付着生物模倣型含浸補修材料の開発
NIMS研究者
内藤 昌信
参画研究者
Payra Debabrata(博士研究員)
研究開発の目的

 インフラ維持管理の現場は、いわば水との戦いとも言える。湿潤した環境は、作業の遅延や施工不良の原因となる。すなわち、水に浸された施工条件でもインフラ構造物の表面と接着することができる補修剤は、インフラ維持管理における新規材料として、チャレンジングであり、かつ、社会が求めている材料の一つといえる。そこで本研究では、ムラサキイガイという海洋付着生物が持つ接着性タンパク質に注目した。このタンパク質には、水中でも高い接着性を示す化学物質として、カテコールと呼ばれる分子が偏在する。本研究では、このカテコール基を持つ補修・接着材料を開発し、そのコンクリート補修剤としての実用化研究を実施した。

研究開発の内容

・湿潤面もしくは水中で接着が可能な高分子系補修剤の開発(図1)


図1 (左上)ムラサキイガイが分泌する接着物質が様々な基材と接着することができる化学的メカニズム(右上)カテコール基を導入したメタクリル樹脂の化学式と外観。本プロジェクト期間中に、化学メーカへの技術移転により、様々なグレードの補修剤原料を大量に合成できるようになった。(下)生物付着含浸補修材料を湿潤下、モルタル表面に施工したあと。表面は撥水性を示す。

・水中接着性を示す付着生物模倣含浸補修剤

 付着生物を模倣した含浸補修剤は、水中に浸漬したモルタルや、湿潤したコンクリート表面にも施工できることを明らかにした。これは、従来のエポキシ系プライマーでは不可能な湿潤接着性能であり、橋梁や道路補修にかかる施工時間の短縮や、環境条件に左右されない補修材料として利用できることを示唆している(図2)。


図2 (上)水中に浸漬したモルタルへの金属基材の接着(下)エポキシ樹脂系プライマーとNIMS開発:付着生物模倣含浸補修剤の湿潤条件下塗布後の外観。エポキシ系樹脂は剥がれが生じたが、NIMS開発品は高い密着性を示した。
研究開発された技術・成果(まとめ)

・水中・湿潤下でもインフラ補修を可能とする接着剤・補修剤の開発に取り組んだ。

・海洋付着生物にヒントを得ることで、湿潤環境でも接着性を示す材料開発に成功した。

・TOPASを通じて企業連携することで、実用材料としてのインフラ補修剤の性能評価(密着試験・暴露試験)を行い、既存製品と同等以上の性能があることが認められた。

実用化イメージ

・大量合成にむけて化学メーカーへの技術移転をさらに進める。また、コスト低減につながる材料設計を進める必要がある。

・現場での施工実験を積み重ね、性能評価を継続することで実用化への道筋をつける。

未来への展望

・化学メーカへの技術ライセンス供与とユーザ企業との連携により、社会実装に向けた取り組みを続けていく。