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プレスリリース:
COVID-19の簡易診断の感度を劇的に向上させる濃縮・精製法の開発
2021.08.05
NIMSは、エジプト肝臓病センター (ELRIAH) と共同で、COVID-19の簡易診断の感度を劇的に向上させる材料を開発し、COVID-19の簡易抗原検査の感度を従来法に比べて約10倍に向上させることに成功しました。
概要
1.国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS) は、エジプト肝臓病センター (ELRIAH) と共同で、COVID-19
の簡易診断の感度を劇的に向上させる材料 (以下、Smart Cov) を開発し、COVID-19の簡易抗原検査の感度を
従来法に比べて約10倍に向上させることに成功しました。Smart Covを用いることで、これまでの簡易抗原検
査では見逃していた抗原量の少ない陽性患者も迅速に検出できるようになるため、COVID-19の早期収束への
貢献が期待されます。
2.COVID-19の検査には現在PCR法などの遺伝子検出法が行われていますが、感染してからの日数、採取の仕
方用いる検査薬などの違いによるばらつきも大きいため偽陰性が出やすく、感度も60-70%程度と低いのが
現状です。また、PCR検査用の装置が高価なため必ずしも途上国などで簡便に検査を行うことができません。
一方、抗原検査は簡便かつ迅速 (15-30分) に検査結果がわかるため世界中どこでも誰でも利用可能ですが、
特に鼻腔や咽頭の拭い液を用いる場合にはその低い抗原濃度 (ng/mL以下 ; ng =10億分の1g) ゆえの検出感
度の低さが問題となっています。したがって、発生したクラスターの拡大を早期に収束させるためには迅速
診断により偽陰性患者による感染拡大を最小限にとどめることが重要となります。
3.そこで今回開発したのが、低濃度の抗原を、目視の抗原検査で陽性が判断できるレベルまで濃縮・精製するこ
とができる手法です。用いたのはスマートポリマーと呼ばれる特殊な高分子材料で、温度に応答して水への溶
解性が劇的に変化する性質を有しております。このスマートポリマーをSARS-CoV-2の抗体に結合させた複合
体 (Smart Cov) を開発しました。Smart CovはSARS-CoV-2の抗原を捕捉した後、温めると水に不溶化して
沈殿します。これによって誤診断の要因となる夾雑物質を取り除くと同時に抗原を濃縮することができます。
この技術により、最低50pg/mL抗原濃度でも陽性ラインを目視できるレベルまで濃縮・精製することに成功
しました。
4.現在、共同研究機関であるELRIAHにてCOVID-19患者のサンプルを用いたSmart Cov法の検証を計画してお
り、将来的には偽陰性患者を大幅に減らし感染拡大と重症化を未然に防ぐ新たな診断ツールとして実用化を目
指していきます。
5.本研究は、NIMS機能性材料研究拠点スマートポリマーグループの荏原充宏(グループリーダー) 、
Ahmed Nabil(博士研究員) と、ELRIAHのGamal Shiha (病院長) らの研究チームによって行われました。
6.本研究成果は、Computational and Structural Biotechnology Journal誌の2021年6月14日発行号 (Vol. 19,
Pages 3609-3617) にて掲載されました。また、特許出願済み (出願番号2021-066984)です。
の簡易診断の感度を劇的に向上させる材料 (以下、Smart Cov) を開発し、COVID-19の簡易抗原検査の感度を
従来法に比べて約10倍に向上させることに成功しました。Smart Covを用いることで、これまでの簡易抗原検
査では見逃していた抗原量の少ない陽性患者も迅速に検出できるようになるため、COVID-19の早期収束への
貢献が期待されます。
2.COVID-19の検査には現在PCR法などの遺伝子検出法が行われていますが、感染してからの日数、採取の仕
方用いる検査薬などの違いによるばらつきも大きいため偽陰性が出やすく、感度も60-70%程度と低いのが
現状です。また、PCR検査用の装置が高価なため必ずしも途上国などで簡便に検査を行うことができません。
一方、抗原検査は簡便かつ迅速 (15-30分) に検査結果がわかるため世界中どこでも誰でも利用可能ですが、
特に鼻腔や咽頭の拭い液を用いる場合にはその低い抗原濃度 (ng/mL以下 ; ng =10億分の1g) ゆえの検出感
度の低さが問題となっています。したがって、発生したクラスターの拡大を早期に収束させるためには迅速
診断により偽陰性患者による感染拡大を最小限にとどめることが重要となります。
3.そこで今回開発したのが、低濃度の抗原を、目視の抗原検査で陽性が判断できるレベルまで濃縮・精製するこ
とができる手法です。用いたのはスマートポリマーと呼ばれる特殊な高分子材料で、温度に応答して水への溶
解性が劇的に変化する性質を有しております。このスマートポリマーをSARS-CoV-2の抗体に結合させた複合
体 (Smart Cov) を開発しました。Smart CovはSARS-CoV-2の抗原を捕捉した後、温めると水に不溶化して
沈殿します。これによって誤診断の要因となる夾雑物質を取り除くと同時に抗原を濃縮することができます。
この技術により、最低50pg/mL抗原濃度でも陽性ラインを目視できるレベルまで濃縮・精製することに成功
しました。
4.現在、共同研究機関であるELRIAHにてCOVID-19患者のサンプルを用いたSmart Cov法の検証を計画してお
り、将来的には偽陰性患者を大幅に減らし感染拡大と重症化を未然に防ぐ新たな診断ツールとして実用化を目
指していきます。
5.本研究は、NIMS機能性材料研究拠点スマートポリマーグループの荏原充宏(グループリーダー) 、
Ahmed Nabil(博士研究員) と、ELRIAHのGamal Shiha (病院長) らの研究チームによって行われました。
6.本研究成果は、Computational and Structural Biotechnology Journal誌の2021年6月14日発行号 (Vol. 19,
Pages 3609-3617) にて掲載されました。また、特許出願済み (出願番号2021-066984)です。

プレスリリース中の図 : スマートポリマーを用いてSARS-CoV-2の抗原を濃縮することで、COVID-19の簡易診断の感度を向上させる。
掲載論文
題目: Temperature Responsive Polymer for Enabling Affinity Separation and Enrichment of Current
Coronavirus (SARS-CoV-2) to Improve its Diagnostic Sensitivity
著者: Ahmed Nabil, Erika Yoshihara, Keita Hironaka, Ayman A. Hassan, Gamal Shiha,, Mituhiro Ebara
雑誌: Computational and Structural Biotechnology Journal
掲載日時:2021年6月14日
DOI:10.1016/j.csbj.2021.06.016
Coronavirus (SARS-CoV-2) to Improve its Diagnostic Sensitivity
著者: Ahmed Nabil, Erika Yoshihara, Keita Hironaka, Ayman A. Hassan, Gamal Shiha,, Mituhiro Ebara
雑誌: Computational and Structural Biotechnology Journal
掲載日時:2021年6月14日
DOI:10.1016/j.csbj.2021.06.016