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物質・材料研究の『使える!メールマガジン』
vol.123
 
2022.3.9
大豆成分の粒子の写真
今月の一枚
大豆成分の粒子でできた3色だんご

お花見のお供「3色だんご」のようなこの物体は、大豆由来のリン脂質を用いて作った粒子(粒子径は約10マイクロメートル)。偶然、棒状物質とくっついて串にささったような形状に。その瞬間を、電子顕微鏡で捉えた。この粒子を使って、NIMSでは医薬品分子を体内に効果的に届けるドラッグデリバリーの研究を行っている。

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科冷却水のグラフの写真
水には2種類の液体があった!?
水の不思議な性質を解き明かす!
プレスリリース 2022/2/10

物質を冷却すると体積は小さくなりますが、水は約4℃を境に体積が膨張していきます。この性質は400年以上前から知られていたものの、未だ科学的解明には至っていません。今回、NIMSはトレハロース水溶液の体積測定を行うことで、水には低温で異なる2つの液体状態が存在することを証明。水が持つ不思議を解き明かす成果として期待大!

キッチン計りの写真
単純だけどスゴイ! 
キッチン計りを分解してみた!

NIMS公式YouTube『まてりある’s eye』で人気の「容赦ない分解シリーズ」、新作が配信中! キッチン計りを分解してみたら……針金と電気だけ!? シンプルだからこそ、なるほど!と思わせるメカニズム、ぜひご覧ください!

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電極触媒解析における手法の違いの図 データ駆動型電極触媒解析アルゴリズムの開発

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銅・ニッケル系コアシェル型インクの写真 耐酸化性を向上した銅・ニッケル系コアシェル型インクを開発

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今、この材料がアツい!
嗅覚センサーMSSの写真
Vol.8
嗅覚センサー「MSS」
~息を吹きかけるだけで健康診断!? ニオイを高感度に検出する次世代嗅覚センサー~

花や料理など華やかで心地よいものから、カビや腐敗などから発生する不快なものまで、私たちの生活に密接に関わっているニオイ。そのニオイには、なんと40万種類以上とも言われる豊富な情報が含まれている。その成分を高感度にキャッチし、解明する「嗅覚センサー」を開発することで、例えば、果物の熟度を判定したり、呼気で日々の健康チェックをしたりなど、私たちのQOLを向上させる様々な応用が期待される。
しかし、ニオイ成分の複雑さや、漂っては消えるという不安定な性質から、高感度な嗅覚センサーの開発は非常に困難で、既存のセンサーでは、特定のガスを検出するなど用途が限られているのが現状だ。

どうすれば複雑なニオイの情報を検出し、詳細に分析することができるのか——ちょうど40年前、1982年から世界中で可能性が検討されてきたのが、生物の鼻の仕組みを応用した「嗅覚センサー」である。生物は様々なニオイの成分をまとめて検出し、そのパターンを過去の経験などに照らし合わせて、ニオイを判断している。

MSSの模式図の写真
MSSの模式図。緑色の感応膜部にニオイ分子が吸着するとたわみが生じ、周囲の4つのブリッジが素早く電気信号に変換する。

この嗅覚センサーの心臓部である「センサー素子」としてNIMSの吉川研究員が中心となって開発されたのがMSS(Membrane-type Surface stress Sensor/膜型表面応力センサー)だ。MSSは、特に嗅覚センサーとして使いやすい特性を網羅した理想的なセンサー素子となっている。

MSSチップの写真
MSSチップの顕微鏡写真。大きさはわずか1×0.5 cm。上部4つの緑色の部分がセンサー素子であり、ここに各種感応膜を塗布する。

MSSチップには、複数の感応膜を配したセンサー素子(左図)が搭載されている。このセンサー素子が、生物の鼻と同じ役割を担い、いくつものニオイ成分を検知して電気信号に変換。その信号を、生物の脳に当たる人工知能が解析し、ニオイを判別するという仕組みだ。この測定から解析に至る仕組み自体は40年前から大きく変わっておらず、原理的にはこの仕組みでニオイの検知・識別が可能であるはずだが、依然として嗅覚センサーは我々の日常に普及していない。つまり、この仕組みのどこかに問題が有るということだ。

