「NIMS-MPA Workshop」開催報告


   “NIMS-MPA Workshop on Long-term Strength and Reliability of High Cr Ferritic Creep Resistant Steels”を、材料基盤情報ステーション(Materials Information Technology Station: MITS †1)との共催で、平成16年3月17日(水)にNIMS千現地区第1会議室にて開催しました。

   当センターとMITSは、平成14年10月にドイツのStuttgart大学材料試験研究所(Staatliche Materialprüfungsanstalt: MPA †2)と、構造材料の強度評価・信頼性評価に関する共同研究を推進することを目的として研究協力の覚書を交わしました(NIMS NOW 2002年11月号 †3)。その後、NIMSとMPAにおいて交互にワークショップを開催して情報交流を行ってきており、今回が第4回目です。当日は、NIMSから4件、MPAから4件の発表の他、日本と欧州の企業から2件ずつの発表があり、最後に、東京大学名誉教授 藤田利夫先生による特別講演が行われました。NIMSとMPA以外からも、第一線で活躍している世界中の耐熱鋼研究者をはじめ、日本、ドイツ、イタリア、デンマーク、フィンランド、米国および韓国から約70が参加され、活発な議論をしていただきました。

   本ワークショップでは、『高Crフェライト耐熱鋼の長時間強度評価』をメインテーマに意見交換を行いました。1980年代前半に米国で開発された改良9Cr-1Mo鋼およびそれから発展した9-12Crフェライト鋼(ASME P92、P122)は、それまでのフェライト耐熱鋼よりも優れた長時間クリープ強度を有しており、火力発電プラントのエネルギー効率向上に大きく貢献し、発電プラントなどの高温構造部材としてすでに10年を超える長期間の使用実績があります。そのため近年では、高精度余寿命診断に基づいた長期使用プラントの寿命延長や信頼性の確保が重要な技術的課題となっています。そこで本ワークショップでは、改良9Cr-1Mo鋼に代表される高Crフェライト耐熱鋼の低応力−長時間域におけるクリープ強度やクリープ疲労特性と材質劣化挙動、種々のモデリングやパラメータの最適化によるクリープ寿命や変形挙動の予測評価手法の確立に関する議論を行いました。また、溶接継手部の強度評価や多軸応力下でのクリープ損傷、長時間実機使用材の内圧クリープ試験やその余寿命評価等、構造体としての材料強度についても話し合われました。さらに、熱処理条件、添加元素や微細組織がクリープ強度に及ぼす効果をまとめ、さらに優れた強度を有する材料の設計指針を導きました。

   このワークショップで、特に長時間クリープ特性の評価や高強度耐熱鋼の設計開発に関するNIMSのポテンシャルは非常に高いことを再確認しましたが、高温強度の基礎学に基づく理論的な解析やクリープ変形の予測評価手法の確立については、MPAをはじめ欧州の研究者に見ならう点が多いように思いました。

    最後は藤田利夫先生に、高Crフェライト耐熱鋼発展の歴史そのものであるご自身の50年間にわたる研究生活を振り返っていただき、また、耐熱鋼研究のますますの発展を期待する旨の力強い励ましの言葉をいただいて、ワークショップを締めくくりました。

   エネルギー問題や環境問題を解決するために、火力発電プラントの高効率化は世界中で緊急の課題となっています。高Crフェライト鋼をはじめとする耐熱材料の研究は、日本と欧州で特に活発に研究・開発が行われていますが、その中核をなすNIMSとMPAが、今後もこのワークショップを通じてお互いに切磋琢磨して、この分野の研究を強力に推し進めることが必要だと思われます。

(耐熱グループ 戸田 佳明)

会議風景 左からDr. R. Blum、藤田利夫先生、長井センター長

†1 材料基盤情報ステーション http://www.nims.go.jp/mits/
†2 Stuttgart大学材料試験研究所 http://www.mpa.uni-stuttgart.de/mpa_de/
†3 NIMS NOW 2002年11月号 http://www.nims.go.jp/jpn/news/nimsnow/2002-11/


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