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分子の自己組織化のタイミング・構造・機能すべてを容易に制御

有機エレクトロニクス分野に不可欠な材料作成法に新技術

中西 尚志独立研究者とMartin J. Hollamby研究員らは、国内外の研究機関との国際共同研究において、有機エレクトロニクス材料分野の重要技術とされる#960;共役系分子の自己組織化のタイミングおよび得られる構造・機能を容易に制御できる新技術を開発しました。

中西 尚志独立研究者とMartin J. Hollamby研究員(現:イギリス・キール大学講師)らは、大阪大学、産業技術総合研究所、ポーランド・ワルシャワ工科大学、オランダ・アインドホーヘン工科大学、フランス・マックス-フォン-ラウエ-ポール-ランジュバン研究所、イギリス・ブリストル大学およびドイツ・マックスプランク-コロイド界面研究所の研究者らとの国際共同研究において、有機エレクトロニクス材料分野の重要技術とされる#960;共役系分子の自己組織化のタイミングおよび得られる構造・機能を容易に制御できる新技術を開発しました。その制御方法は、自己組織化させたいπ共役系分子の一部のパーツを添加するのみです。

有機エレクトロニクス材料の開発において、分子同士が自発的に組織立って配列する現象「自己組織化」は重要なプロセスです。しかしながら、有機エレクトロニクスの主要な分子材料とされるπ共役系分子はその強い分子凝集力のため、自己組織化の際に、適切な分子の並び方や最終的に得られる構造を精密に制御することは難しい。また、自己組織化させるタイミングに関しても、簡便で有用な方法は開発されていませんでした。今回の方法では、これらの問題を解決し、#960;共役系分子において一般的に適用できる分子設計および自己組織化技術の概念を見出しました。

今回は、π共役系分子の代表例であるフラーレン(C60)に、分岐したアルキル鎖を結合させました。つまり、あたかも界面活性剤(石鹸分子)の親水部がC60に置き換わったような分子です。この分子は室温で液状であるが、自身の一部分(パーツ)であるC60を添加すると自己組織化して多層シート構造を形成しました。逆にもう片方のパーツであるアルキル鎖を添加すると球状ミセルもしくはファイバー状構造を形成しました。つまり、この分子の異なるパーツを添加するだけで、自己組織化の起こるタイミングを制御し、得られる構造体も容易に制御できました。この現象は、π共役系部位がC60以外の分子でも確認しており、π共役系分子一般に適用できる自己組織化の新技法と言えます。

自己組織化に用いるπ共役系分子を常温液体にしておけば、予め様々な形状の基材表面に直接塗布できます。その後タイミングを図って分子パーツを添加することで、その場で自己組織化が可能となります。組織化して得られた多層シート状、あるいはファイバー状の構造体は、C60に由来する光導電性を示すことから、用途に合わせて必要な構造体の選択を行うことができます。本研究の成果は、目的に合わせた有機エレクトロニクスデバイスなどの作製を可能する新たな自己組織化技法として広く応用が期待できます。

本研究は、科学研究費補助金・新学術領域研究「柔らかな分子系」(領域代表:理化学研究所 田原 太平)の一部として行われ、英国科学雑誌「Nature Chemistry」 オンライン版(DOI: 10.1038/nchem.1977)で日本時間平成26年6月23日2:00(現地時間22日18:00)に公開されます。


液状のアルキル-π共役系分子の自己組織化および光導電性制御の典型例.(a) 本研究で用いたアルキル-C60分子の化学構造.(b) アルキル-C60分子の写真(無溶媒下、室温で液状).(c) C60添加後の多層シート構造の高分解能TEM像(画像中の濃いスポットは配列した個々のC60部位に相当.)および模式図.(d) アルキル成分としてデカン溶媒を添加後のミセル構造の低温高分解能TEM像および模式図.(e) ヘキサン溶媒添加で得られるファイバー状構造の模式図(棒状ミセルがヘキサゴナル状に組織化し、さらにバンドル化してファイバー・ゲル化.黒塗り円部分:C60ナノワイヤの断面に相当.).




本件に関するお問い合わせ

独立行政法人物質・材料研究機構
国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)
独立研究者
中西 尚志(なかにし たかし)
Tel:029-860-4740
Fax:029-859-2101
E-Mail: NAKANISHI.Takashi=nims.go.jp
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日刊工業新聞(2014年6月24日19面)