コバルト酸化物超伝導体 to papers

 2003年初頭、当機構の実験チームが新規超伝導体 NaxCoO2yH20(転移温度5K)の発見を公表しました。(K. Takada et al, Nature 422 53 (2003).)

 この物質はCoO2面が積層した構造を取る点が銅酸化物超伝導体Cu02面の積層構造と共通する一方、電気伝導を担うコバルト原子サイトが三角格子を形成する(銅酸化物の銅原子は四角格子を成す)という著しい特徴を持ちます。三角格子上の反強磁性体は強いフラストレーションを伴い、アメリカのP. W. アンダーソンが1987年に提唱したいわゆるRVB機構による超伝導体出現の舞台を提供するように思われることなどから大きな関心が寄せられました。

 この問題に対して、私たちは六回対称性を持つ系の群論的性質と、フェルミ面の幾何形状に基づいたエネルギー論的考察を単一バンドの範囲で行いました(四角格子系との比較を図1に示します)。その結果、フェルミ面セグメント間のペア散乱によるスピン三重項超伝導(実空間の直観的状況を示した図2を参照)状態が形成されるという興味深い可能性のあることが分かりました。その後の研究から、多バンドの効果が重要であることがわかってきていますが、そこでもやはりフェルミセグメント間散乱が関与するペアリング機構および三重項状態の可能性が活発に研究されています。

※ 本論文はThomson Essential Science IndicatorsによってMost Cited Papers; Hot papers (物理部門論文 引用率上位1%) 項目に掲載されています。


Fig. 1  単一バンド描像に基づくペアリング対称性


VS

Fig. 2  銅酸化物(四角格子系)とコバルト酸化物(三角格子系)における超伝導ペアリング状態(後者はスピン三重項とした)の比較.