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物質・材料研究の『使える!メールマガジン』
vol.149
2024.9.11
クリープ試験場の俯瞰写真
今月の一枚
クリープ試験場
ずらっと並んだ試験機、その数なんと380台。これは高温で負荷をかけられた金属がどう劣化していくかを調べる「クリープ試験」を行う実験施設。金属は長い時間をかけて徐々に劣化していく。ということは、その様子を調べるにはやはり長い時間が必要だ。NIMSは、1966年以来このクリープ試験を続けており、試験片を長期間引っ張り続けた実験としてギネス世界記録にも認定されている。
そしてこのたび、クリープ試験機とその関連資料は、日本における鉄鋼の信頼性向上技術の基礎資料として、国立科学博物館の未来技術遺産に登録されることになった。
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HOT TOPICS(NIMSの旬な情報)
 
研究者の目のつけどころ Vol.14
安全性と出力を兼ね備える
「酸化物型全固体電池」への挑戦
 
オトナの科学本『想い出の昭和型板ガラス:
消えゆくレトロガラスをめぐる24の物語』
 
HOT TOPICS
NIMSの最新情報をお届け!
SIP第3期マテリアル課題:サブ課題C(2)
「テーマメンタリング」の公募が始まりました!
NIMSは、「戦略的イノベーション創造プログラム (SIP)」 第3期課題「マテリアル事業化イノベーション・育成エコシステムの構築」の研究推進法人として、昨年度に続き、サブ課題C「マテリアルユニコーン予備軍の創出」個別テーマ(2)「テーマメンタリング」の2024年度公募を開始しました。
本課題では、効果的な事業シナリオ・研究開発計画立案、技術検証(PoC)の支援を行います。
公募期間:2024年8月20日(火)- 10月4日(金)正午
公募ウェブサイト: 詳細はこちらから
応募方法:「府省共通研究開発管理システム(e-Rad)」にて受付いたします。
なお、応募を予定している方のうち希望者は、提案内容についてプログラムディレクターによるコーチング「木場道場」を受けることができます。

→ 詳細は特設ウェブサイトをご確認ください。

 
NIMSのクリープ試験機とその設計図面類など
3件が「未来技術遺産」に登録!
国立科学博物館が登録する、2024年度の重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)に、NIMSの「クリープ試験機とその設計図面類」など3件が選出されました。
NIMSは1966年以来、高温環境における金属劣化の様子を観察するクリープ試験を継続しており、世界最長のクリープ試験データも保有しています。この長年にわたる地道で重要なデータの蓄積が「日本における鉄鋼の信頼性向上技術の基礎資料」として評価され、今回の未来技術遺産への登録に繋がりました。
詳細は、国立科学博物館のプレスリリースをご覧ください。
 
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プレスリリース中の図 貼って剥がすだけ!画期的な周期微細構造の転写技術を開発
プレスリリース 2024/09/05
 
 
NIMS公式ウェブサイト
 
TECHNIQUE
技術革新のキモ、ここにあり!
研究者の目のつけどころ
焼結助剤を滴下して酸化物系全固体電池の性能を格段に向上させることに成功
Vol.14
安全性と出力を兼ね備える
「酸化物型全固体電池」への挑戦
~薄膜製作技術と独自焼結助剤で開発を加速~
 
電気自動車、ノートPC、スマートフォン。私たちの社会に浸透したこれらすべての技術は二次電池(蓄電池)なくして成立しない。とりわけ電気自動車に積載する二次電池は、航続距離、安全性を高めるカギとして、早期の開発が待ち望まれている。低炭素社会の実現に向けて普及が加速する電気自動車は、年々性能が向上しているものの1回の充電による航続距離は一般的な車両で200km-500km程度に留まる。フルタンクの一般ガソリン乗用車が500km-800km走行できることを考えれば、電気自動車が直面している課題は充放電容量の小ささと言える。
車載用の二次電池として市販されているものの中で最もエネルギー密度が高いものは、スマートフォンやノートPCに使われている「リチウムイオン電池」。優秀な二次電池として知られるリチウムイオン電池だが、電解質に可燃性の液体を利用することによる安全面の不安や、充放電の繰り返しによる容量低下など課題も多い。 電気自動車
そうした中、今期待されているのが「全固体電池」と呼ばれるタイプの二次電池だ。全固体電池はリチウムイオン電池と同じ構成ではあるが、液体ではなく固体の電解質を使用するため安全性が高く、エネルギー密度も向上することが知られている。また、電池反応に寄与するリチウムイオンだけが電解質中を移動する仕組みのため、充放電を繰り返しても性能低下が起きにくい。
大西剛グループリーダーのポートレート
大西 剛グループリーダー
エネルギー・環境材料研究センター
電池界面制御グループ
ではなぜ多くの長所を持つ全固体電池が普及していないのか。それは、電極と電解質の界面でリチウムイオンの移動が妨げられてしまい性能が十分に発揮できないという問題が解決されていないから。この課題を解決すべくNIMSで研究を続けるのが大西剛グループリーダーだ。
大西グループリーダーは、「酸化物型」と呼ばれるタイプの全固体電池の開発に取り組む。全固体電池には「硫化物型」と「酸化物型」の2種類があり、実用化への道を一歩先んじているのは硫化物型だが、大気中の水分と反応して有毒な硫化水素が発生する懸念が残されている。その点、酸化物は大気中で安定なため安全性の面で優れる。難点を挙げるとすれば、酸化物型固体電解質は硬いため、正極材料との密着性を高めることが難しく、界面におけるリチウムイオン伝導性の低下が顕著に現れるということ。

