1の三角格子を持つ反強磁性物質であることが知られている. 近年行われた中性子散乱実験の結果から,極低温において非整合なスピン配置をとることが明らかとなっており,このことはNiGa2S4において第三近接相互作用の存在を示唆している [1, 2].

我々はNiGa2S4の有限温度の性質を調べるため,強磁性的最近接相互作用J1および反強磁性的第三近接相互作用J3のある二次元三角格子古典ハイゼンベルクモデルの解析を行った. このモデルの基底状態は第三近接相互作用の特徴を反映したスパイラルスピン構造であり,格子空間の120度回転に対応する三重縮退が存在する.(図1の模式図は基底状態のスピン配置の一例である.) 相互作用比をJ3/J1=-3にした場合の古典モンテカルロシミュレーションを行った結果,比熱に有限温度相転移の存在を示唆する発散的なピークが一つ現れ, 転移温度において,エネルギーヒストグラムにダブルピーク構造(図2)が現れることが分かった. 得られた計算結果をもとに解析を行った結果,この系は転移温度で三重縮退した基底状態のうち一つが選ばれ,有限温度において三回対称性の破れを伴った一次相転移が存在することが明らかになった [3]. また,相互作用比(J3/J1)を変えても,容易面異方性を導入してもこの一次相転移は普遍的に起こることを見いだした [4]. さらに,最近接モデルにおいて存在が知られているZ2渦転移[5]に関する計算も行い, このモデルではZ2渦の解離は一次相転移と同時に起こることを明らかにした.

このモデルに,一軸方向の歪みを導入すると,二次相転移が起こることが分かっている [6, 概要]. さらには,このモデルを積層した場合には,一次相転移が起こることが観測されている [7, 概要].

本研究は川島直輝先生との共同研究です.

<参考文献>
[1] S. Nakatsuji, Y. Nambu, H. Tonomura, O. Sakai, S. Jonas, C. Broholm, H. Tsunetsugu, Y. Qiu, and Y. Maeno, Science 309, 1697 (2005).
[2] S. Nakatsuji, Y. Nambu, K. Onuma, S. Jonas, C. Broholm, and Y. Maeno, J.Phys: Condens. Matter 19, 145232 (2007).
[3] R. Tamura and N. Kawashima, J. Phys. Soc. Jpn. 77, 103002 (2008).
[4] R. Tamura and N. Kawashima, J. Phys. Soc. Jpn. 80, 074008 (2011).
[5] H. Kawamura and S. Miyashita, J. Phys. Soc. Jpn. 53, 4138 (1984).
[6] R. Tamura, S. Tanaka, and N. Kawashima, Physical Review B 87, 214401 (2013).
[7] R. Tamura and S. Tanaka, Phys. Rev. E 88, 052138 (2013).
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図1

2008IC2

図2

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