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物質・材料研究の『使える!メールマガジン』
vol.140
2023.9.13
酸化物ナノシートの写真
今月の一枚
ナノシートの名月
中秋の名月のような美しい球体は、層状構造のチタン酸化物を層1枚にまでバラバラに剥離し、水中に分散させたもの。撹拌すると、高屈折率の酸化物層(ナノシート)が流れに沿って溶液中で平行に並び、独特の光沢を呈する。NIMSでは、光触媒性が高く誘電体としての応用も可能な酸化チタンナノシート、リチウムイオン電池の大容量化や長寿命化に貢献する酸化マンガンナノシートなど、様々なナノシートの研究開発を行っている。
for more detail
★NIMS NOW Vol.20 No.4 『オノマトペ材料図鑑』P.11「びしっ! 12 ナノシート」
★NIMS NOW Vol.18 No.6 『ナノの秩序を操れ』P.12「材料の“ミルフィーユ”で高機能材料を」
★プレスリリース(2018.1.25)「二次電池の高容量・長寿命化を両立する酸化物/グラフェン複合材料を開発」
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HOT TOPICS(NIMSの旬な情報)
 
研究者の目のつけどころ Vol.12
「3D解析手法『PFIB-SEM』による疲労亀裂の解明」
 
オトナの科学本『君について行こう 女房は宇宙をめざした』
 
HOT TOPICS
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NIMSAwardの写真
■NIMS Award2023 Dierk Raabe教授に決定!
プレスリリース 7/12
物質・材料に関わる科学技術において、優れた業績を残した研究者に贈る国際賞「NIMS-Award」。今年は「先端金属材料の持続可能性と微細構造に基づく設計に関する先駆的研究」を行ったDierk Raabe教授に決定しました。授賞式および受賞講演は11/6の「NIMS Award Symposium 2023」(つくば国際会議場)にて開催予定。お見逃しなく!
NIMS材料技術展示会のロゴ NIMSの材料技術「トリセツ」
イベントに注目!

来る10月11日(水)、『NIMS材料技術展示会』を東京国際フォーラムにて開催! ウエスタンデジタルユニバーサルマテリアルズインキュベーターによる特別講演、NIMS発ベンチャー紹介、NIMS研究者の材料技術紹介を通じ、「NIMSのトリセツ」を徹底解説! 詳細は近日、臨時増刊号にて!

 
NIMS公式ウェブサイト
 
TECHNIQUE
技術革新のキモ、ここにあり!
研究者の目のつけどころ
金属材料における疲労亀裂の3D解析画像
Vol.12
3D解析手法「PFIB-SEM」による
疲労亀裂の解明
~50年来の謎にピリオド! 金属の疲労亀裂の成長メカニズムを暴く新手法~
 
