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プレスリリース:
限られたニオイサンプルの中で基準となるニオイ「擬原臭 (ぎげんしゅう) 」を選定する技術を開発

2021.06.21

概要

国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS) は、限られたニオイサンプルの中で基準となるニオイ「擬原臭 (ぎげんしゅう) 」を選定する技術を嗅覚センサーと機械学習を利用し開発しました。

この擬原臭という新概念を導入することで、様々なニオイを擬原臭として選定された数種類のニオイの混合比で表す「デジタル化」が可能となります。これにより、色のように、ニオイも分解・合成が可能となり、ニオイの記憶、学習、送信、理解、さらには見える化も促進できる技術です。

光の3原色や味の5原味に対応する、嗅覚における原臭の定義を試みる研究は古くから行われてきました。しかしながら、現在でも科学的に原臭を決めることはできていません。それは、視覚や味覚が限られた種類の受容体 (刺激を情報に変換するもの) で構成されているのとは異なり、人間の嗅覚には約400種類という膨大な受容体があるため、基準が定められないことが主な原因です。

研究チームは、世の中にある全てのニオイの中から原臭を定義するのではなく、限られたニオイサンプルの中から基準となるニオイ (ここではこれを「擬原臭」と呼びます) を選定する技術を考案しました。具体的には、収集したニオイサンプルをNIMSが中心となって開発している超高感度・小型嗅覚センサー : 膜型表面応力センサー (MSS) で測定します。その測定結果を機械学習で解析することで、ニオイサンプルの中からいくつかの「他から外れたニオイ」を探し出し、それを基準とみなします。これにより、様々なニオイを擬原臭の混合比で表すことができます。例えば、12種類の調味料を対象とした場合、ナンプラー、料理酒、純水が擬原臭として選定され、醤油や焼肉のたれといった他の調味料は、これらの混合比を変えることで表現されます。

ニオイのデジタル化によって、嗅覚を他の感覚に変換することも可能です。例えば、擬原臭それぞれに色を与えることで、様々なニオイをそれらの混合色で表現でき、ニオイの「見える化」が実現できます。そのデモンストレーションとして、考案技術を利用し、ニオイをリアルタイムで色に変換する装置を開発しました。

本研究は、NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (WPI-MANA) の田村亮主任研究員、機能性材料研究拠点 (RCFM) の柴弘太主任研究員、若手国際研究センターの南晧輔ICYS研究員、RCFMの吉川元起グループリーダー、統合型材料開発・情報基盤部門 (MaDIS) の津田宏治NIMS 招聘研究員、MaDISの許含笑研修生 (研究実施当時) 、WPI-MANAの北井孝紀研修生 (研究実施当時) 、RCFMの中津牧人研究業務員 (研究実施当時) によって実施されました。

本研究成果は、Scientific Reports誌オンライン版に2021年6月9日 (日本時間) に掲載されました。

掲載論文

題目: Determination of quasi-primary odors by endpoint detection

著者: Hanxiao Xu, Koki Kitai,Kosuke Minami,Makito Nakatsu, Genki Yoshikawa, Koji Tsuda,Kota Shiba, Ryo Tamura

雑誌: Scientific Reports 11, 12070 (2021)

掲載日時:2021年6月9日 (日本時間)

DOIhttps://www.nature.com/articles/s41598-021-91210-6
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