研究は山登り。失敗したら別のアタックを試せばいい / 内藤昌信

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内藤 昌信(ないとう まさのぶ)
統合型材料開発・情報基盤部門 データ駆動高分子設計グループ
グループリーダー

どんな子ども時代でしたか? 今のご自身に通じているものはありますか?

すごく活発でしたね。田舎だったので、遊ぶと言ったら裏山に基地を作るとか、生き物を捕まえるとか。今、生物や植物から着想を得た研究を色々とやっているのは、自然の中で「不思議だな」「面白いな」と常日頃感じていたことが、影響しているのかもしれません。

それから、父親の勧めで小学4年生から剣道に打ち込んでいました。社会人まで続けて、5段をもっています。痩せたらまたやりたいな(笑)。剣道からはたくさんのことを学びましたね。特に人間関係のバランス
剣道って、相手を尊敬する、そこから始めるスポーツなんです。でも一方で、頭とかお腹とか、打ちまくるわけです。相手を立てつつも、攻めて倒す。
矛盾しているようですが、相手をリスペクトしながら自分の考えを理解してもらうというのは、社会の中で重要なスキルです。それは剣道で培われたんだと思っています。

研究者になりたいと思い始めたのは、いつ頃だったのですか?

小学生のころから理科が得意でしたが、特に強く研究者になりたいと思っていたわけではないですね。大学の研究室が楽しくて、入り浸っていたらいつの間にかこの道に進んでいたというか(笑)。そのくらい、研究が楽しかったんです。
1982年に細胞膜を人工的に作る、という研究が発表され、新しい研究の大きな流れが生まれました。ちょうどこの研究が成熟してきた頃に、学生時代を過ごしました。生物はある特殊な細胞膜を持っているのですが、その構造は生物特有のものと考えられていました。ところが、シャボン玉の膜の構造をちょっと変えると、同じようなものができるということが、発見されたんです。
生命の神秘だと思われていたものが、人の手で作れるというのは、衝撃的なことでした。
それから細胞膜の研究は、超分子や医療の分野に波及したり、様々なアプリケーションが考え出されたり、世界中で同時期に大幅に進みました。僕はその中から、分子を操る分子設計という方に進んでいって今に至るんですが、ホットトピックスの渦中にいることが、とても面白かったですね。

内藤さんは「実用化」ということにとても重きを置いて研究されている印象なのですが、そういうスタイルはいつ頃できあがったのでしょうか?

今から20年ほど前ですが、縁があって、ある塗料メーカーさんと共同研究をする機会がありました。その際に企業側を取りまとめてくださったのが、後にその会社の副社長さんになられる方でした。その出会いがまさにターニングポイントでしたね。当時、アカデミックポストを取ったばかりの新米でしたので、基礎研究から始めて、うまくいったら応用を考えて、それから企業と共同研究できたらいいな、と漠然と考えていました。でも、それだけじゃない。本当に使ってもらえる材料を目指すなら、企業では取り組めない大胆な発想やアプローチを持つことと同時に、初めから実用化を見据えた材料設計など、企業的センスが大切であることを、その企業研究者さんに教えていただきました。

その企業研究者の方とはどんな研究をされていたんですか?

船の塗料の開発です。船底には、フジツボなど海の生物が船に付着しないよう塗料が塗られているのですが、当時の塗料には原料に有機スズが使われていました。でも有機スズは、貝の雄をメス化する、といういわゆる環境ホルモンの問題が指摘されていたんです。レイチェル・カーソンの『沈黙の春』にも取り上げられて、注目が集まっていました。そういった社会背景を受けて、環境にやさしい、天然物を由来とした塗料を一緒に作りましょう、ということになりました。
環境に対する問題意識はずっと持っていたので、この研究は自分の中でとても意味深いものでした。進めていくうちに、自然環境の問題は、自然のもので解決しようという考えも生まれました。困難をうまく克服している生物や植物に着目すると、必ずヒントが見つかるんです。自然の偉大さを感じるからこそ、今なおバイオミメティクスの研究に邁進できるのだと思います。

映像中(冒頭と最後)で使われている内藤が開発した超撥水材料は、今、産業からアートまで幅広い分野から注目が集まっている

内藤さんにお話を伺うたび思うのは、いつも笑顔でポジティブなこと。研究していて行き詰まったり、ストレスを感じたりすることはないんですか?

研究していてイライラするとか、悲観的になるとかはあまりないですね。失敗しても、まあ、そういうことなんだな、と淡々と割り切れるというか。「こういうものを作りたい」という目的が明確なので、山登りで頂上が見えているのと同じです。頂上に辿り着くために、どういうアプローチで登っていくかを考える。もし失敗したら、別のアタックを試す、というのを繰り返すだけです。割と楽観的なんでしょうね(笑)

研究していく上で大事にしていることは何ですか?

とにかく会話をすることですね。NIMS構内に「成果の数は会話の数に比例する」っていう言葉が飾ってあって、本当にその通りだと思います。
私のラボには研究者以外にも、NIMS連携大学院などの制度で受け入れている学生が7名、そして研究を手伝ってくれる業務員など色々な方が在籍しているのですが、皆それぞれ様々な視点を持っています。何気ない世間話からアイディアが生まれることもあるし、立場が違うからこそ見えることもあると感じています。また、おかげさまで多くの企業や大学と共同研究をさせていただいているので、研究のトレンドや社会のニーズも自然と耳に入ってきますね。

内藤さん、いつもどなたかに会うスケジュールでいっぱいで、中々アポがとれません(笑)

そうですね。研究者の中でもおしゃべりな方かもしれません(笑)

未来の科学者たちへ

最後に、科学者を目指す子供たちへ、メッセージをお願いします。

世の中を“あっ”と言わせることができるのが、材料のチカラです。そして、その材料を生み出せるのが科学者です。
現在、そして未来の世界がより良くなるよう、若い方のチカラに期待しています。

内藤昌信

【関連リンク】

【取材・文】藤原 梨恵(NIMS広報室)
【写真】Nacása & Partners Inc.