ミレニアム超鉄鋼フォーラム報告
「自動車材料技術の将来展望−エネルギー・環境・安全問題の克服に向けて-」
標記フォーラムを平成15年1月23日(木)にNIMS千現地区本館第一会議室にて、ミレニアム関連プロジェクト「自動車および家電に関するリサイクル材料技術」研究評価調査委員会、超鉄鋼研究センター、エコマテリアル研究センターの3者の共同企画により開催しました。外部から53名、NIMSから54名、合計107名の参加があり、リサイクル・LCA・エネルギー・環境・安全の幅広い視点から見た材料技術の将来展望に関する7件の話題をめぐって、活発な議論が交わされました。基調講演と特別講演の内容を紹介します。
武田邦彦氏(名古屋大学)は「21世紀の工業製品材料の概念」と題する基調講演で、まず「作られた環境危機」と題し、ダイオキシン・CO2発生、資源枯渇に関する従来論調に疑問を述べられ、工学者は、信頼性ある定量的データをもとに環境資源問題を論じなければならないとし、工学こそが環境を守っていることを認識し、努力すべきと話されました。さらに、循環型(閉鎖型)社会実現のためには、材料選択は単一産業の立場ではなく包括的検討が不可欠と指摘され、エネルギー効率、物質効率、自己修復性から見て「閉鎖的社会における工業製品とはどういうものか?」について論じられました。そして、総合的にものを考える最初の一歩は、工業が自らの社会への寄与を強く認識して工業製品に関する社会的合意を求めることであると述べられました。このように、一貫して「環境の時代では全体を見ることが重要」と強調され、「環境時代の独自概念を生み出すために基本的材料選択とシステム構築の概念を繰り返し議論し、みずからチャレンジすることが求められる」と述べられたのが印象的でした。
特別講演を頂いた丸川雄浄氏(大阪大学)は、最初に自動車用鉄鋼材料製造技術の展望と課題について述べられた後、「鉄鋼業における地球環境に関わる今後の研究開発課題」として、次の8つの案件を示されました。
- 高硫黄化石燃料の製鉄プロセスを使った環境配慮型脱硫方法の開発、
- 酸素製銑高炉法を起点としたジメチルエーテル製造法、
- 密閉転炉による高純度一酸化炭素製造、
- 石灰石焼成時の炭酸ガス高純度回収、
- 高温ガス顕熱回収のための研究開発、
- 鉄銅混合物の環境配慮型リサイクル法の研究、
- 非ニッケル系オーステナイトステンレス鋼の開発研究、
- ダイオキシンに配慮した資源・エネルギー回収法の研究。
これらを鉄鋼製造過程で生じる副次的生成物をいかに無害化または有効利用するかという視点で述べられました。特に、1.3%-3%の硫黄を含む石炭を使う中国では(日本で使用している石炭の平均硫黄量は0.5%)のSOx問題が一層深刻化する懸念への対応策として、「製鉄での強還元高効率脱硫」を応用した「環境配慮型エネルギープラント技術開発」の新技術開発提案をされたことが印象に残りました。「東アジアの特殊性を考慮した材料技術課題に取り組むべき」という超鉄鋼研究センターの姿勢と正に一致するもので、重要なご提案を頂いたと受け止めました。
超鉄鋼研究センターでは、材料技術に関する話題提供と討論の場として超鉄鋼フォーラムを引き続き企画開催していきます。HPや電子メールを通してご案内致しますので、どうかご参加下さい。最後に、当日ご講演頂いた6名の講師の方々、討議に参加された方々に深く御礼申し上げます。
「21世紀の工業製品材料の概念」 (基調講演) |
名古屋大学 武田 邦彦氏 |
「自動車材料技術の将来展望−LCAの視点から」 |
いすゞ自動車 河西 純一氏 |
「自動車用鉄鋼材料製造技術の将来展望と研究課題」、「鉄鋼業における地球環境に関わる今後の研究開発課題」
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(特別講演) 大阪大学 丸川 雄浄氏 |
「自動車部品用アルミ合金の技術動向と特徴」 |
神戸製鋼所 稲葉 隆氏 |
「衝突安全性能と自動車用材料」 |
本田技術研究所 東 雄一氏 |
「自動車燃費向上のための材料技術」 |
日産自動車 岡田 義夫氏 |
(副センター長 津ア 兼彰)
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