• 北海道大学生命科学院
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研究概要

生命科学とナノテク・材料科学の融合

我々の挑戦は、オリジナルな生物学的発見を、オリジナルな材料技術あるいはナノテク技術と融合させることによって、社会に有用な技術として応用することです。生命科学とナノテク・材料科学の融合には2つのアプローチがあります。ひとつは、生命科学における重要な知見をナノテク・材料科学を利用して技術革新につなげるというアプローチです。もうひとつは、ナノテク・材料科学を利用して生物学的に重要な知見の発見につなげるというアプローチです。これら2つのアプローチにより研究を遂行するためには、次のような基盤技術を用います。

1.研究に必要なキーテクノロジー

①網羅的な遺伝子の発現解析技術

生物学的に重要な知見のヒントを得るために、DNAマイクロアレイを用いて網羅的遺伝子発現解析を行います。この解析では、約22,000遺伝子の発現データが得られます。これらのデータから様々なアルゴリズムにより必要とする情報を得ます。 当グループでは、生体材料等の評価にもDNAマイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析技術を応用しています。

②タンパク質間相互作用解析技術

多くのタンパク質は他のタンパク質と相互作用し、機能を発揮するための複雑なネットワークを形成しています。網羅的な遺伝子発現解析で見出された遺伝子の産物が、どのようなタンパク質と相互作用してどのようなメカニズムで機能を発揮するのかを調べます。

③バイオイメージング技術

タンパク質の相互作用や局在など、そのタンパク質が機能するときの挙動を可視化する技術です。タンパク質機能の時間的および空間的な変化に関する情報を得ることによって、材料設計へのフィードバックが可能になります。

2.材料・ナノテクに関する基盤技術

①表面技術

様々なナノ・マイクロ構造を有する表面、電荷の異なるパターン表面、親水性の異なるパターン表面などを作製する技術です。

②ナノ粒子・ナノチューブ技術

細胞機能を制御するための粒径や細孔径を制御した中空メソ細孔シリカナノ粒子、メソ細孔シリカナノチューブなどを作製する技術です。

研究課題

1.ディスカバリーゲノミクス
DNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析により、骨芽細胞の分化マーカーとなる新規膜タンパク質を発見し、幹細胞から分化させた骨芽細胞の単離と再生医療への利用に関する研究を行っています。また、この膜たんぱく質遺伝子を指標とした人工骨の性能評価を行っています。
様々な機関との共同研究により、疾病に関与する遺伝子の探索を行っています。東京都臨床医学研究所・小池智プロジェクトリーダーとの共同研究において手足口病の原因ウイルスであるEV71のレセプターを発見しました。
2.Toll-Like Receptor 9 (TLR9)のCpG認識メカニズムと花粉症予防への応用
TLR9は様々なDNAと結合しますが、CpGが結合したときのみシグナル伝達が起こります。TLR9が1本鎖オリゴDNA(ODN)のCG配列をどのように認識するのかについて調べています。
TLR9の活性化は、花粉症など様々なアレルギー疾患の治療に有効であることが示唆されています。TLR9を活性化させるために、そのリガンドであるCpGを投与しても、体内のヌクレアーゼで容易に分解されるので、その効果は望めません。従来知られているCpG配列よりも活性化が高く、かつ体内で安定である新規のODNの探索と、運搬のためのナノ粒子に関する研究を行っています。
3.ナノ粒子の細胞毒性に関する分子メカニズム

近年、ナノ粒子を含んだ製品は飛躍的に増加していますが、ナノ粒子の安全性に関しては基準がありません。我々は、ナノ粒子で曝露された細胞の網羅的遺伝子発現解析から、ナノ粒子の細胞毒性に関する分子メカニズムを解明しています。

4.アポトーシス誘導タンパク質の時間的・空間的変化の観察と生体材料への応用

FasとFasLの結合によるアポトーシス誘導シグナルには、細胞膜上のマイクロドメインの形成が重要であることが示唆されています。Fas‐FasL複合体形成過程の挙動を観察することによって、アポトーシス誘導におけるマイクロドメイン形成の役割を解明し、マイクロドメイン形成を制御する材料開発に応用する研究を行っています。