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物質・材料研究の『使える!メールマガジン』
vol.116
 
2021.8.4
シリコンナノワイヤの写真
今月の一枚
シリコンナノワイヤ中の結晶のさざ波

真夏の海のような鮮やかなブルーの写真は「シリコンナノワイヤ」。シリコンナノワイヤは、半導体デバイスでもっとも使用されている材料「シリコン」の結晶が、VSL法という技術によって繊維状に成長したもの。電子顕微鏡で観測してみると、内部の結晶構造の乱れがまるで水面のさざ波のように映し出される。

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MOP構造図の写真
新薬を確実かつ迅速に製品化 医薬品MOP発足
プレスリリース 2021/6/25

NIMSは製薬企業11社と医薬品に関するマテリアルズオープンプラットフォーム(MOP:同業多社が企業の壁を越えて共同研究に取り組む場)を発足しました。 医療材料の基礎研究を長年行ってきたNIMSを核に、各企業の保有技術を結集し、新薬の確実かつ迅速な製品化を目指した研究開発をスタートします!

NIMS特別展示の写真
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つくば駅前の商業施設「トナリエ クレオ」に、NIMSの特別展示がオープンしました! NIMSや材料科学に関する、見て・触って楽しめる展示がいっぱい。
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プレスリリース 2021/7/21

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中空試験片の写真
Vol.1
中空試験片
~水素社会実現の一端を担うのは、中心に“穴”を空けた試験片~

環境にやさしいエネルギーの代表格・水素。東京オリンピック・パラリンピックでは、聖火台や聖火リレーのトーチなどに水素が活用され、大会用車両には水素で走る燃料電池自動車が多用されるなど、次世代クリーンエネルギーとして水素が広く認知されつつある。

水素社会を実現するには、水素を安全に管理することが重要だ。例えば、水素を貯めるタンクなどは、水素に強い、つまり水素脆化※1しにくい材料で作る必要がある。そのため、材料が水素にどれくらい耐え得るかを引張試験※2や疲労試験※3で評価している。通常の試験方法では、試験片の周りを高圧の水素ガスで満たす装置が必要となるが、その特殊性から、装置の導入と維持に高額の費用がかかり、その結果、試験コストも高額となってしまう。

水素環境での評価試験をもっと簡単に行えないか——そこでNIMSは装置ではなく、試験片の方に目をつけた。試験片を空洞形状にして、試験片の中に水素を閉じ込めれば、汎用の試験設備でも評価できるのではと考えたのだ。実際に引張試験を行ったところ、通常の試験片と空洞のある中空試験片で、ほぼ同じデータが取れることが分かってきた。

中空試験片の引張試験の写真
中空試験片を装置にセットして中心孔に水素を満たし、水素の圧力と温度が安定すれば試験が開始できる。特殊な装置に比べて準備時間が短くなるため、試験スピードが格段に上がる。

これであれば、装置にかかるコストが低減できる上、手間も時間も大幅な削減が可能となり、試験効率は格段に上がる。

中空試験片は、もともとNIMSが行ってきた極低温下での材料特性評価で使われていたもの。中心孔を空けたのは、センサーを埋め込んで、液体ヘリウム中で試験中の材料の温度変化を測るためだった。その中心孔に水素を仕込むという斬新な発想は、長年NIMSが材料評価において、信頼性と簡便性を追求してきたからこそ生まれたものに他ならない。

小野さんの顔写真

「中空試験片での試験法を規格にできれば、水素環境での材料評価が世界中で加速するはずです」と小野嘉則研究員。

現在、この中空試験片による高圧水素環境下での試験方法を、国内外の試験規格とするべく、更なるデータ収集を行うとともに、通常の試験片のデータとの比較を行っている。また、疲労試験にも応用しようと、研究を進めているところだ。「中空試験片によって試験や研究がスピードアップすれば、それだけ水素社会にも早く近づくということです」と小野研究員。

待ち望まれる水素社会の実現。その一端は間違いなく、この中空試験片が握っている。

(※1)水素脆化:水素原子が金属中に吸収されることで、金属がもろくなる現象。
(※2)引張試験:試験片を一軸方向に所定の速度で引っ張り、破断するまでの試験片の伸びとそれに要する力を測定する試験。
(※3)疲労試験:試験片に繰り返し負荷を与えて、材料の耐久性を評価する試験。

BOOK
どっぷり浸かるサイエンスの世界
オトナ科学本
\今月はコチラ!/
本の表紙写真「鳥マニアックス」
「鳥マニアックス」
松原 始 著  
株式会社カンゼン
ウェブ担当・Yのイチオシ!

鳥が大好きな私にとって、まさにド直球!と思わず手に取りました。ただ、単なるファンブックではなく、タイトルの通りかなりマニアック。生体や行動など、鳥をあらゆる角度から分析する著者の観察眼が光ります。そして読み進めていくうちに、鳥と科学が密接な関係にあることが明らかになっていきます。例えば、鳥が羽ばたかずに滑降している様子から飛行機の基礎であるグライダーが生まれたとか、新幹線の騒音対策にカワセミのくちばしがモデルになっているとか、「こんなところに鳥!?」と驚くエピソードが満載。しかも、とても軽い口調で書かれているので、小難しい物理的な話題でもすいすい読めちゃうんです。
翼が持つ撥水性の話は材料科学に通じるし、メカ好きな工学系の方もハマるはず。鳥を通して、科学の世界がぐんと身近に感じられる一冊です。

あらすじ

カラス先生の異名を持つ著者による、鳥と身近な科学の解説書。多面的で鋭いマニアの視点から「鳥と世界の意外な関係」をユーモアたっぷりに紹介。

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