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物質・材料研究の『使える!メールマガジン』
vol.144
2024.1.24
メカニカルメタマテリアルの写真
今月の一枚
メカニカルメタマテリアルの霜柱
真冬の代名詞・霜柱のような物体はメカニカルメタマテリアル。微細な構造を三次元に造形することで、自然界にはないふるまいを作り出す人工物質だ。設計の仕方によって、衝撃吸収性や遮音性、剛性、弾性など、様々な特性を付加することができ、音響や医療といった多岐に渡る分野で応用が期待される。NIMSではディープラーニングを用いた設計手法の考案、造形物の特性測定や再現性の評価などによって、望み通りの機能を創出できるメカニカルメタマテリアルの開発に挑んでいる。
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★研究者情報:渡邊育夢
★MDR(Material Data Repository)
※このメカニカルメタマテリアルの3Dプリントのデータは、NIMSのデータリポジトリであるMDRからダウンロードしてご自由にお使いいただけます
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HOT TOPICS(NIMSの旬な情報)
 
今、この材料がアツい! Vol.16
「多結晶の透明セラミックス」
 
オトナの科学本『マックスウェルの悪魔』
 
HOT TOPICS
NIMSの最新情報をお届け!
固体電解質内のSIMS画像の図
高速なイオン移動が“見えた”!
全固体電池の高性能化を促進する新技術
プレスリリース 2023/12/18
より安全かつ高いエネルギー密度の実現を目指す次世代蓄電池「全固体電池」。EV向けの車載用電池などへの利用が期待されていますが、固体電解質内に存在する結晶粒子の界面において、イオン移動が遅くなることで、充放電速度やエネルギー密度が低下してしまうことが課題となっています。これまで、このイオン移動の速度を評価する方法はありませんでしたが、この度、NIMSは粒子界面でのイオンの動きを可視化し、精密に測定することに世界で初めて成功しました。今後、イオン移動を妨げない電解質設計が可能になるなど、全固体電池の高性能化を後押しする新技術です!
エンジニア職の顔写真 NIMSエンジニア職の
お仕事大公開!
業務説明会・職場見学会

1/31、2/21、3/5の3日に渡り、NIMSエンジニア職の業務紹介イベントを開催します!2025年卒業見込みの学生を主な対象としておりますが、既卒・2026年度以降卒業予定の方も大歓迎です。若手エンジニア職の生の声が聞けるオンライン説明会のほか、研究の現場をご覧いただける職場見学会も実施いたしますので、エンジニア職に興味がある方はぜひご参加ください!(要事前予約・先着順:締切は各日によって異なりますので、専用サイトからご確認・お申込みください)

 
....and more!
 
アスキーコードで記録した文字列の図 走査型トンネル顕微鏡の探針で単分子ごとに作り分ける
プレスリリース 2023/12/13
 
異方的なホール効果の概略図 物質科学の基礎定理に反する?異方的なホール効果の発見
プレスリリース 2023/12/14
 
高エネルギー密度蓄電池用電極材料の充電時と放電時の図 次世代リチウムイオン電池正極材料における
充放電エネルギー効率低下の起源を解明
プレスリリース 2023/12/15
 
オルソ水素・パラ水素の比率と冷却速度の図 水素貯蔵技術の進歩:貯蔵中の蒸発ロスを防ぐ
触媒の開発指針を獲得
プレスリリース 2023/12/15
 
酸素還元反応における内圏型および外圏型電子・プロトン移動の模式図 電解液のイオンが電気化学反応の選択性を支配する
プレスリリース 2023/12/26
 
 
NIMS公式ウェブサイト
 
TREND
材料の潮流をつかめ!
今、この材料がアツい!
写真:「スピネル」を焼結して作製したセラミックス。1300℃で20分間焼結すると左のように透き通り、1275℃で20分間焼結すると右のように不透明になる。わずか25℃の温度差で大きな違いが出る。
Vol.16
多結晶の透明セラミックス
~粒子サイズ、温度、時間……すべてを巧みに操る! 多結晶で作る透明セラミックス~
 
