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物質・材料研究の『使える!メールマガジン』
vol.126
 
2022.6.8
ゲルマニウム表面の写真
今月の一枚
ゲルマニウム表面にできた水たまり

雨上がりの水たまりのように見える物体——ゲルマニウム基板上に堆積した銀の薄膜(厚さ約100nm)を約650℃で加熱することで、銀が液体化して固まった表面の様子だ。NIMSでは、ゲルマニウムを用いた2次元材料「ゲルマネン」の優れた物性を電子デバイスなどへ応用すべく、大気中でも安定して存在するゲルマネン合成の研究を進めている。

HOT TOPICS
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磁石MOP会見の写真
NIMSと磁石メーカー4社による磁石MOPが発足
プレスリリース 5/30

2017年以降、民間企業の持つ「基礎研究所」の一端を担い、産業界とアカデミアをつなぐマテリアルズオープンプラットフォーム(MOP)を運営してきたNIMS。この度、新たにTDK(株)、大同特殊鋼(株)、信越化学工業(株)、日立金属(株)の4社と、磁石MOPを設立しました。今後、磁石メーカーで必要とされる共通基盤研究等を、磁石MOPを通じて、アカデミアと連携しつつ進めていきます。

NIMS トナリエ特別展のイメージ写真
ご来場プレゼントもあります♪
特別展・ファイナル実験ショー!

6/26をもって終了する、つくば駅前「トナリエ クレオ」でのNIMS特別展示。最後の週末となる6/25(土)・26(日)の2日間、NIMS実験隊による実験ショーを開催します。会場でアンケートに答えてくれた先着200名様にNIMS特製「材料のチカラでアイス食べやすいスプーン」をプレゼント! ぜひお越しください!

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医療用接着剤の写真 温めて塗るだけで傷を治す医療用接着剤を開発

プレスリリース 5/19

多孔性炭素ナノシートの合成プロセスの図 全身孔あきで極薄の炭素シート合成に成功

プレスリリース 6/3

NIMS公式ウェブサイト
DEVICE
NIMSが誇る装置をピックアップ!
NIMS装置図鑑
量子ダイヤモンド成長装置の全体写真
Vol.8
量子ダイヤモンド成長装置
~ダイヤモンドで簡便に脳磁測定! 脳科学の未来を担うNIMSオリジナル装置~

脳から発生する極微量な磁場(脳磁)を、高感度で感知する超伝導量子干渉計(SQUIDs)。脳にある病変の位置を確認したり、神経伝達をはじめ脳の様々な機能を観測するなど、現代医療に欠かせない機器だ。ただ、SQUIDsは測定にヘリウムを使った極低温環境が必要なために利便性やコスト、また患者が数時間束縛されるために負担面でも課題がある。

脳磁測定をもっと簡便にできないか——今、帽子のようにかぶるだけのウェアラブルな脳磁場測定機器が、世界中で待ち望まれている。その実現に不可欠なのが、NVセンターを含んだダイヤモンドだ。ダイヤモンドは炭素のみでできている結晶だが、窒素(N)と空孔(Vacancy)から成るNVセンターを結晶内に的確かつ高濃度に配置することで、その量子効果を使って脳磁のような非常に小さい磁場を高感度で感知できるようになる。

NVセンターを作る上でまず重要なのが、必要な窒素をできるだけ多く含み、それ以外の不純物が極めて少ないダイヤモンドを作ること。そこでNIMSの寺地研究員が開発したのが「量子ダイヤモンド成長装置」。ガスを使って下地基板上に薄膜を成長させる気相成長装置で、高純度なダイヤモンドを作製できるよう全てがNIMSで設計された。

ロードロックチェンバーとメインチェンバーの写真

ロードロックチェンバーからメインチェンバーに下地基板を真空搬入することで、メインチェンバーが大気に触れる機会が最小限となり、ダイヤモンドを高純度化することが可能になる。

