磁性の研究

フェリ磁性体 to Papers

  ペロブスカイト構造をもつ銅酸化物絶縁体 Sr8CaRe3Cu4O24は、室温まで自発磁化をもつ磁性体です(図1)。この物質の転移温度(Tc=440K)は、他の銅酸化物強磁性体の転移温度(Tc=10K)よりも数十倍高く、そのメカニズムに関していくつかの提案がなされてきました。私たちは、第一原理計算によって、図2に示すように銅の軌道(Cu1eg 軌道、Cu2dx2-y2 軌道)と酸素の軌道(O2p 軌道)が秩序化し、強いpdσ ボンドが形成されることを明らかにしました。この物質では、この強い結合により高い転移温度が生じていると考えられます。また、この計算結果に基づき、磁性の有効モデルとして3次元のスピン交替した量子スピン系を提唱しました。
  このモデルの基底状態の磁化は、
Marshall-Lieb-Mattis の定理により、厳密に1μBであることが証明できます。このことは、Sr8CaRe3Cu4O24の実験結果(約0.95μB)とほぼ一致しています。このモデルの有限温度の性質を量子モンテカルロ法により解析した結果、実験で得られた磁化の振る舞いを説明することができ(図3)、さらに実験で測定されていない物理量の予測を行うことができました。また、私たちは、シミュレーションによって、元素置換やホールドープをした場合の解析を行い、ハーフメタルの物質ができる可能性を示唆しました。

   



図1 Sr8CaRe3Cu4O24の結晶構造



図2 軌道とスピンの秩序(模式図)



図3 磁化の温度依存性
(実験結果()、数値計算の結果())