NIMSでは、測定から解析に至る全ての要素についてゼロベースで慎重に検証を進めており、最近になってようやく嗅覚センサーを有効に利用するために必要な技術体系が確立されつつある。MSSを軸に、測定から解析に至る各要素を慎重に作り込んだシステムや測定条件によって、吉川らのグループは、他の研究機関や病院との共同研究を通じて、これまでに牛のエサの品質評価や健康状態のモニタリングや、呼気による健康診断、酒のニオイによるアルコール度数の判定など、多様な実証実験を行ってきた。また、将来的にスマートフォンなどのモバイルデバイスへの搭載に向けて、ニオイにMSSを近づけるだけでニオイの識別を可能にする技術の開発も進めている。

これらの研究開発と並行して、さらなる実験と技術の確立を図るべく、2015年に産学官連携体制「MSSアライアンス」、2017年には実証実験の場として「MSSフォーラム」を発足。現在は、「MSSフォーラム」を改組し、これまでの活動で得られた膨大なノウハウの普及と業界の活性化のために「オープンな情報交換の場」として運営している。

吉川研究員の写真
「難しいからこそやりがいがあります!」と吉川元起研究員。昨年には、大学との共同研究により、MSSと機械学習を組み合わせてニオイの可視化に挑むなど、新たな挑戦も始めている。また、MSS技術のさらなる展開に向けてNIMS発ベンチャーの設立も進行中。

「我々人間を含め、生物はいとも簡単にニオイの検知・識別を行っているので、つい勘違いしてしまいそうになりますが、ニオイの検知・識別はとにかく難しく、嗅覚センサーを開発するには膨大なノウハウが必要となります。この技術的なハードルを少しでも下げられるよう、MSSフォーラムなどを通じて、可能な限り情報共有を進めています」と吉川。
医療、食品、環境、安全——ニオイを高感度に検知することで、私たちはどんな未来を目にすることができるのか。そんな夢の技術に向けて、一歩ずつ着実に世界の最先端を切り拓いているMSSから目が離せない。

BOOK
どっぷり浸かるサイエンスの世界
オトナ科学本
\今月はコチラ!/
本の表紙写真「化学探偵Mr.キュリー」
「化学探偵Mr.キュリー」
喜多喜久 著
中央公論新社
プレスリリース担当・Iのイチオシ!

大学のキャンパス内で次々と起こる不可思議な事件を、大学随一の秀才“Mr.キュリー”こと沖野晴彦が、持ち前の化学オタクぶりを発揮して解決していく、ミステリー小説です。排水の中から覚せい剤の成分が見つかるとか、教授の髪の毛が突然燃えるとか、化学式の暗号を解くとか、科学、とりわけ化学が好きな人にはワクワクするような出来事が次々と起こります。沖野自身は、面倒なことには首を突っ込みたくないタイプ。でも、卓越したトラブル解決能力から学内オカルト系サークルで“クイーン”と呼ばれる大学職員・七瀬からの依頼は立場上、断れず、一緒に事件を解決していくうちに、二人の関係が徐々に変化していきます。このミステリーとラブコメのバランスが絶妙で、どんどんハマってしまうんですよね(笑)。 
著者は修士課程修了後、製薬会社で研究業務をしていただけあって、科学的な内容もしっかりしていて勉強になります。また、ラボの雰囲気やポスドクの実生活の描写がとてもリアルで、学生なら共感する部分が必ずあるはずですし、理系の大学を目指す方にも参考になると思います。
さて最新刊の10巻では、とある国の王子である留学生が、七瀬にアプローチをかけます。それを知った沖野はソワソワし始めて……、あ、これ以上はネタバレになっちゃいますね。ぜひ読んでみてください!

あらすじ

シリーズ累計60万部を突破する人気シリーズ。キャンパス内で起こる様々な謎を、“Mr.キュリー”こと天才化学者が解き明かしていく学園ミステリー小説。

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