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物質・材料研究の『使える!メールマガジン』
vol.127
 
2022.7.13
SiAlON蛍光体分散ガラスの写真
今月の一枚
サイアロン蛍光体分散ガラス

赤や黄、黄緑に光り輝いているのはサイアロン(SiAlON)蛍光体分散ガラス。低融点ガラスの中へ各色の蛍光体を分散させて作製、UV-LEDライトを当てると鮮やかに発光する。NIMSでは、耐熱性に優れたガラスとサイアロン蛍光体を組み合わせ、ハイパワーな高輝度LEDなどへの応用を進めてきた。国連が定めた国際ガラス年の今年、ガラスに着目した様々な取り組みが、世界各国で行われている。
※写真中央3点がSiAlON蛍光体分散ガラス、アルファベットはNIMSガラス工房で制作されたガラス。

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「ハエ型」接着材料の写真
Vol.9
「ハエ型」接着材料
~強力に接着するのに、剥がすのも簡単! ハエを模倣した次世代の接着材料~

直径わずか50マイクロメートル、目を凝らしてようやく見えるくらいのナイロン繊維の糸。その先端を水で軽く湿らせ、シリコンウエハにくっつける。そして、引き上げてみると——見事、持ち上がった。この糸、1本で約79.5gの物体を引き上げることも可能で、756本を束ねれば60kgの人間がぶら下がれる計算となる。それほど強力にくっついているにも関わらず、シリコンウエハに対して垂直方向に引っ張ると、いとも簡単に剥がすことができる。水で湿らせるだけで、くっつけたり剥がしたり、何度でも繰り返し使うことができるのだ。

“強力な接着”と“簡単な剥離”を両立させた秘密は、糸の先端にあるヘラ状の構造にある。モデルになったのはなんとハエの脚裏。ハエが壁を落ちずに登っていくのを見て、「接着と剥離を繰り返している」と捉えたNIMSの細田研究員は、ハエの脚裏にあるヘラ状の剛毛に着目。ナイロン繊維で同様の形を再現したところ、接着と剥離を繰り返せる、まさにハエの脚裏のような接着材料が完成した。

「ハエ型」接着材料の先端の写真
ナイロン繊維2本の先端を固定し、アルギン酸ナトリウムを含む樹脂に浸して引き上げると、繊維が一束にまとまり、ハエの脚裏と同様のヘラ状に。この部分が接着部となる。
細田研究員と顕微鏡の写真
様々な生物を生きたまま顕微鏡で観察。微細構造まで入念に調べることで、生体の本質が見えてくる。

しかも、その作り方もハエがさなぎの中で変態する様子を参考にした。その結果、ナイロン繊維を、アルギン酸ナトリウムを含む樹脂に浸たす、というシンプルな方法での作製に成功。形だけでなく、作り方も模倣するという独創的なアイディアで、高価な装置も特殊な環境も必要としない、簡便で低コストな製造技術を切り拓いた。

「ハエ型」接着材料は、単に“リサイクル可能な地球に優しい材料”に留まらない。産業用ロボットのアームに取り付けて滑りやすい製品を保持する、災害対応ロボットやドローンの脚部に装着して、天井裏や崖など今までは困難だった場所でも移動できるようになるなど、多様な可能性を秘めている。

研究室の写真
研究室に並べられたたくさんの飼育箱。細田にとって生物たちは、新たな研究アイディアが詰まった宝庫だ。
細田研究員の顔写真
「昆虫の接着原理解明など生物の基礎研究が随分進みました。今後は実際の製品やロボットに応用し、実用化を目指していきたいと考えています」と細田奈麻絵研究員。

ハエ以外にもヤモリやテントウムシなど、様々な生物からインスピレーションを受けて材料開発を行ってきた細田。「身近な生物にはまだまだハイテクな機能が隠されているはず。生物は研究対象として興味が尽きません」。次は一体、どんな生物をヒントにした、どんな材料ができるのか——? 細田の研究から、目が離せない。

もっと知りたい!
アツい「ハエ型」接着材料の世界
BOOK
どっぷり浸かるサイエンスの世界
オトナ科学本
本の表紙写真『砂と人類』
『砂と人類』
ヴィンス・バイザー 著 藤崎百合 訳
草思社
YouTube動画英語版・Tのイチオシ!

私自身、ガラスの研究をしていることもあって、書店の新刊コーナーで見つけるや否や手に取りました。ご存じかと思いますが、ガラスは砂を原料としています。ただ、砂なら何でも良いわけではなく、ガラスには二酸化ケイ素が豊富に含まれる珪砂(ケイシャ)という砂が必要です。同じように、砂から作られるコンクリート、コンピューターチップ、ろ過装置なども、それぞれに適した砂が使われています。そういった現代都市を形作る特別なスペックを持った砂が今、世界中で採掘しつくされ、枯渇しているというのです。
特に印象に残ったのが、アメリカ・ウィスコンシン州のとある地域の話。もともと農地や森の多い緑豊かだった場所が、シェールオイルの採掘に必要な高品質の珪砂が取れると知れると、わずか数年で巨大な掘削機と真っ白な砂山だらけになってしまったのです。気になってGoogle Earthで調べたところ、採掘場となる前の2009年と2018年で驚くほど違った風景になっていました(Google Earthを見ながら読書をすると、リアリティを持って読むことができるのでおススメです)。
砂だけでなく、地球のあらゆる資源を食い尽くしている人類——現に、ウクライナで戦争が起きた途端、原料不足で半導体が作れない、という事態に陥っています。限りある資源に対して人類はどう向き合っていくべきか、改めて考えさせられる一冊です。

あらすじ

「文明は砂に形づくられ、砂に支えられ、砂に脅かされている」——ありふれた、しかし現代文明に最も重要な物質である「砂」。その真実の姿を、豊富な取材と詳細なデータから紐解き、人類社会の全体像から未来までを鋭く考察するノンフィクション。

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