透き通った滑らかな板と、不透明な板。一見、まったく違う素材に見えるが、実はどちらもセラミックスの一種「スピネル(MgAl2O4)」という材料でできている。セラミックスと聞くと、一般的には光を透過しない陶器を思い浮かべるだろう。しかし、このガラスのような透明なセラミックスが今、新たな赤外線センサの窓材として有望な材料となっているのだ。
監視カメラやテレビのリモコン、暖房器具やオーブントースターなど多くの電子機器に搭載され、私たちの日常に欠かすことのできない赤外線センサ。更なる高性能を目指す、次世代赤外線センサの窓材として使うには、可視光から赤外線までの幅広い透過性に加え、機械的な強度や耐熱性も求められる。それらを兼ね備えた窓材の作製に挑んでいるのがNIMSの森田孝治グループリーダーだ。 アルミナ・スピネルの積層構造体の写真・断面図
スピネルの上下にアルミナを挟んで作られた積層構造の多結晶セラミックス。スピネルが持つ透明性を保ちつつ、高い強度を実現している。
セラミックスは粉末を焼き固める「焼結」という手法で作られる。焼結は温度や時間、温度の上昇速度など、様々な要素のわずかな違いで仕上がりに大きな差が出るのが特徴だ。森田はこれらを緻密に制御することで、スピネル粉末が持つ透過性の高さを維持した透明セラミックスの作製に成功(事実、たった25℃、温度を高くしただけで不透明な板【上写真・右】になってしまう)。加えて、ガラスの5倍にも及ぶ強度、そして800℃付近の環境下でも使用できる耐熱性も達成した。
森田研究員と学生の写真
「NIMS-九州大学連携大学院」制度にて教授も務める森田。学生との積極的なディスカッションからアイディアが生まれることも。
この透明セラミックス、機能面の向上だけでなく、実用化に重要な“シンプルな作製方法”も見出した。現在製品化されている赤外線センサ用窓材には単結晶(※注)が利用されることが多いが、単結晶は2000℃もの高温で、徐々に結晶を成長させていく必要があり、時間もコストもかかる。
一方、多結晶(※注)のセラミックスは粉末を短時間、焼き固めるだけで作製可能でコストに優れるものの、結晶と結晶との間に隙間ができてしまい、そこで光が散乱するため、透明性が出ないことが多い。多結晶でありながら、透明性を確保するには——森田は、まずスピネル粉末の粒子を光の波長よりも小さいナノサイズに微粉化。そして、焼結中の結晶成長を絶妙にコントロールすることで、結晶同士の隙間を完全になくす作製手法を確立した。
現在、この透明セラミックスに更なる機械特性を付加するため、スピネルをアルミナ(Al2O3)で挟んだ、積層構造の多結晶セラミックスの作製にも注力している(写真:右上)。「透明セラミックスを実際のセンサで利用するには、光学特性に加えて、優れた機械特性や熱特性なども不可欠です。そこで、異なる強みを持つ複数の材料を用いて、単一材料よりも優れた特性を有する材料開発にも取り組んでいます」と森田。 森田研究員の写真
「同じ素材であっても、ほんの些細な製造法の違いで、その外見や特性はあたかも全く異なる材料のような表情を見せることがあります。その想像以上の変化に驚きました」(森田グループリーダー)。
焼結の条件、結晶の制御、他の材料との組み合わせ——幅広い知見を絶えず注ぎ込みながら、森田は透明セラミックスの最先端をひた走る。
(※注)単結晶は物体全体が一つの結晶である固体のこと。対する多結晶は、向きの揃っていない無数の結晶が集まってできた固体のこと。
もっと知りたい!
アツい機能性液体の世界

★NIMS NOW Vol.23 No.4 電子・光機能材料研究センター号
P.10「Research3 多結晶でありながら透明なセラミックスを」

★多結晶光学材料グループ
センサー用窓材や高輝度光源用の多結晶光学セラミックスの実現に貢献する
新規材料・創製技術の開発

BOOK
どっぷり浸かるサイエンスの世界
オトナ科学本
本の表紙写真『マックスウェルの悪魔』と石井研究員
『マックスウェルの悪魔』
都筑 卓司 著/講談社 発行
 
材料モデリンググループ・石井真史 主席研究員のおススメ!
出汁がベースの関西風うどんと、醤油味の濃い関東風うどん。皆さんはどちらがお好きですか? もし関東風が好みなら、関西風のつゆに醤油を入れれば良いでしょうが、関西風にしたいのに醤油をたくさん入れてしまったら、関西風はもう作れませんね。つまり、薄口から濃い口にはできても、濃い口から薄口には戻れない。でも、もし醤油の分子を一つ一つ見分けて、出汁と分離することができれば、濃い口から薄口に戻すことができる——これをするのが「マックスウェルの悪魔」なのです。
この考察は1860年代(日本では江戸時代後期)に、世界の科学界で一大ブームとなりました。「マックスウェルの悪魔」が実在すれば、例えば海水から塩を分離して飲み水にすることができるし、大気に溶け込んだ温室効果ガスをきれいに取り除くこともできます。エネルギーや貧困、環境など様々な課題が解決されて、SDGsもたちまち達成できるかもしれません。そんな地球の救世主となるような「マックスウェルの悪魔」ですが、ではなぜ“悪魔”なのでしょうか? それは、ぜひ本を読んで考えてみてください。
ちなみに、その答えのヒントとして、『鉄腕アトム』の一話「アトム対ガロン」を挙げておきましょう。怪物ガロンが、「マックスウェルの悪魔」のごとく地球上の無秩序なものに秩序を持たせて、違う惑星を創ろうとしたとき、一体どんなことが起こったのか——“悪魔”たる所以がこの物語からも垣間見えるので、こちらもぜひ手に取ってみてくださいね。
 
あらすじ

「マックスウェルの悪魔なら、火にかけたヤカンの水を凍らせる」!? 物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルが提唱し、センセーションを巻き起こした科学のパラドックスを、日常の視点を交えて面白くわかりやすく解説する。

 
— 読書案内人 —

石井 真史(いしい・まさし)

マテリアル基盤研究センター 材料設計分野
 材料モデリンググループ 主席研究員

装置からのデータや論文、ラボノートなど様々な形態の材料データをNIMS 独自のデータベースに統合・運用し、データ駆動型研究を促進する国際的な知識基盤の構築に従事。また、目が見えない研究者として、科学と点字をテーマにした講演会を開くなど、視覚障碍者と科学をつなぐ活動にも精力的に取り組んでいる(参考情報:「光速0」の世界 視覚障碍者の科学 )。 ※イベント情報は今後、NIMS 公式HPやメルマガ、X(旧Twitter)などでお知らせしていきます。
「私は点字で本を読みますが、その魅力は普通の読書以上かもしれません。行間まで触読することで、映像や音がなくても、その場面が見える気がします。指先で広大な景色が見えるなんて、科学と芸術と人生の一大事と思いませんか」

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