日比野 浩 教授
生命システム模倣としての分子集合体の自触媒反応と自律運動
◆要旨◆
動物にとって必須の感覚であるヒトの聴覚は、ピアノを凌駕する10オクターブもの周波数を捉える一方で、100万倍もの音圧差を受容する。外界からの音は、外耳・中耳を経て、内耳の蝸牛に到達する。そして、蝸牛内部の「感覚上皮帯」と呼ばれる高度に分化した細胞層に、ナノスケールの振動を発生させる。
この事象が、聴覚の端緒となる。機械的な刺激は、感覚上皮帯に含まれるセンサ細胞により、電気信号へと変換され、ケーブルに喩えられる神経線維を通じてコンピュータである脳へと伝えられる。
感覚上皮帯には、音の周波数を弁別するためのフーリエ変換器や、小さな振動を大きく増幅するためのピエゾ素子が備わっている。これらの働きは、生体固有の力学反応によって調節されている。
我々は、近年、異分野連携を介して光学振動計を改良・開発し、感覚上皮帯の特徴的なナノ振動の精密な計測とその制御機構の研究に携わっている。本講演では、感覚上皮帯に備わった音振動に対する尖鋭な受容・応答機構を概説するとともに、我々の取り組みを紹介する。