環太平洋先端材料国際会議(PRICM5)参加報告


黄砂で曇る北京市内において、環太平洋先端材料国際会議(PRICM5)が2004年11月2-5日に開催されました。会場となったBeijing International Convention Centre(写真)には概数1000人、25カ国の参加者が集い、今回の主催学会であるThe Chinese Society for Metalsを代表して名誉チェアマンProf. Changxu SHI、チェアマンProf. Yuqing WENGからの開催の挨拶をもって会議が始まりました。はじめに、基調講演として、Prof. Ke LU (Institute of Metal Research, Chinese Academy of Sciences)、Prof. Hiroyasu SAKA (Nagoya University)、Prof. Dong Nyung LEE (Seoul National University)、 Dr. C.T. LIU (Oak Ridge National Laboratory)から、それぞれナノ粒径材料の機械的特性、収束イオンビーム加工と透過型電子顕微鏡のコンビネーションの材料科学へのインパクト、薄膜材料の集合組織形成過程、金属間化合物・金属の最先端と題した講演がなされました。

セッションは多岐に渡り、18セッションが並行して実施されました。その中で、聴講した先端鉄鋼、ナノ解析、腐食分野で、以下の講演が注目されました。

【先端鉄鋼】Prof. Zuqing SUN (USTB) 動的変態で生じるフェライトの生成速度をJMAの式の定数を決定して定式化した。動的変態により変態集合組織が強くなり、真歪2以上の加工が続くと加工集合組織が強くなっていることを示した。Prof. Y.M.KIM (Pohang University of Science and Technology) 低降伏比材料開発の基礎データとして、Swift式(σ=b(a+ε)N)中のb及びNを日本鉄鋼協会共同研究会データを用いて各組織に対して求め、実験により得た降伏比との対応関係を調べた。降伏比とln(b/N2)の間に良好な正関係が得られ、指針になることを示した。日本鉄鋼協会共同研究会のデータベースが国際的に活用されていた。

【ナノ解析】 Prof. TAKAYANAGI (Tokyo Institute of Technology) 透過電子顕微鏡内その場引張によって、数原子層の金ナノワイヤーが形成される過程を明らかにした。また、原子層数と抵抗値との関係を測定し、ナノワイヤーの特性を定量的に評価することに成功した。キーになる実験技術は、電子顕微鏡内を超高真空状態に保つことで、炭素などの汚染を低減することである。

【腐食】Prof. En-Hau HAN(IMR) 大気腐食に対するNano-Pasteの効果に関する発表があった。日本国内でも類似の発表、実用化が認められるが、今後の動向が注目される。ナノ粒子を多量に分散してもペーストを低粘度に保つ溶剤を新開発している。

1000名超におよぶ講演を企画されたオーガナイザーの方々、国際委員各位のご努力に心から敬意を表したいと思いました。ただ、セッションが少々拡散しており、各会場で専門家が少ない中での講演であったことは今後改善を要するよう感じました。途中カンファレンスツアーで、万里の長城(写真)を訪れた際のバスの中で、数少ない欧米からの参加者の一人から、中国での開催であるにもかかわらず、“このバスは日本人専用か?私も乗っていいのか?”というバスガイドへの質問には苦笑いでした。100名を超える日本からの参加者に内心驚かれていたのかもしれません。北京の空が曇っていたのは黄砂の影響もありますが、急激に都市開発が進められている工事や、自転車に遠慮することなく道路を埋め尽くす車からの排煙の影響も少なくないように感じられました。次回PRICM6は韓国で2007年に開催予定です。

    

(金相グループ 足立 吉隆)


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