NIMS「使える！メルマガ」136号

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物質・材料研究の『使える!メールマガジン』

vol.136

2023.5.17

今月の一枚

ナノ花

春の野原に咲き誇る菜の花のような物体は、大豆成分から成るリン脂質の粒子を、ナノ領域まで観察可能な電子顕微鏡でとらえたもの。NIMSでは、この粒子に医薬品分子を乗せて、体内の特定部分に効率よく薬を運ぶドラッグデリバリーの研究を行っている。

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★MA-NanoArt 005『ナノ花』

★医療応用ソフトマターグループHP

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→ HOT TOPICS（NIMSの旬な情報）

→ 研究者の目のつけどころ Vol.10
「鉄含有多孔質シリカによるUVカット剤」

→ オトナの科学本『ソラリス』

NIMSの最新情報をお届け！

■リチウム二次電池の実用化に前進！
サイクル寿命を延ばす高強度ゲル電解質

プレスリリース　4/19

デジタル社会の到来や再生可能エネルギー利用の普及などの背景から、年々需要が高まっているリチウム金属電池。しかし、金属リチウムを負極に用いているため、充放電サイクルの寿命や安全性に課題があるのが現状です。この度NIMSは、非常に高い力学強度と伸張性を持つ高分子ゲル電解質をリチウム金属負極の保護被膜に使用することで、サイクル性能の大幅な向上に成功しました。次世代リチウム二次電池の実用化に近づく、大きな一歩です！

データ駆動型材料開発の最先端を
無料で学べる！
DxMT人材育成セミナー開催

データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト (DxMT)では、データ駆動型材料開発に必要な計算手法などの紹介と解説を行う無料の人材育成セミナーを開催します！　今年度第1回は5/24（水）14：00より、現地（NIMS並木地区）またはオンライン（要事前登録）で受講可能。ご参加をお待ちしております！

....and more!

	素子「界面」の高度な制御で世界最高の磁気抵抗特性を達成
	プレスリリース　4/13

	レーザー焼き入れで使用済みの歯車を修復し、寿命を新品と同等以上に延長
	プレスリリース　4/25

	高分子のモノマー配列を質量分析とAIで決定する解析手法を開発
	プレスリリース　4/28

NIMS公式ウェブサイト

技術革新のキモ、ここにあり！

Vol.10

鉄含有多孔質シリカによるUVカット剤

～透明な鉄!?　高いUVカット効果と安全性を両立した新感覚の日焼け止めクリーム～

澄み切った青い空に温かい日差し——行楽には絶好の季節だが、心配なのが強い紫外線。肌の赤みや乾燥を防ぐだけでなく、皮膚がんの予防にも日焼け止めクリームは必須だ。その主成分である酸化チタン、実はEUでは2020年に発がん分類区分2に指定され、利用・製造が制限されつつある。日本では発がん性との因果関係は明示されていないものの、酸化チタンへの依存度と市場規模の側面から、安心して使用できる代替材料の開発が待ち望まれている。

酸化チタンの代替品として、二核鉄イオンが使えるのではないか——そう思いついたのが、NIMSの井出研究員だ。二核鉄イオンは酵素やたんぱく質中に豊富に存在する生体親和性の高い物質で、特に鉄の周りに水が連結した二核鉄イオンは高いUV吸収率を誇る。しかし、物質的に極めて不安定なため合成が難しく、二核鉄イオンをUVカット剤として使用するには、「安定化」が一番の課題だった。

多孔質シリカの孔に固定化された二核鉄イオン（Fe）。水やOH基を連結したまま固定したことで白さを保ち、また、シリカ細孔により周りの反応物が二核鉄イオンにアクセスすることを防ぎ、安定化を実現した。

鉄含有多孔質シリカはオイルに混ぜても透明度が保たれる。ガラスへの塗布など、白色の酸化チタンでは対応できなかった用途への活用が期待されている。

二核鉄イオン安定化の切り札として、井出が目を付けたのが「多孔質シリカ」だ。多孔質シリカは石や砂などに含まれる二酸化ケイ素の表面に、無数の孔（あな）が空いた物質。長年、多孔質シリカを研究し性質を熟知していた井出は、その孔に二核鉄イオンを閉じ込めることで、二核鉄イオンが他の元素と反応して結晶化することを防ぎ、安定させることに成功した。

