透過電子顕微鏡法(TEM)とは?

 透過電子顕微鏡法(Transmission Electron Microscopy, TEM)は、試料を透過した電子を使って、微小領域の材料評価を行う手法です。結像法(imaging)、回折法(diffractometry)、分光法(spectroscopy)の3つの要素があり、これらを組み合わせることにより、多彩な手法を行うことができます。

TEMの3つの基本要素と、9つの計測手法

 例えば、TEM像を使って原子配列を観察したり、電子回折図形を使って結晶性を評価したり、分析機器と組み合わせて元素分析をすることも可能です。 TEMには以下に示すようにさまざまな手法があり、それらすべての手法を一台の装置で行うことができます。
 1) 制限視野回折 (Selected Area Diffraction, SAD)、収束電子回折 (Convergent Beam Electron Diffraction, CBED)
 2) TEM(明視野・像暗視野)像観察 (Conventional TEM, CTEM)
 3) 高分解能TEM (High Resolution TEM, HRTEM)
 4) 走査透過電子顕微鏡法 (Scanning Transmission Electron Microscopy, STEM)
 5) エネルギー分散型X線分光法 (Energy Dispersive x-ray Spectroscopy, EDS)
 6) 電子エネルギー損失分光法 (Electron Energy Loss Spectroscopy, EELS), Energy-Filtering TEM (EFTEM)
 7) ローレンツ顕微鏡法 (Lorentz microscopy)

 下図はNIMSで使用している装置の外観写真と観察例です。原子配列を直接観察するとともに、元素分析や化学結合状態の解析が可能です。

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「物質・材料研究のための透過電子顕微鏡」

 木本浩司三石和貴三留正則原徹長井拓郎の5名で、透過電子顕微鏡に関する書籍 『物質・材料研究のための透過電子顕微鏡 (講談社サイエンティフィク) ISBN 978-4-06-520386-6』 を執筆しました。試料作製からハードウエア、電子回折、明視野・暗視野像、 HRTEM、 STEM、 EDS、 EELS、 ローレンツ顕微鏡を400頁でカバーしています。執筆に際し御指導・御協力いただきました皆様に、心より感謝申し上げます。もくじは下記のとおりです。

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もくじ
第1章 概論 (木本浩司)
1.1 透過電子顕微鏡法の基本要素
1.2 透過電子顕微鏡法でできること
1.3 計測を始める前に確認したいこと
1.4 計測手順
1.5 透過電子顕微鏡の研究開発経緯
1.6 まとめ
付録1.1 用語および略語について
第2章 ハードウエア (木本浩司)
2.1 装置の構成と基本事項
2.2 電子銃
2.3 コンデンサーレンズ系
2.4 対物レンズ
2.5 球面収差補正装置
2.6 試料ホルダー
2.7 中間・投影レンズ系など
2.8 検出器
2.9 ソフトウエア・ネットワーク環境
2.10 真空排気系
2.11 装置設置環境および周辺装置
2.12 まとめ
付録2.1 計測・解析時の注意点
付録2.2 電流軸・電圧軸・コマフリー軸
付録2.3 プローブ電流の計測
付録2.4 多極子レンズの構造と働き
付録2.5 主要なパラメータ(メタデータ)
第3章 電子回折法 (三石和貴)
3.1 電子の散乱
3.2 結晶からの散乱
3.3 回折図形の取得
3.4 回折図形の解析
3.5 収束した電子線による回折図形
3.6 菊池パターン
3.7 まとめ
付録3.1 ブラベーの空間格子
付録3.2 面と方位の指数
付録3.3 逆格子・面間隔
付録3.4 CBEDを用いた試料の厚さ測定
第4章 回折コントラスト像 (三石和貴)
4.1 回折コントラスト像の概要
4.2 回折強度変化のしくみ
4.3 回折波と透過波の強度のふるまい
4.4 分散面
4.5 吸収の効果
4.6 回折コントラスト像の取得
4.7 まとめ
第5章 高分解能透過電子顕微鏡像観察 (三留正則)
5.1 位相コントラスト
5.2 高分解能像シミュレーション
5.3 まとめ
付録5.1 キルヒホッフの積分定理とホイヘンス・フレネルの原理
付録5.2 フラウンホーファー回折とフレネル回折
付録5.3 相互強度と可干渉性の定義
付録5.4 準単色光源から出た光の相互強度
付録5.5 相互強度の伝播と光学伝達関数
付録5.6 部分可干渉な光で透過照明された物体の結像と相互透過係数
付録5.7 ソフトウエアの使い方:実践編1(xHREMの場合)
付録5.8 ソフトウエアの使い方:実践編2(Tempasの場合)
付録5.9 高分解能TEM観察の際の注意点
第6章 走査透過電子顕微鏡法 (木本浩司)
6.1 走査透過電子顕微鏡法とは
6.2 それぞれのSTEM像の観察手法
6.3 空間分解能を決定する因子
6.4 装置と基本操作
6.5 観察例
6.6 まとめ
付録6.1 計測・解析時の注意点
付録6.2 収差係数の表記方法
付録6.3 ADF像を用いた収差の計測方法
付録6.4 ロンチグラムを用いた収差計測の基礎
付録6.5 微分位相コントラストSTEM
付録6.6 4D‐STEM
第7章 エネルギー分散型X線分光法 (原 徹)
7.1 電子顕微鏡におけるX線分光分析
7.2 X線の発生
7.3 X線の検出
7.4 スペクトルの解析
7.5 半導体検出器とは異なる原理の検出器
7.6 STEM‐EDS分析の応用
7.7 まとめ
付録7.1 バルク試料のX線定量分析の際の補正項について
付録7.2 測定上の注意点
第8章 電子エネルギー損失分光法 (木本浩司)
8.1 電子エネルギー損失分光法とは
8.2 TEM‐EELSの原理
8.3 TEM‐EELSのハードウエアとソフトウエア
8.4 弾性散乱電子を中心とした計測法
8.5 元素分析
8.6 化学結合状態の分析
8.7 まとめ
付録8.1 計測・解析時の注意点
付録8.2 モノクロメーター
付録8.3 有益なウエブサイト
第9章 ローレンツ顕微鏡法 (長井拓郎)
9.1 ローレンツ顕微鏡法とは
9.2 ローレンツ顕微鏡法の理論―磁場による電子線の偏向と結像原理
9.3 ハードウエアと磁区観察方法
9.4 強度輸送方程式法による磁化分布解析
9.5 観察例
9.6 ローレンツ顕微鏡法の新たな展開
9.7 まとめ
付録9.1 計測・解析時の注意点
第10章 試料作製 (長井拓郎、原 徹、三留正則)
10.1 試料作製の考え方
10.2 各種試料作製法
10.3 まとめ