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プレスリリース:岡本章玄グループリーダー(センサ開発領域 細菌センサG)
「鉄腐食細菌は黒サビを使って腐食を加速させていた」
~特殊な酵素なしでも電子を引き抜く細菌能力を発見 新たな防食材料の開発に期待~

2020.02.14

概要

NIMSは、オーストラリア連邦研究所および理化学研究所と共同で、鉄腐食菌が原因で発生する黒サビの導電性が、細菌活性を高め腐食を促進する役割があることを発見しました。これまで細菌自身にとってゴミのようなものだと考えられてきた黒サビが、鉄腐食を促進することが分かったことで、今後細菌による腐食の新たな防止策として、黒サビの導電性を低下させる鉄合金材料の開発などが期待されます。

石油パイプラインなどのインフラにおいて、硫酸還元菌と呼ばれる細菌による鉄の腐食が深刻な問題になっています。この細菌が代謝で生成する硫化水素が、鉄と反応して硫化鉄 (黒サビ) に変わり腐食が進行しますが、鉄の表面が硫化鉄で覆われた後も腐食が進行する理由が不明で、効果的な防食法がありませんでした。そんな中、当研究グループは、細胞膜表面に特殊な酵素をもつ硫酸還元菌が、硫化鉄越しに鉄から電子を直接引き抜くことで腐食を加速させる可能性を明らかにしました。ただその酵素を持たない硫酸還元菌でも高い腐食能を持つ場合があり、膜酵素を用いずに電子を引き抜いて腐食を進行させる仕組みがあることが示唆されていました。

本研究チームは、黒サビの主成分である硫化鉄の持つ導電性に着目しました。硫化鉄のナノ粒子は細胞内や表面にも蓄積しますが、今回、細菌の表面に形成された硫化鉄ナノ粒子を詳細に分析したところ、高い導電性をもつ結晶構造を持つことが分かりました。さらに、硫化鉄ナノ粒子の有無で細菌の活性を比較したところ、硫化鉄ナノ粒子を持つ細菌のみが細胞外の固体電子源から電子を細胞内に取り込み、代謝が活性化されていることがわかりました。この結果は、これまで単なる代謝副産物でゴミのようなものと考えられてきた黒サビが、重要な生化学機能を有することを示しており、硫酸還元菌であれば特殊な膜酵素がなくても電子の引き抜きによって鉄腐食を進行させることが可能であることを示唆しています。
図:硫化鉄ナノ粒子を細胞膜内外に蓄積する鉄腐食菌
今後は、導電性の低い結晶構造を持つ黒サビを発生させる鉄合金材料を開発することで、細菌による腐食の進行を抑制するなど、環境に有害な殺菌剤を用いることなく細菌による鉄腐食を防ぐ技術の開発を目指していきます。

本研究は、国立研究開発法人物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクスの岡本章玄独立研究者と、Xiao Dengポスドク研究員 (現オーストラリア連邦研究所所属) 、理化学研究所 環境資源科学研究センターの堂前直ユニットリーダーらからなる研究チームによって行われました。本研究は、JSPS科研費 若手研究A (17H04969)等の一環として行われました。本研究成果は、Angewandte Chemie International Edition誌にて同誌TOP 5%のVery Important Paper として2020年1月29日にオンライン掲載されました。

※プレスリリース資料はこちらからご覧いただけます。

掲載論文

題目: Biogenic Iron Sulfide Nanoparticles to Enable Extracellular Electron Uptake in Sulfate-Reducing Bacteria

著者: Xiao Deng, Naoshi Dohmae, Anna H. Kaksonen, and Akihiro Okamoto,

雑誌: Angew. Chem. Int. Ed.

掲載日時:Accepted manuscript online: December 25, 2019

DOI 10.1002/ange.201915196
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