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物質・材料研究の『使える!メールマガジン』
vol.133
2023.2.8
六方晶窒化ホウ素(hBN)の写真
今月の一枚
hBNの あられ
寒雲から落ちてくる霰のような物体は六方晶窒化ホウ素(hBN)。世界でNIMSだけが作り出すことができる純度99.9999%の高品質hBNは、非常に平滑な表面を持った絶縁体という特殊な性質から、炭素原子一層から成るグラフェンの土台として欠かせない物質となっている。NIMSはこれまで25か国、300以上の研究グループにこのhBNを提供、世界中のグラフェン研究を支え続けている。
for more detail
★ニュース(2022.9.30)『2022年「クラリベイト引用栄誉賞」をNIMS研究者2名が受賞』
★NIMS発の高純度hBNとその開発者・谷口尚研究員の記事・報道一覧
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HOT TOPICS(NIMSの旬な情報)
 
研究者の目のつけどころ Vol.8
「粘土ナノシートによる青果物の長期保存技術」
 
オトナの科学本
『WAYFINDING:道を見つける力』
 
HOT TOPICS
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DICEの図
データ駆動型マテリアル研究を促進!
「DICE」のデータ収集・蓄積機能が大幅強化
プレスリリース 1/17
高品質なマテリアルデータの収集や利活用を目的に、NIMSが運営する材料データプラットフォーム「DICE」。この度、システム基盤をパブリッククラウドに移設して、研究データを自動的に構造化・蓄積するシステム「RDE」の追加、物質・材料データベース「MatNavi」の改良を行い、ユーザーの利便性を大幅に向上させました。今後もサービスの更なる展開・拡充を行い、データ駆動型のマテリアル研究を強力に後押しします!
GREEN(エネルギー・環境材料研究拠点) “熱”技術の最先端が分かる! 
GREENシンポジウム参加者募集中

来る3月1日、NIMSにてエネルギー・環境材料研究拠点(GREEN)主催のシンポジウムを開催! 今年は「世界を先導する熱電発電・熱制御技術」をテーマに、材料開発、新現象、インフォマティクス、先端計測、デバイス設計、アプリケーション創出など多彩な研究成果を、NIMS内外のトップ研究者が語ります。参加費は無料(要事前予約、2/24締切)。“熱”技術の最先端をご体感ください!

 
....and more!
 
FAST材熱電発電モジュールの写真 FAST材を適用した熱電発電モジュールで
小電力路車間通信に成功
プレスリリース 1/24
 
高エネルギー密度なリチウム空気電池の劣化反応機構の写真 高エネルギー密度なリチウム空気電池の
劣化反応機構を解明
プレスリリース 1/31
 
NIMS公式ウェブサイト
 
TECHNIQUE
技術革新のキモ、ここにあり!
研究者の目のつけどころ
粘土ナノシートによるリンゴの被膜の写真
Vol.8
粘土ナノシートによる
青果物の長期保存技術
~粘土の膜が鮮度を保つ!? フードロス削減&食糧危機に備える新戦略~
 