日航ジャンボジェット機の墜落事故(1985年)や高速増殖炉もんじゅのナトリウム漏洩事故(1995年)——これら重大事故の引き金となったのが「金属疲労」だ。金属疲労とは、金属材料が繰り返し力を受けることによって破断する現象のこと。たとえ弱い力でも長時間、かかり続けることで、些細な亀裂が徐々に広がり、ついには壊れてしまうのだ。
金属疲労による事故を防ぐには、材料の寿命を予測することが重要で、そのために亀裂の成長メカニズムを探る研究が続けられてきた。1970年代には、小さな亀裂がどのように発生するのか、そして、大きくなった亀裂が最終的にどう破断に至るのかが明らかとなった。しかし、その中間過程である小さな亀裂から大きな亀裂に成長するメカニズムは、謎のまま50年以上が過ぎていた。 亀裂の成長経路における結晶方位の解析画像
亀裂の成長経路における結晶方位の解析画像。亀裂は主に、“すべり面”と呼ばれる青色の結晶面(111面)を通過していることが明らかになった。
解明が難しい一因は、疲労寿命への寄与が特に大きい200マイクロメートル前後の亀裂を、高精度に解析できる手法がなかったからだ。
亀裂の入り方の比較図
亀裂は従来、「引っ張り力」が働くことで成長すると考えられてきたが、新手法により、主に斜めに滑る「せん断力」により成長することが明らかになった。
ミクロな亀裂を鮮明に観察できる方法はないか——この難題に挑んだのが西川嗣彬研究員だ。長年、NIMSの事故調査チームで様々な金属疲労と向き合ってきた西川は、2000年代以降主流となっていた二次元解析から、より正確性の高い三次元解析技術を模索。そして、微細組織の解析を専門とする原徹研究員が構築してきた手法である、電子顕微鏡に最新鋭の微細加工技術を組み合わせた「PFIB-SEM」を原の協力のもと発展させ、200マイクロメートル前後の亀裂が成長していく経路やその結晶の向きを、3Dで高精度に描き出すことに世界で初めて成功した。
この手法を用いて、NIMSが開発した航空機エンジン用耐熱合金「Ni-Co基超合金」を解析してみたところ、通説を覆す驚くべきメカニズムが見えてきた。従来、亀裂の成長は、亀裂が金属中で結晶一つ一つを開きながら進む「引っ張り型」が主と考えられてきたが、実際は、亀裂が結晶中で斜めに滑ることで進む「せん断型」であることが示されたのだ(上図)。 西川研究員の写真
「原研究員をはじめ、『面白そうだね、やってみようよ』と皆さまに親身に協力していただきました。解析に成功した時は『NIMSにいて良かった!』と思いましたね」(西川研究員)。
50年以上の時を経て、NIMS独自の手法により発見された新事実。「今回の成果に基づいた高精度な疲労寿命の予測方法を構築することで、金属材料の信頼性向上と、新しい材料の実用化促進に貢献していきたい」と西川。 金属疲労による大事故を防ぎたい——その強い思いで、西川はこれからも社会の安心を創っていく。
もっと知りたい! 「PFIB-SEM」による疲労亀裂解明のキモ
★プレスリリース(2022.10.28)「大規模かつ高解像度三次元解析手法により疲労亀裂の成長メカニズムを解明」
★NIMS NOW Vol.23 No.2 Research Digest 2022総集編 P.10-11「金属はどうやって壊れる?
50年来の謎に終止符!」
BOOK
どっぷり浸かるサイエンスの世界
オトナ科学本
本の表紙写真『君について行こう』と藤崎エンジニア
『君について行こう
 女房は宇宙をめざした
向井 万起男 著/講談社 発行
 
企業連携室・藤崎エンジニアのおススメ!
水金地火木土天海冥……気づけば口ずさんでいるほど、幼い頃から宇宙が大好きでした。地上ではあり得ない現象や色鮮やかな惑星が載っている本を眺めては、宇宙飛行士に憧れていましたね。そんな娘を見かねて、両親が買ってくれた本がこちら。向井千秋さんが日本人初の女性宇宙飛行士になるまでを、夫の万起男さんが綴ったエッセイです。
わりと分厚いんですが、小学生でも読めてしまうほど、二人のエピソードが面白くて(笑)。模擬訓練で様々なテストを難なくクリアしていく千秋さんの豪快さ、屈強さには本当に感心させられますし、無重力や宇宙速度といった専門的な話も、会話調で分かりやすく書かれています。また、当時の日本って、女性の生き方に対してまだ画一的なところがあったと思うのですが、千秋さんは自分の意思を貫いて、医師になり、そして宇宙飛行士に転身したんです。自由で逞しい千秋さんに、私自身、未来の選択肢をぐんと広げてもらいました。
この本には続きがあって(『君について行こう 女房は宇宙を飛んだ』)、そちらではスペースシャトルでの生活をはじめ、痛快な後日談が満載です。宇宙について学びながら、千秋さんのバイタリティに刺激されるシリーズ、ぜひ読んでみてください!
 
あらすじ

日本ナイス・カップル大賞に輝いたチアキちゃん・マキオちゃん夫婦の愛と感動に溢れた物語。宇宙飛行士の訓練や乗組員家族との交流など、知られざる航空業界の裏側もユーモアたっぷりに綴られる。

 
— 読書案内人 —

藤崎 百合恵(ふじさき・ゆりえ)

外部連携部門 企業連携室 エンジニア

NIMSと企業をつなぐ連携事業に従事。研究者が生み出した成果を社会実装するために、契約、特許、研究費など企業との共同研究や技術相談で発生する様々な事案に対し、最適なサポートとソリューションを提供するべく日々取り組んでいる。
「自分の人生じゃない人生を見られるのは、本の特権だと思います。それに、主人公って“めげない”がテーマになっていることが多いですよね。仕事が大変なときも、物語を通して元気をもらっています!」

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