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物質・材料研究の『使える!メールマガジン』
vol.142
2023.11.15
リプロケーション構造の図
今月の一枚
リプロケーション構造
晩秋に実をつける山ぶどうのような形状は、粘土鉱物「マスコバイト(白雲母)」の表面に形成される「リプロケーション構造」。粘土鉱物はナノシートが層状に重なった物質で、層間にイオンを吸着・保持する性質を持つ。NIMSでは粘土の層を単層まで剥離する技術開発を目指すとともに、最表面の一部が波のように浮き上がったこの構造が革新的な機能創出につながると予測し、その解明に挑んでいる。
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★NIMS NOW Vol.23 No.4 P.14
ありふれた「粘土」が、未来のデバイスに!?
★資源循環材料グループ
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HOT TOPICS(NIMSの旬な情報)
 
今、この材料がアツい! Vol.15
「機能性液体」
 
オトナの科学本『奇跡のリンゴ』
 
HOT TOPICS
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有機半導体の精密ドーピングの図
有機半導体の精密ドーピングを確立
フレキシブルデバイスの産業応用に期待大!
プレスリリース 10/18
柔軟で軽量、インクジェットなどの低コスト印刷プロセスにも適している「有機半導体」。しかし、デバイス化する際のドーピング処理に特別な設備が必要な上、その精度や再現性も低く、産業応用には至っていませんでした。この度、NIMSはこれまで忌避されてきた「水」を逆に利用することで、有機半導体を水溶液中で精密にドーピングできる基盤技術を世界で初めて開発。センサや電子回路、太陽電池、ディスプレイなど様々な有機半導体フレキシブルデバイスの実現に向けた大きな一歩です!
DXMTのロゴ写真 MI統合ソフトを基礎から学べる!
DxMT事例セミナー開催!

来る11月29日(水)、データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト (DxMT)の無料セミナーを開催します! 「機械学習による材料の予測・理解・発見:ソフトウェアと活用事例の紹介を中心に」をテーマに、「富岳」成果創出加速プログラム代表者の吉田亮先生をお招きし、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)統合ソフトおよび最新成果について語っていただきます。ぜひご参加ください!(オンライン開催・要事前予約:サイト内のQRコードからお申し込みください)

MatISS2023のロゴ マテリアル戦略総合シンポジウム
『MatISS2023』開催

様々な分野でデジタルトランスフォーメーション(DX)が展開される中、いよいよ材料開発分野でも、本命となる革新的な取り組み、「マテリアルDXプラットフォーム」が動き出します! 本シンポジウムでは、政府戦略に基づいた3つの取り組み(マテリアルデータの創成・蓄積・利活用)を紹介すると共に、それによってもたらされる革新的材料開発の未来について語り合います。12月5日(火)、一橋大学一橋講堂にて、ご来場をお待ちしております!(オンライン併用開催・要事前登録11/29締切:専用サイトからお申し込みください)

 
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銅固溶合金の機械特性と電気特性の関係図 銅合金の特性予測モデルを構築
プレスリリース 10/31
 
湿度応答性形状記憶ヘアスタイリング効果の図 スゴイ湿気でもセットした髪が乱れない
ヘアスタイリング材料
プレスリリース 11/8
 
 
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材料の潮流をつかめ!
今、この材料がアツい!
機能性液体の写真
Vol.15
機能性液体
~光る!電気を貯める! 究極に柔らかい液体材料~
 
