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物質・材料研究の『使える!メールマガジン』
vol.128
 
2022.8.8
金属ナノワイヤーネットワークの写真
今月の一枚
金属ナノワイヤーネットワーク

夏の夜空を彩る花火のような物体は金属ナノワイヤー。金属(銀)のナノワイヤーを分散させた液を基板上に振りまき、ナノワイヤー同士が自然と重なり合って形成されたネットワークを顕微鏡で捉えた。様々な色彩は光の反射によるもの。NIMSではこの金属ナノワイヤーネットワークが、人間の脳が示すような「連想する」機能を持つことを見出した。

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シリコンナノ粒子電極体の写真
Vol.10
シリコンナノ粒子電極体
~スプレー塗工で安く簡便に! 高い電極性能を持つSi負極で全固体電池の実用化に挑む~

丸い小さなステンレス基板が、スプレーによって静かに、うっすらと金色に染まっていく。作業開始からわずか20分、あっという間に全固体リチウム電池用の負極「シリコンナノ粒子電極体」が出来上がった。
次世代電池の筆頭と言われる「全固体リチウム電池」(以下、全固体電池)。現行のリチウムイオン電池よりも安全性が高く、高出力で超急速充電も可能になるなど、飛躍的な性能アップが見込める蓄電池として期待が高まっている。

開発の鍵を握るのがシリコン(Si)を用いた電極体。Siを負極に使うことで、従来のリチウムイオン電池よりも大幅な電池容量の向上が見込めるからだ。NIMSでは、気相法という合成手法を用いて作製したSi薄膜が、全固体電池内で高い電極性能を示すことを見出してきた。

シリコンナノ粒子の写真
Siナノ粒子(右)をエタノールに分散させたSi分散液(左)。微細なナノ粒子を採用することで、スプレー塗工といった簡便な手法でも一様な厚みを持つ積層体の作製に成功した。
スプレー塗工装置の写真
コンパクトなスプレー塗工装置。気相法では約30時間もかかるSiの積層が、スプレー塗工法では約20分でできる。

ただ、気相法は高真空、高電圧を必要とするため、製造コストがかさみ大量生産が難しい。NIMSの太田研究員は、粒子を使い、安価で生産性に優れたSi薄膜の作製手法を模索。利用する粒子のサイズや積層の仕方など、試行錯誤の末に辿り着いたのが、スプレー塗工法だ。

直径50nm(ナノメートル)のSi粒子をエタノールに分散させた液を、スプレー塗工装置にセットし、ステンレス基板の上に薄く10回ほど噴霧する。すると、粒子が一様な厚みを持ってムラなく積層した。充放電してみると、Si粒子がリチウムを取り込む過程で、隣り合う粒子が接合し、狙い通り、緻密な膜が完成。電極性能も気相法で作製したSi薄膜と同程度を達成した。
スプレーして充放電するだけという驚くほどシンプルな方法で、高い電極性能を持つSi負極を実現した太田。現在、Siナノ粒子の充填量を増やすなど、実用化に向けて更なる高容量化を目指している。

Siナノ粒子電極体の断面の写真
電子顕微鏡で観察したSiナノ粒子電極体の断面。充電前は粒子が積層されている状態だが、充電後は膨らんで粒子同士が接合し緻密な膜になっている。
太田研究員の顔写真
「このSiナノ粒子電極体のように、電解液中では全く動作見込みのないものが、固体電解質の中ではうまく動く——といった“全固体ならでは”の材料や構造を見つけ出したときは感動しますね」と太田鳴海研究員。

「電解液を用いるリチウムイオン電池と、固体電解質を用いる全固体電池は似て非なるもの。Siナノ粒子電極体は、全固体電池の特徴である固体電解質に接しているという環境だからこそ利用可能な構造でした。今後も、固体電解質を使う利点を最大限に生かすことを意識して材料・構造設計を行い、全固体電池の高性能化に貢献していきたい」と太田。

Si負極によって大きく前進した全固体電池の研究から、今後も目が離せない。

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食べ物や飲み物にまつわる素朴な疑問を、化学式をベースにイラストや写真を交えて楽しく解説している一冊です。味覚や嗅覚の不思議はもちろん、玉ねぎを切るとなぜ涙が出るのかとか、ナッツで起こるアレルギーとか、食べ物と体の反応についての紹介も多く、とても興味深いです。また、「エナジードリンクは本当に効果があるの?」といった都市伝説的な質問にも、納得のいく説明をしてくれています。著者がイギリス人ということもあって、日本では聞いたことのない迷信(「チーズを夜に食べると本当に悪夢を見るの?」など)も知ることができて、面白いですよ。
表紙の雰囲気から子供向けと思ってしまうかもしれませんが、かなり突っ込んだ化学の話にも触れているので、科学好きの大人にも読み応え十分! 参考文献もたくさん載っていて、より知識を深めたい時にも役立ちます。
思わず話したくなるトリビア満載で、食事の席の会話もこれで困らないはずです(笑)!

あらすじ

イギリスで人気の化学系ブログCOMPOUND INTERESTの記事を書籍化。食べ物・飲み物に関する身近な化学の疑問を、インフォグラフィックスで分かりやすく解説したイラストブック。

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