そこで、大西は手始めにリチウムイオンの移動抵抗を左右する要因を詳細に洗い出すことにした。「リチウムイオン伝導性は材料の結晶方位によって大きく変わります。正極・負極・電解質のすべてを薄膜で作製、積層した『薄膜型全固体電池』の充放電特性を評価しました」と大西は振り返る。
正極材料の「コバルト酸リチウム(LiCoO2)」は大西の得意とする「パルスレーザー堆積(PLD)法」で成膜。酸化物型固体電解質のリン酸リチウム(Li3PO4)は「高周波スパッタ法」、負極材料の金属リチウムは「真空蒸着法」によって、それぞれ高品質な薄膜を積層し、その充放電特性を次々と評価していった。 アルゴンガスに封入された「薄膜型全固体電池」を手に持つ大西グループリーダー
アルゴンガスに封入された「薄膜型全固体電池」を手に持つ大西グループリーダー
「結果、イオン伝導性に優れた正極薄膜の結晶方位が明らかになり、予想通り、薄膜型全固体電池の出力が向上しました」と大西は語る。そして現在、大西は薄膜型全固体電池の開発の経験を活かし、バルク材料を用いた全固体電池の製作に着手している。
バルク型全固体電池開発の課題はその焼結プロセスにある。界面におけるイオン伝導性を高めるために、材料を約1,000℃の高温で一体焼結する手法が主流だが、高温にさらされると電解質と電極の界面に高抵抗層が形成されてしまい電池特性が向上しないというジレンマがある。
この問題を解決するため、大西は薄膜型全固体電池の開発から着想を得た、粉状の正極材料(粉体正極)を塗り付けるという独自の手法を取り入れた。これにより、焼結温度を700℃程度まで下げることに成功。カギとなったのは、独自開発した液体の「焼結助剤」だった。
「焼結助剤は通常、焼結体の密度を高めたり、安定化させたりするために使われますが、固体電解質に塗り付けた粉体正極に液状の焼結助剤を滴下してみたところ、期待以上に良い結果が得られたのです。電池特性は、正極粉体の量、焼結助剤の種類、滴下量、焼結温度・時間・ガス雰囲気などの条件により変化します。ここからは最適条件を探索するフェーズです」
焼結助剤を滴下する大西グループリーダー
焼結助剤を滴下する大西グループリーダー
酸化物系固体電解質に粉末正極を塗り付け液体焼結助剤を添加している模式図
酸化物系固体電解質の表面に凹凸処理を施した後、粉状の正極材料を塗り付け、焼結助剤を滴下。約700℃で焼結した。
卓越した薄膜製作技術と界面制御をもって、大西は全固体電池の実用化に挑む。
もっと知りたい! 「酸化物型全固体電池」
★NIMS NOW(Vol.24 No.1)「エネルギーを変える」
★NIMS エネルギー・環境材料研究センター
BOOK
どっぷり浸かるサイエンスの世界
オトナ科学本
本の表紙写真『想い出の昭和型板ガラス: 消えゆくレトロガラスをめぐる24の物語』と轟 主席研究員
『想い出の昭和型板ガラス:
消えゆくレトロガラスをめぐる24の物語』
吉田 智子、吉田 晋吾、石坂 晴海 著/小学館 発行
 
多結晶光学材料グループ 轟主席研究員のおススメ!
科学技術の発展に伴って、私達の日常生活に、より便利なものが加わったり、必要なものがより安い値段で手に入ったりします。これは同時に、今まで身の回りにあったものがいつの間にか姿を消し、気がついた時にはそれを入手することがほとんど不可能になってしまう流れの始まりでもあります。

この本は、高度成長期の昭和40年代(1965-1975年)に盛んに製造された型板ガラスが、現代の人々の心にどのように残っているのかを教えてくれます。この年代に建てられた家で幼少期を過ごした人たちの記憶には、毎日の暮らしとともにあった窓ガラスやガラス戸が、その表面に型押しされたシンプルな模様とそこから発する光のきらめきとに結びついて残っています。ですから、数十年を経て再び同じ模様に出会うことがあると、頭の片隅に埋もれていたエピソードが懐かしく蘇ってくるのでしょう。

著者の吉田夫妻は、消えゆく昭和型板ガラスを収集し、ガラス皿やアクセサリーに再生するお仕事をしておられます。かつて型板ガラスの製造に携わっていた技術者たちにしてみれば、自分たちが世に送り出した製品が、半世紀を経てこういう形で流通することなど想像だにしなかったことでしょう。それも、買い求めた人が幼少期の想い出を呼び覚ますことのできる美しいガラスのかけらとして。
 
あらすじ

昭和型板ガラスを使った小物を買っていただいたお客さんたちから寄せられた「家族の想い出」を、それに対する返答とほっこりするイラストや商品写真を添えてまとめた書籍。巻末には昭和型板ガラス図鑑が掲載されているので、エピソードをより鮮明にたどることができる。

 
- 読書案内人 -

轟 眞市(とどろき・しんいち)

電子・光機能材料研究センター
光学材料分野 多結晶光学材料グループ 主席研究員

学生時代にガラスを研究対象に選んだのは、透き通った塊に光が当たって醸し出される美しさに魅せられたから。就職してガラス製光ファイバに触れ、転職して光で光ファイバが壊れる現象の研究に取り組む。この現象を研究所の来訪者向けにデモンストーレーションすることを続けていたら、いつのまにかその体験者は1,000名を超えてしまった。

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