冬の味覚の代表格「リンゴ」。色つやが良く、甘みの強い旬のリンゴを、鮮度はそのままに長期間、保存することができたら——そんな“美味しい話”が現実になるかもしれない。
食品の長期保存につながる新技術を開発したのが、NIMSの江口研究員だ。江口は地球上に遍在する粘土「層状アルミノシリケート」を使って、青果物の腐敗を防ぐことに成功した。
層状アルミノシリケートは、化粧品や薬、鉛筆の芯やガラスなど、私たちの身の回りの様々なものに添加されている物質。その多くは通常、二次粒子の状態で使われているが、二次粒子を適切に処理することで厚さ1nm(ナノメートル)の平滑な粘土ナノシートを得られる。ただ、その用途は有機ポリマーなどでできた別の膜の特長を向上させる添加剤にとどまっているのが現状だ。 層状アルミノシリケートの写真
層状アルミノシリケートの粉末。食品添加物として認められている種類もあるうえ、青果物に被膜しても水で簡単に洗い流せるため、人体への影響も少ない。
また、粘土ナノシートを加工して膜を作ることもできるが、単独の粘土膜としての研究例はほとんどなかった。
そんな中、「ナノシートには、二次粒子とは全く異なる物性があると確信していた」という江口は、粘土ナノシートから成る膜の酸素透過性に着目。
粘土膜の写真
粘土膜とその層の化学構造。粘土膜は層状アルミノシリケートの粉末を溶媒に溶かし、基板に滴下するだけで得られる。
粘土ナノシートの粒径を変えながら酸素透過のメカニズムを探ったところ、粒径数十nmの膜が、青果物の保存に適した低濃度酸素状態(酸素等のガスを適度に透過する状態)を作り出すことを見いだした。 そこで、この粘土膜をリンゴ表面に塗布して成膜し、発生するガスや見た目の変化の違いを約3か月にわたって観察。
すると、無被膜、食用ラップ被膜のリンゴには果肉の軟化やカビが見られたのに対し、粘土膜被膜のリンゴにはそれらが見られなかったのだ。「粘土ナノシートが外部からの酸素供給を抑えて、果実の熟成やカビの生育を防ぎ、また、果皮表面と強固に密着することで、成長ホルモンであるエチレンの出入りを抑制したものと考えられます」と江口。
現在、この技術をフードロス削減や食糧危機の備えの一助とすべく、青果物の流通に組み込むことを目的に更なる研究を進めている。
「ガス透過性の最適化をはじめ、適用できる青果物の範囲を広げる、膜に別の機能を付与するなど、様々なアプローチで取り組んでいます」(江口)。
江口美陽研究員の写真
「青果物をガスバリア膜で直接被膜したとき、それらがどのような反応を示すかはほとんど知られていないと思います。これをきっかけに新しい学問領域として開拓していきたい」(江口美陽研究員)。
ナノサイズの目には見えないほど小さな粒径を持つ粘土ナノシートが、私たちの食生活を大きく変えていく日は、そう遠くないかもしれない。
もっと知りたい! 粘土ナノシートのキモ
★プレスリリース(2022.3.8)「粘土でリンゴの鮮度を保つ」
★メソスケール物質化学グループHP
BOOK
どっぷり浸かるサイエンスの世界
オトナ科学本
本の表紙写真『WAYFINDING:道を見つける力』と轟研究員
『WAYFINDING:道を見つける力』
M・R・オコナー 著/梅田智世 訳
インターシフト(合同出版) 発行
 
コロイド結晶材料グループ・轟研究員のおススメ!
目的の場所にスマホを見ながら行ってみたら、実際には道がなかった——GPSを過信した故にこんな体験をした著者が、GPSがなかった時代に、どうやって人間が道を見つけ、移動していたのかを、膨大な取材と最新科学を元に考察しているノンフィクションです。
氷に閉ざされた北極圏や広大な砂漠など、何もないような場所でも、人間は鋭い観察力や記憶力、先祖代々の伝承から得た感覚などを頼りに移動し、大地とつながって生き延びてきたのだそうです。特に印象的だったのが、オセアニアの島から島への航路の話。「そんなことで、どっちに進めば良いかがわかるの!?」という方法で、海の上を行き来していたというのだから驚きです。詳細は本を読んでいただくとして、そもそも人間は、道具がなくても、道や空間を認識できる能力を持っていたんですね。でも、もし今、GPSがなくなったら? 電気が使えなくなったら? 私たちは何もできなくなってしまう。道具が進化した一方で、人間は本来持っている能力を失いつつあることに気づかされました。
道や空間の認識能力の他にも、科学の進歩によって、私たちが失ってしまった能力があるかもしれません。それに、科学技術は便利ですが限界もあり、科学によって幸せになっているかと言えば、そうとも限らない——こんな答えのない問題を深く考えるきっかけになる一冊です。
 
あらすじ

今や私たちの移動に欠かせないGPS。しかし、その利便性と引き換えに、私たち人間は本来の大切な能力を失いつつある——。脳科学、人類学、心理学など様々な観点から、ナビゲーションと進化をめぐる壮大な探求をつづった科学ノンフィクション。

 
— 読書案内人 —

轟 眞市(とどろき・しんいち)

機能性材料研究拠点 光機能分野 コロイド結晶材料グループ 主席研究員

「ガラス」と「光」を専門に、長年、光ファイバーの研究に従事。現在は新たに「情報」をテーマに加え研究活動を続けるとともに、NIMS公式YouTubeチャンネル「まてりある’s eye」の海外版(英語・フランス語・スペイン語など)の監修を務め、NIMSの材料研究を世界へ発信している。

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