腐食試験データによる腐食マップの基盤構築
NIMS研究者
片山 英樹
参画研究者
篠原 正、安住 和久(北大)、坂入 正敏(北大)
伏見 公志(北大)、押川 渡(琉球大)
研究開発の目的

 インフラ構造物の補修や補強は、これまで構造物がさらされている環境を十分考慮せずになされている傾向が強く、補修や補強後すぐに同じ箇所が劣化や腐食するという事例がよくみられる。限られた財源の中で効率的に維持管理を行うためには、適切な材料選定や補修・補強を行う必要があり、その腐食環境がわかる基礎的な情報が必要である。

研究開発の内容

・屋外腐食試験および過去の試験結果による局所腐食マップ

概要;寒冷地・積雪地域から亜熱帯地域、海浜地域から田園地域、融雪塩散布地域など広い範囲での屋外腐食試験を実施している。本テーマでは、これまであまり行われなかった積雪環境や内陸環境での屋外腐食試験も行った。

各屋外試験場で腐食試験を行った結果。サンプルとして炭素鋼を用い、1から3年の重量変化の平均に対して板厚減少量を求めた。

・炭素鋼の初期腐食挙動におよぼす環境因子の影響

概要;大気腐食は液薄膜下で進行し、気温や相対湿度、付着塩量等の様々な環境因子の影響を受ける複雑な現象であり、そのメカニズムの解明のためには環境因子との関係を明らかにする必要がある。このテーマでは、温度、相対湿度、付着塩量を制御した恒温恒湿槽内で腐食速度を連続的に測定した。

腐食速度を連続的に測定するための2電極式センサと腐食試験の模式図

相対湿度の上昇は濡れを引き起こす原因の一つであるが、必ずしも高い相対湿度のときに腐食速度が大きくなるわけではない。

液薄膜環境下において、5-50℃の範囲では温度が高くなるほど腐食速度が大きくなる傾向が見られた。

初期の付着塩量と腐食速度には明確な相関性が見られない。
研究開発された技術・成果(まとめ)

・屋外での腐食試験データをベースとして局所での腐食マップを構築した。沿岸部で腐食環境が厳しいことが改めて確認されたが、必ずしも沿岸からの距離と相関があるわけではないことがわかった。積雪・寒冷地域での試験では、冬期の海からの風の影響で塩分を含む降雪があるために、積雪時も腐食が進行することが示唆された。また、腐食マップ作成および腐食データの拡充における基盤として、緯度と経度を利用した整理が非常に有用であることがわかった。

・ラボ試験での環境因子の影響について、温度は相関が見られたが、相対湿度や初期の付着塩量では相関は見られなかった。気温と相対湿度については複合的に作用することが知られており、また、腐食生成物の形成も腐食速度に大きく影響することから、メカニズム解明にはさらなる検討が必要である。

実用化イメージ

・局所の腐食マップにより測定した場所の周辺地域の腐食環境は推定可能であるが、その他の地域についての補間モデルを確立する必要があり、現状では社会実装のステージには至っていないと考えられる。

・社会実装するためには局所ではなく、シームレスな腐食マップの構築が必要である。腐食データ拡充のための基盤は整いつつあり、地方自治体等との連携・協力によりさらなるデータの拡充が図れれば、シームレスで高精細な腐食マップの提供が可能となる。

未来への展望

・環境因子と腐食との関係を明らかにすることで局所の腐食データを補完することが可能となり、シームレスな腐食マップの構築が期待できる。