そして、この二核鉄イオンを多孔質シリカ内に固定させた粉末「鉄含有多孔質シリカ」を、天然オイルと混ぜてペースト状にし、日焼け止めクリームとしての性能を評価したところ、酸化チタンに匹敵する高いUVカット効果と安定性が示されたのだ。「安価で人体への影響が少ない多孔質シリカを使ったこと、そして、鉄イオンに連結している水を配位したまま孔の中で安定化させたこと（上図）で、低コストかつ生体親和性にも優れたUVカット剤を実現することができました」と井出。

井出の新しいUVカット剤は、透明度が高いことも大きな特長だ。鉄含有多孔質シリカの粒子は酸化チタンよりも液体中で分散しやすいため、オイルに混ぜても従来品のような白色にはならず、肌に塗ったときに白浮きしにくい。また、ガラスにコーティングしても透明感を損なわずにUVカットできるなど、応用先は多種多様だ。

「白色で透明な鉄の可能性を探っていくと同時に、今までにない鉄の構造、商品化を含めた使い道も思い描きながら、これからも楽しく研究に邁進していきたいです」（井出裕介研究員）。

現在、実用化に向けて機能性の向上を図るとともに、鉄イオンの更なる可能性を追求している。「二核の鉄イオンまでは特性が良く知られていますが、3核以上の鉄イオンは未知の物質です。それらにどんな物性・機能が潜んでいるのか、今回の技術を応用することで少しずつ成果が出始めています」（井出）。
より安全・安心なUVカット材の実現、そして謎に包まれた鉄イオンの物性を解明すべく、井出の挑戦は続く。

もっと知りたい！　鉄含有多孔質シリカ配合UVカット剤のキモ

★プレスリリース（2022.6.21）
「白い鉄錆で安全にUVカット」

★層状ナノ化学グループHP

どっぷり浸かるサイエンスの世界

オトナの科学本

『ソラリス』

スタニスワフ・レム著／沼野充義訳
早川書房発行

電子顕微鏡ユニット・埋橋エンジニアのおススメ！

同名の映画があるんですが、見ても意味が分からなかったんです（笑）。それで原作を読んでみたら、映画とはちょっと違っていたんですが「なるほど、そういうことか」と。それぐらい突飛なストーリーです。
舞台は“意思を持つ海”に覆われた惑星「ソラリス」。その不思議な海の謎を解明すべく、主人公の心理学者ケルヴィンをはじめ、様々な研究者がソラリスへ派遣されます。それぞれ専門分野からのアプローチで海とコミュニケーションを図ろうと試みますが、研究者たちはある「不可解な現象」（ネタバレになってしまうのでヒミツです！）により、精神的に追い詰められていきます。そしてケルヴィンの身にも「不可解な現象」が訪れるようになり、自らの狂気を疑い始めるのです——。
人間の潜在意識や無意識に潜むモノを炙り出していくような展開にハラハラすると同時に、研究者たちが未知のモノに対して様々なアプローチで向かっていくのは、研究とも重なって共感できました。作者が生物学や数学の研究をしていた理系出身だけあって、科学的な背景も描かれているので、設定は奇抜でも何とも言えないリアリティがあるんです。もし私がソラリスへ行くなら——そうですね、最新の電子顕微鏡を持っていきます。何が見えるでしょうね、考えるだけでワクワク（ゾッと？）します！
さて、海がもたらす現象とは一体何なのか、そして、研究者たちは海との対話に成功するのか？　クライマックスにはケルヴィンが下す驚くべき決断も待っています。ぜひ確かめてみてください！

	あらすじ “意思を持つ海”に囲まれる惑星ソラリスで、様々な分野の研究者たちが、自らの狂気と闘いながら生物以外の知性とのコミュニケーションに挑む。30か国以上で翻訳され、映画化もされた世界的SF大作。

— 読書案内人 —

★埋橋淳（うずはし・じゅん）

技術開発・共用部門　材料創製・評価プラットフォーム　
　電子顕微鏡ユニット　主任エンジニア

3次元アトムプローブ（3DAP）を駆使して、磁性材料や超合金、半導体をはじめ様々な材料のナノ組織解析に従事。最近では3DAP用試料作製の自動化のプログラム構築を実現したほか、透過型電子顕微鏡（TEM）用試料作製の自動化にも挑んでいる（NIMS NOW Vol.23 No.1 P.15）。
「子供のころから読書が好きでした。本は物事を多角的に捉えるヒントになるので精神的な支えになってくれますし、様々な価値観に触れるのは研究にも生かされているように思いますね」。

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国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)　広報室
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