まず、右側にあるロードロックチェンバーの窓から下地基板(※注)をセット。ロードロックチェンバー内を高真空にしたら、ダイヤモンド成長を行うメインチェンバーに下地基板を真空搬送する(写真上)。メインチェンバー内に水素ガスとマイクロ波を導入して水素プラズマを形成し、続いてメタンガスを導入。水素とメタンが混合したプラズマによる反応からダイヤモンド薄膜の成長が始まり、およそ2週間で窒素含有のダイヤモンド結晶が完成する。

ターボ分子ポンプの写真
装置の裏側に設置した磁気浮上型のターボ分子ポンプ。大気中の不純物を排除した超高真空を作り出すほか、ダイヤモンド成長中にポンプ排気口側からの不純物ガスの逆流を防ぐ役割も担っている。

装置開発で特にこだわったのが真空ポンプ。通常、ダイヤモンド成長時の真空引きには、ブースターポンプ、ロータリーポンプの何れか、または、両方使用する。しかし、この装置にはそれらに加えてターボ分子ポンプを使用。特性の異なる3種のポンプで真空排気することで、大気中の不純物を徹底的に排除し、窒素以外の不純物を含まない高純度ダイヤモンドを実現した。

装置に加え、温度や圧力、ガスの供給量、プラズマ密度など細部まで条件の試行錯誤を繰り返し、現在は厚み0.3mm、直径5mmほどの窒素含有ダイヤモンドを安定的に作製できるようになった。

ダイヤモンド単結晶の写真

基板となるダイヤモンド(一番右)の上にできたダイヤモンド単結晶。

寺地研究員の写真
「脳磁計測を行うには量子特性に優れたダイヤモンドが必要です。現在、この要求にこたえるダイヤモンドは世界に存在しません。NIMS発のダイヤモンドで脳磁計測に成功したいですね」(寺地徳之研究員)。

「実用化に向けて、より大きく、より厚く、より高品質なダイヤモンドを成長する技術を追求しています。結晶成長には時間がかかりますが、一度に数多く成長させることで、この問題も緩和されると思います」と寺地。

これからの医療、脳科学の発展の要とも言えるダイヤモンドNVセンター。自前の最強の装置とともに、寺地の研究は続く。

(※注)下地基板は、比較的安価に作られた人工ダイヤモンドを使用する。その上に気相法を用いて量子ダイヤモンドを成長させる。

もっと知りたい! 量子ダイヤモンド成長装置のキモ

★NIMS一般公開2022:非常識な『ミカタ』
「ラボぶら10 “キズ”入りダイヤ。
実はそれこそ価値がある。」(6:01:10頃)

★プレスリリース(2019.3.22)
「ダイヤモンドの単一NVセンタの光電流検出に成功」

BOOK
どっぷり浸かるサイエンスの世界
オトナ科学本
\今月はコチラ!/
本の表紙写真「世界史は化学でできている」
「世界史は化学でできている」
佐巻 健男 著
ダイヤモンド社
ウェブ担当・Nのイチオシ!

もともと世界史が好きで、歴史が動くときや文明が進化するときに、必ず起こってきた材料や技術の進歩について知りたくて手に取りました。化学が世の中に与えたインパクトや歴史的背景が、短いチャプターでわかりやすく、簡潔に紹介されています。
印象に残ったのは、兵器や麻薬と化学の関わりについて。映画「フォレスト・ガンプ」でも登場するナパーム弾の組成と人間や自然に与える甚大な被害、また、覚せい剤の成り立ちや常習性はあまりに衝撃的で、読んでいて恐怖を感じました。いつの時代も、科学にはこういった負の面がつきまといます。一方で、科学のおかげで私たちは豊かで便利な生活を享受している——科学自体には正しいも間違っているもなくて、結局のところ、それをどう使うかは人間の心のありようなんだ、と思い知らされました。
本には、化学を、兵器などに利用することを拒否した科学者の話も出てきます。化学の歴史が分かるだけでなく、人間の本質を改めて考えるきっかけにもなると思います。

あらすじ

「化学は人類を大きく動かしている——」。知的探求としての化学と、人間の夢や欲望を叶えてきた実学としての化学の歴史を、図やイラストを交えながら柔らかく解き明かしたベストセラー。

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