このHAp/Col自己硬化型ペースト骨補填材は、HAp/Col多孔体よりも賦形性に優れ、低侵襲手術や3次元プリントにも対応できるHAp/Colを目指して研究を進めています。
現在は、シランカップリング剤をペースト全体の質量の0.0043〜0.080%程度含有させて、HAp/Colとシランカップリング剤からなるハイドロゲルを形成することで硬化させています。
強度はあまり高くないですが、右図のようにペーストの作製直後(硬化前)にリン酸緩衝生理食塩水中に浸漬しても、崩壊率は、ほぼ全ての条件で1%以下であり、最も大きい粉液比1.5、シランカップリング剤水溶液濃度10 vol%(ペースト全体に対するシランカップリング剤の質量で0.0043%程度)でも1.3%程度とほとんど崩壊しませんが、これら全てのペーストは30分程度で硬化します。
また、注射器(シリンジ)にペーストを詰めると、粉液比 0.33では18G(ゲージ)の注射針(内径0.94mm)を通して、それ以外の粉液比ではシリンジの先(内径1.8mm)から簡単に押し出すことができます。つまり、そのような条件のデバイスを用いれば、低侵襲手術や3次元プリントに応用できるということです。
なお、HAp/Col自己硬化形ペーストは、福岡歯科大学の佐藤平講師、都留寛治教授、九州工業大学の城﨑由紀准教授と進めている研究です。
最も心配だったのは、シランカップリング剤が生体に対して悪さをしないか、あるいはHAp/Colが骨に置き換わるのを邪魔しないかと言うことでした。
そこで、当時佐藤講師が在学中だった明治大学の相澤先生、長嶋先生のご協力の下、ブタ脛骨に骨孔を空け、粉液比1.0、シランカップリング剤水溶液濃度1.0%と10%の2種類を2カ所ずつに直接注入して3ヶ月間、経過観察を行いました。
観察期間中にブタはとても元気であり、3ヶ月後にペーストを入れた部分を直接観察すると、ペーストがどこにあるかわからず、骨と置き換わっていました。また、周囲に炎症などの悪影響の痕跡は見られませんでした。
CTで骨の部分を観察すると、左の画像のように、元々の豚の骨と区別がつかない状態になっていました。
したがって、HAp/Colペーストは使用したシランカップリング剤の悪影響が全くなく、3ヶ月程度で骨に置き換わる材料であることがわかりました。