高温超伝導の発現機構 : 強相関電子系の研究

 高温(室温)超伝導の実用は21世紀の夢の技術と目されています。1986年の銅酸化物における高温超伝導体の発見以来、それに向けて幾多の努力が注がれてきました。

 その中から生まれてきた認識が、強く相互作用を及ぼしあう電子の集団的な振るまいを正しく捉えることの重要性です。20世紀後半の半導体産業を支えた自由電子を基にした物理描像とは出発点からして180度違う視点が求められていることになります。

 高温超伝導は、互いを強く意識し避け合う結果、電子が動きにくくなった状態が舞台となって起きます。その分、個々の電子の持つスピンなどの内部自由度が現象に新たに顔を出してきます。このからくりが正確に分かれば、逆にそれを制御する道が開かれることにもなります。これからも分かる通り強相関電子系の研究は、超伝導に限らず、例えばスピントロニクスへの大きなブレークスルーが期待されている、まさに21世紀の物質科学です。私達は、高温超伝導体を始めとする強相関電子系のモデル構築から大規模数値計算に至るまでの理論研究を通して有用なパラダイムを創出し、新たな電子技術への指針を与えることを目指します。

 強相関電子系の出発点は、電子が反発し合って身動きを取れなくなった状態(モット絶縁体)です。銅酸化物高温超伝導体では、ここに空孔を導入することで超伝導が実現します。空孔は電子スピンを背景に感じつつ運動しますが、これは電荷とスピンの間の量子力学的な位相干渉効果と捉えることができます。このような位相干渉効果には、例えば量子コンピューティングへの応用の可能性も考えられます。このように、「位相」は私達が研究上、注目するキーワードのひとつと言えます。