柔らかい水あめのようなトロリとした液体——光を照射すると、ご覧の通り、暗闇の中で鮮やかな青い光を放つ。この液体は、単に色素分子を溶かした溶液ではなく、色素に柔軟で絶縁性に優れる「アルキル鎖」を連結させた分子から構成されている。アルキル鎖で色素分子「アントラセン」を包むことによって、アントラセンが他の分子と反応したり、酸化するのを防ぎ、本来の青色発光を保持しているのだ。
この“発光する液体”を生み出したのはNIMSの中西尚志研究員。それまで発光機能を持つ材料は、固体や硬いフィルム状の素材がほとんどだったが、中西はその機能を究極に柔らかい「液体」にする「機能性液体」の技術を確立した。
この技術を活用し、中西は“静電気を貯める”ことができる液体も開発。それが「液体エレクトレット」だ。エレクトレットとは、一言でいうと静電気を半永久的に保持することができる材料。
液体エレクトレットの写真
常温の液体でありながら、安定的に静電気を保持できる液体エレクトレット。
振動や圧力によって発電する仕組みを作ることができるため、電源要らずのセンサや発電端末など環境に優しい材料として注目されている。すでにマイクロフォンやスピーカーなどで実用化されているが、どれも硬い素子や基板上での応用に留まっているのが現状だ。
液体エレクトレットで作成した振動発電素子の写真
液体エレクトレットで作成した振動発電素子。指で表面を押すなど、加圧や振動を加えると発電する。
柔軟性の高いエレクトレットを作成できれば、様々なシーンで環境発電を促進することができるはず——そう考えた中西は、光る液体と同じく、アルキル鎖で包まれた色素液体を使って、常温の液体内に静電気を保持できる機構を考案した。そして、約70kVの電圧をかけ、液体内に静電気を帯電させることで、世界初の「液体エレクトレット」を開発。この液体エレクトレットを柔らかい布地に染み込ませ、銀メッキ繊維を織り込んだ電極で挟み、極薄の発電素子を作成した。この素子の表面を指で押してみると100~200mVの電圧が発生、それが少なくとも1か月以上、安定して駆動することも確かめた。その後、改良を重ね、最近では4kVの発電も達成している。
引っ張りや折り曲げ、ねじりなどにも自在に対応できる優れた変形性に加え、重さ約100mg、厚さ約0.1mmと非常に軽くて薄い。それらの利点を活かして、目下、身体運動で生じる微弱な振動や低周波を捉えて電気に変える、ウェアラブル素子への応用を模索している。 吉尾研究員の写真
液体エレクトレットを染み込ませた布地素子。伸縮や変形にも対応できるため、エレクトレット材料の使用幅が格段に広がった。
中西研究員の写真
「ウェアラブル素子とIoT技術を融合させて、遠隔医療や健康・運動観察への活用、音波を捉えることで音響技術への利用なども目指しています。柔らかな素材・自由な変形が求められる状況下で使用できる振動発電・センサとして、様々な展開を見出していきたいです」。
「身に着けることでヘルスケアやスポーツ療法へ応用したり、靴のインソールに貼り、歩行時の振動や圧力によって身の回りの電子機器を動かしたり——例えば、補聴器やスマートコンタクトレンズの電源などにも使えるかもしれません。このように、金属を含む電池などに頼らず、今まで使われてこなかった微弱なエネルギーを、液体エレクトレットによって活用できるようにしていきたいです」と中西。
多くの可能性を秘めた「機能性液体」。私たちの生活に当たり前に存在する未来は、そう遠くないかもしれない。
もっと知りたい!
アツい機能性液体の世界

★NIMS NOW Vol.20 No.4 オノマトペ材料図鑑
P.4「『ねばねば』01:機能性液体」

★フロンティア分子グループ
NIMSオリジナル個性派分子の創成を軸に新奇機能・新現象を創出

BOOK
どっぷり浸かるサイエンスの世界
オトナ科学本
本の表紙写真『奇跡のリンゴ』と川村研究員
『奇跡のリンゴ』
石川 拓治 著/幻冬舎 発行
 
超高圧構造制御グループ・川村研究員のおススメ!
NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』を見て、すごい人がいるなと思ったのが手に取ったきっかけですね。リンゴの無農薬栽培に成功した木村秋則さんの挑戦を綴ったノンフィクションです。
私が研究者として非常に共感したのは、「うまくいかないときに、どこまで頑張るべきか」というテーマです。木村さんは11年もの間、失敗し続けるわけですが、研究でも同じようなことが起こります。トントン拍子なんてことは、まずないんです。ダメなら早く止めるべき、でも、いつか成功するはず——たとえ後者の気持ちが強くても、予算が付かなかったり、周りに反対されたり、続けられない状況になってしまうことも少なくありません。努力や苦労はもちろんですが、周囲の反応や損得勘定など様々な葛藤を超えたところに、ブレークスルーがあるんだという事を改めて感じさせられましたね。
また、相当に追い込まれた木村さんが、山を登った先でいきなりアイディアを閃くシーンがあるのですが、私も実験結果がどうしても解釈できず、何か月も悩み続けたことがあります。考えあぐねて、山道を無心でドライブしていた時に、急に答えが分かったんです。もう、車で叫びましたよ(笑)。木村さんとはスケールが違うかもしれないですが、それが分からなかったらNIMSには就職できなかったし、今の自分はなかったと思うんです。こんな風に、自分に通じるところが多々あったので、最後にリンゴの花が咲いたときは思わずウルッと来ましたね。感動の実話、ぜひ読んでみてください!
 
あらすじ

映画化もされた奇跡の実話。壮絶な孤独と絶望を乗り越え、「絶対不可能」と言われたリンゴの無農薬栽培を実現した農家・木村秋則の半生を描く。

 
— 読書案内人 —

川村 史朗(かわむら・ふみお)

ナノアーキテクトニクス材料研究センター ナノ材料分野
 超高圧構造制御グループ 主幹研究員

超高圧をかけて高品質なZnSnN2半導体の合成に世界で初めて成功するなど、高圧力技術を用いた新現象の解明や新物質の創製に従事。最近ではベルト型高圧装置を駆使して、窒化物半導体や超伝導物質の合成、新しい薄膜材料の開発に挑んでいる。
「読書は、目的があっても、単なる暇つぶしだとしても、何かを与えてくれるものだと思います。他の人の考えや体験談が自分と同じということはあり得ず、常に自分とは違う方向性や視点を与えてくれるところが面白さだと思います」

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