菊池正紀

1) 研究テーマ

骨のナノ構造と組成を模倣した人工骨材料 ~骨代謝に取り込まれる人工骨~

 

2) 研究の概要

骨はナノサイズのアパタイト(リン酸、カルシウムを主成分とする無機物質)結晶と、コラーゲンというタンパク質(有機物質)が、お互いに向きを揃えて並んだ構造を基本にした、典型的なナノ複合体です。アパタイトセラミックスは生体活性材料として現在人工骨に使われていますが、これはほとんど吸収されません。しかし、同じようにアパタイトが体積換算で約半分含まれている骨は古くなった部分が常に吸収され、新しい骨に変わっています。これは骨リモデリング代謝と言うものですが、そのお陰で、骨はいつまでも疲労せずに強い状態でいられます。
さて、同じアパタイトなのに、片方が吸収されて、片方が吸収されないのは何故でしょうか。それは、アパタイトの結晶の大きさと、その結晶がどのように集まっているかによって決まってきます。簡単に言うと、粉砂糖はすぐ溶けるけど、角砂糖になると溶けにくくなり、氷砂糖は溶かすのにもっと時間がかかるのと同じことです。骨の中のアパタイトは、とても小さい20から40ナノメートル(10万分の2から10万分の4ミリメートル)の結晶から出来ていて、それがコラーゲン分子の上に綺麗に並ぶ事で「骨」という固まりをつくっています。ですので、身体の中で細胞が古くなった骨を吸収しようとした時には、小さなアパタイト結晶の回りにたくさんの液体が自由に入り込めるので、アパタイトの結晶は同時に溶けはじめます。また、結晶が小さいので溶けるのに時間もかかりません。一方、アパタイトセラミックスは大体1マイクロメートル(1000分の1ミリメートル)くらいの結晶からできています。それが、みっちりと詰まった状態になっているので、表面にあるアパタイト結晶から溶け始めることになります。結晶のも大きいので一つの結晶が溶けるのにも時間がかかります。
このことは、骨は生理的に活性が高く、アパタイトセラミックスは活性が低いと言うことにも繋がります。そこで、我々は、骨とよく似た組成と構造の材料を開発し、細胞が自分の骨だと勘違いするような材料を目指して研究を進めています。
実際には、水酸化カルシウム、リン酸、コラーゲンを、pHと温度を制御した反応容器に同時に滴下することで、コラーゲン分子の上にアパタイトのナノ結晶を析出させて、お互いがお互いの糊になるかのようにアパタイトとコラーゲンの複合体を形成させます。すると、アパタイトとコラーゲンがお互いの表面同士の相互作用で骨と同じように並んだ綺麗な複合体の線維ができます。これをうまく固めると、緻密体、多孔体、シートなど様々な人工骨材料にすることができます。多孔体は水に濡らすと、力に応じて変形し、力を取り除くと復元する、スポンジのような性質を示します。この多孔体は,現在企業が実用化を進めています。
この人工骨は、骨の欠損部に埋めると、細胞が自分の骨と勘違いしてしまうため、骨リモデリング代謝に取り込まれ、本当の骨に変わっていきます。この様に、身体が埋めた材料に対して自分の骨を埋めた時と同じ反応を示すようなものは、この複合体が開発されるまで知られていませんでした。この性質を生かし、従来の材料では治せないような大きな骨欠損を再生できる材料の開発を進めています。

 

3) ホームページアドレス

http://www.nims.go.jp/bmc/
http://www.nims.go.jp/bmc/group/ceramic/index.html

 

4) 研究者の氏名とアドレス

菊池正紀
KIKUCHI.Masanori@nims.go.jp

 

5) 学会情報

日本セラミックス協会
同 生体関連材料部会
日本バイオマテリアル学会
MRS

 

[Top]


  • 独立行政法人
物質・材料研究機構
  • Competence in Bionics
  • 日本粘土学会