研究の背景
海洋環境にさらされる橋梁、港湾施設、浮体構造物(メガフロート)等の大型構造物ではスプラッシュゾーン(飛沫帯)の腐食が大きな問題となっている。
・従来ステンレス鋼、チタンのグラッド鋼が適用されている
グラット鋼の製造、および継ぎ目の溶接に手間とコストがかかる
形状に制約がある.
溶射
・高温に加熱した粒子を基材上に投射して皮膜を形成するプロセス。 1910年代にスイス人のSchoopによって発明され、その後熱源として酸素-アセチレン炎やプラズマジェット等が開発されるに従い、多種類の溶射プロセスが実用化されている。
・皮膜の原料として粒径10〜100ミクロンの粉末や直径1〜4ミリのワイヤが用いられる。
・ジェットエンジン、発電プラント、自動車、化学プラント等の産業・運輸機器に広く使われているほかホットプレートやIH炊飯器等の身近な製品にも使われている。
・エネルギー効率の向上や環境負荷の低減などのため、発電プラント等の動作環境(温度、腐食環境)は激しくなる傾向にあり、そのため溶射に代表されるコーティング技術の重要性が増している。
溶射皮膜の特徴
・メッキや蒸着などの成膜法より、厚い膜を形成できる
・形成速度が大きい 50g-200g/min
・対象物の形状に対する制約が少ない
・多様な材料(金属、合金、セラミックス、プラスチック等)の皮膜が可能
・低入熱で基材の加熱がない
・現地で施工できる
・大面積がコーティングできる
溶射皮膜の問題点
@溶射によりつくられた皮膜にできる貫通気孔
・海水浸入による基材の腐食
・ガルバニック腐食
A酸化による材料の耐食性劣化
・溶射中に皮膜材料の粒子が高温になると大気中の酸素によって酸化される
耐食材料としての性能そのものが低下する
溶射後の後処理工程による問題点の解決
・封孔処理 (樹脂を気孔中に浸透処理する)
・フュ―ジング (皮膜の再溶融処理により皮膜を緻密化、清浄化する)
↓
工程の複雑化
コストアップ
使用環境や材料の制限
↓
十分な緻密性と耐食性を有する合金皮膜の実現
ガルバニック腐食
異種金属を接触させて水中にいれると、イオン化傾向の大きい方の金属の腐食がその金属単独で水中に入れた場合よりも加速され、逆に相手の金属の腐食は抑制される現象。ステンレスやハステロイのような耐食合金と鉄の組み合わせでは鉄が優先的に腐食し、鉄と亜鉛やアルミニウムの組み合わせでは、亜鉛やアルミニウムが優先的に腐食する
すき間腐食
ステンレス鋼のように金属表面にうすく緻密の酸素皮膜を形成して耐食性を発揮する材料をボルトナットで締め付けたような場合、板とボルトナットのわずかなすき間には十分な酸素が供給されず、連続した酸化皮膜が形成されないために、耐食性が低下して優先的に腐食されること
ハステロイC合金はすぐれた耐すき間腐食性が知られている
高速フレーム(HVOF)溶射
燃料となる灯油と酸素を燃焼室に吹き込み高圧で燃焼させ、超音速の燃焼炎を発生させる.
燃焼炎はノズルで一旦絞られ、後にバレルを通って大気中に噴出する
バレル入り口で原料粉末を燃焼炎中に吹き込み、加熱、加速して、基材に投射して皮膜を作る
粒子温度2000℃
粒子速度500/mmをこえる
プラズマ溶射
熱源にプラズマを用いる
粒子温度が3000℃以上の高温になる
酸化物等のセラミックスの溶射が可能である
実験室1
溶射皮膜の組織比較1 プラズマ溶射とHVOF溶射
溶射皮膜の組織比較2 HVOF溶射 とGS-HVOF溶射
海洋暴露試験1
SUS316Lステンレス鋼 と ハステロイC のHVOF溶射〔標準条件)における試験
ガスシュラウドの開発
ガスジュラウド付き高速フレーム溶射(HVOF: High Velocity Oxy-Fuel)
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溶射皮膜の組織比較2 HVOF溶射 とGS-HVOF溶射
海洋暴露試験2
ステンレス鋼とハステロイCのHVOF溶射(標準条件)の比較
ハステロイCのHVOF溶射(標準条件) とGS-HVOF溶射の比較
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ハステロイCのGS-HVOF溶射
溶射しただけで厳しい海洋腐食環境で耐食性を発揮する合金皮膜の製造が可能になった
構造体を形成してから、その形状の上に皮膜を形成して、グラッド材に匹敵する耐食性能を付与できる。
グラッド鋼の継ぎ目を溶接する際の問題を回避できる。
グラッド鋼を補完する役割として、溶接部や端部への適用が期待される。
溶射プロセスの特長は現場施工が可能なことであり、各種構造物やプラントの損傷部の補修への適用も考えられる.
高効率廃棄物発電