2電極式センサによる腐食環境モニタリング
NIMS研究者
片山 英樹
参画研究者
 
研究開発の目的

 鉄筋が腐食する要因として漏水や塩害があげられており、厳しい腐食環境にさらされている鉄筋コンクリート構造物ほど劣化が大きいと考えられる。したがって、的確に劣化診断・維持管理するためには構造物がさらされる腐食環境を把握することが重要であり、特に、労働人口の減少が懸念される今後の社会状況下においては、劣化損傷に起因する腐食や腐食環境を定量的かつ連続的に計測できる劣化診断法が求められている。そこで、本テーマでは、屋外で腐食環境や鉄筋の腐食をモニタリングする技術を確立することを目的とした。

研究開発の内容

・乾湿繰り返し環境下におけるモルタル中鉄筋の腐食モニタリング

概要;大気腐食環境のモニタリングに用いている2電極式腐食センサを模擬鉄筋としてモルタル中に埋め込み、 2周波数での電気化学インピーダンスの連続測定により、モルタル中鉄筋の腐食挙動の経時変化について検討した。

SD345鋼製腐食センサの外観。ピン型電極とリング型電極からなり、100µmの絶縁層を介して同心円状になるように配置。

モルタル供試体は、塩ビ製治具にかぶりが5、10、20、30mmになるように腐食センサを設置し、練り混ぜたモルタルを流し込むことにより作製(サイズは内径146mm、高さ60mm)。モルタルの組成は細骨材:水:セメントの比が3:1:0.6。

腐食試験は恒温恒湿室内での乾湿繰り返し腐食試験により行った。タイマーにより溶液の注入・排出を行い、1サイクルを浸漬24時間、乾燥144時間とした。

かぶりの異なる腐食センサ表面の濡れ(Z10kHz)の経時変化(右上図)。かぶり5mmの腐食センサでは4サイクル後、かぶり10mmの腐食センサは13サイクル後に低下したが、かぶり20および30mmの腐食センサは高い値を維持していた。かぶり5、10mmの腐食センサの腐食速度(1/Zdiff)の経時変化(右下図)において、かぶり5mmの腐食センサでは5サイクル後、かぶり10mmの腐食センサでは13サイクル後に上昇した。これらの結果は腐食試験後の腐食センサの外観写真とよく一致した。本システムの有用性が示された。

・屋外環境における腐食環境モニタリング測定手法の確立

概要;腐食環境モニタリングを屋外で実施するための手法を検討するため、実際の屋外腐食試験場や橋梁、屋外で腐食環境モニタリングを実施し、実装化するための課題抽出およびその対策について検討した。


太陽電池とバッテリーを併用した開発システムによる屋外での実証試験の概況(千葉県銚子市)。3年以上、連続測定中。

実際の環境での腐食モニタリングの状況(長崎県軍艦島16号棟)。1年以上、連続測定中。

北海道石狩市の暴露試験サイトでの腐食モニタリング状況。積雪により低い暴露架台はほぼ雪で覆われている(右写真)。寒冷地においても、2年以上連続測定中。

沖縄県A高架橋での腐食モニタリング状況。この場所ではバッテリーのみでの測定を開始したが、約1ヶ月ほどで測定停止。
研究開発された技術・成果(まとめ)

・屋外での腐食環境をモニタリングする測定システムとして、バッテリーと太陽光パネルを併用したシステムを構築した。このシステムでは電気化学的手法を用いており、表面の濡れ状況と腐食速度を①客観的、②定量的、③連続的に評価できる。また、IoT技術などを活用することで遠隔測定も可能となる。労働者人口の減少や土木技術者の不足という状況の中で、腐食環境モニタリングにより点検や維持管理にかかる労力を低減できる。

・開発した2電極センサを用いた電気化学インピーダンス法による腐食モニタリングがモルタル中の鉄筋の腐食挙動を把握する上で非常に有用であることがわかった。このモニタリングでは、センサ表面の濡れ状況からコンクリートの性状変化の追跡も可能。

実用化イメージ

・対象とする屋外環境に腐食センサとロガーを設置し、通信技術を利用してデータを一元管理するという使い方が一般的と考えられる。

・本測定システムは屋外環境での長期使用の実績もあり、社会実装可能なレベルと考えられる。

・インフラ維持管理者をターゲットとした技術であり、腐食環境をモニタリングすることで急激な腐食環境の変化にも対応可能となる。

・測定システムはセンサとデータロガー、測定用PCと非常にシンプルであり、モニタリングの条件設定も項目数が少ないことから利用者において高度な技術は必要ない。

未来への展望

・技術革新により測定システムのコンパクト化がなされれば、社会実装が加速され、点検や維持管理にかかる労力を低減できる。